とある小説のキャラクター
「おいおい……、本当に一人で"原理教"の幹部殺っちゃったよ……あいつマジで学生か……?というか動きとか諸々、うちの学園の講師陣より速かった気がするが」
「……それにLV8の制御魔法をなんか強制キャンセル?してましたケド……。方法は皆目解りませんデスが……」
俺と宗教テロリストの戦闘を遠巻きから眺めていた二人の級友達が、幾分困惑した様子で囁き合う。
銀髪オカッパ頭で少々目つきの悪い痩身の男と、黒髪ロングで呪われたような目つきの体の色んな部分のサイズが素敵にデカイ女。
軍事ヲタクのリドル・カイト(♂)と、天才リケジョの黒縞瞳子(♀)である。
「そもそも、そんな方法存在すんのかよ……LV8は現時点で学園内最上位魔法、つまり先進国側にとって切り札ともいえる技術だろ……」
「私に訊かれましてもね……確かに目を疑う以外に反応のしようもありませんが。それどころか一方的すぎて殆んど戦闘にすらなってないような状態でしたし」
カイトと瞳子の両名は、学園高等部の中でも魔法・軍事技術に対する深い造詣によって一目置かれているが、その彼らであっても、今この場所で起きた一連の現象は全く理解の外といったところだろう。何しろ、教科書ならぬ漫画を片手に授業に参加しているような一介の不良転校生が、プロで熟練の狂信者野郎をフライパンの上のパンケーキ扱いでコテンパンにしたのだから。
もちろん、この星の先端技術(魔法)の範疇で説明できない現実を目にして少々取り乱したとしても、彼(彼女)らには何の咎もありはしない。本来、我々アーキテクチャーの使いが鑑賞に訪れる現実空間など無いに等しいのだから。善良な思考力を持った一般市民にとっては、その星の文明水準だけが真実であり、その枠に収まらないものはオカルトと呼ばれるのが常だ。そして、今この場において、彼(彼女)らの技術水準ではオカルトと呼ばれざるを得ない現象が、どうしようもないリアルとともに現前しているのだ。当然、学園の上層部だろうが、地球を影から操る謎の財団だろうが、"判断保留"の四文字に揃って甘んじなければならないこと必然だろう。
「あいつ、もしかして最近流行りの都市伝説“オーバーロード”ってやつか?星から星へと渡り歩く、超文明の住民っていう」
「なんでそんな大それた存在がうちの学園に通ってるのですよ……。それに"都市"伝説にしては少々スケールがでかすぎます。本人曰く、私と同じ生粋のジャパニーズらしいッスよ?昼休みはいつもベントー食べてますから。殆んど無表情で」
「ジャパンってどこにあるんだっけ……。ユーラス大陸?つか、あいつの見た目どっちかってーとオーセン大陸人っぽいが……」
「ジャパンはあれですよ。東のほうに……島国で。極東の……そう、右のほーうにあるんデスよ……?詳しくは解りませんが……アニメとかスシロールとか色々……」
人差し指と中指でメガネの位置を調整しながら、あさっての方向に視線を向け、自信なさそうにモゴモゴ呟く瞳子。
「お前さ……生粋のジャパニーズじゃないのかよ……」
「せ……生物学的にはそうですケド……実際には行った事ないデスからね……。それほど興味ありませんし……」
そう言葉を投げ捨てると、ふてくされたような態度で開き直り、クルクルと髪の毛を弄っている。
「にしたって、東のほうではLV8の魔法を事も無げに無効化するやつらがゴロゴロいるのか……?あんな風に」
「そんなことになったら国家間のバランス・オブ・パワーがとんでもないことになりマスね。学園の提供する規格外の先端技術があってこその、今の国家間の安定的な秩序体系が保障されているわけデスから。例の大陸は別としても」
「じゃあ、あいつは一体何なんだよ。各国の特殊魔法部隊でも手を焼いている"原理教"の専属テロリストを、序盤ステージの雑魚キャラ扱いで一蹴するって」
眉をひそめながら心底解らないといった風情で、髪の毛をかきむしる。
「さぁ……知りませんよ……。学園上層部から特命を受けて派遣されてきたデザインチャイルドとかそういう……?」
「……ジャパンのアニメの見過ぎじゃねえのか?」
「ちょ……、少なくともオーバーロード云々よりは現実味がありますケド……!!?というか別にアニメとか見ないデスからね!!!」
瞳子が心外極まりないといった風情を表情筋めいっぱいに滾らせながら反論する。黒縁メガネの枠からはみ出そうな程大きく見開かれた瞳を血走らせながら、威圧するようにカイトを睨め付けている。
「お…おぉ…まぁ、そうね……」
自分より頭一つ分ほどでかい巨女に凄まれ、カイトは怯みつつも何とか返答する。瞳子の腰まで届くような黒髪が、重力に逆らい地獄の業火の如くユラユラ揺れているように見える。異端オーラをまとった黒魔女のようなこのリケジョは、一部の学生の間では熱烈な人気を誇るらしい。だが並の学生が彼女に関わったとしても、精神的にも肉体的にも押し潰されるのが関の山だろう。カイトも相当な変わり者ではあるが、この色んな意味で狂気の密度が高い黒魔女に比べれば常識人といっても差し支えない程だ。ちなみに魔女といってもオカルトには一切興味はなく、偏執的なまでの合理主義者、先端(魔法)技術に熱を上げる正真正銘のリケジョである。とはいえ白衣を着ることはないし、どちらかというと黒衣を纏ってネクロノミコン片手に佇んでいるほうが遥かに似合っている。
「というか、"弟"君のほうも何やら得体の知れないフィールドを発生させてましたケド……」
「魔法干渉を完全に遮断してたな。少なくともそう見えた。あれもLV8の魔法か?」
諦めたように思いつきの適当な言葉を、空間上の仮想のターンテーブルに並べるカイト。
「光学シリーズを完全に遮蔽するLV8の魔法なんて存在しなかったはずデスよ」
足元に転がるガレキやら鉱石やらを神経質に蹴り飛ばしながら、眼を凝らして遠くの戦場跡を眺める。
「まぁ、レイン君は別にいいですよ。すごく可愛いデスからね」
危険な嗜好(思考)を多分に含んだ笑みを浮かべながら、そう怪しく呟くのだった。