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短編

夜想曲には届かない!

 理由なんかどうでもいいが、いろいろ理由があって今、神様とキャラメイク中。もちろんチートな俺のな!


 描写は省くYO?

 どうせテンプレなプロローグとか読み飛ばされるんだし、手を抜かせて欲しい。


 まぁ一言で言うと、神様のミスで暇つぶしに異世界の作った世界に風を吹き込むためにトラックに跳ねられて召喚の渦にホールインワンした俺が白い空間でロリジジイ。


 ここまで、問題ないね?

 幼女な女神じゃない所だけテンプレじゃなかったので拗ねてるわけじゃないです。ホントです。


『逃避は済んだかねかねかね?』

「はい。説明を続けて下さい」


 もちろん心が読めているらしい白いお髭の御爺様は、寛大な事に傷心の俺が落ち着くまで待っていてくれた。ババア口調で喋るロリキャラという偉大な存在があるが、それに対抗して舌っ足らずな口調でキモ可愛く喋るジジイというわけではない。心の中身が幼女なわけでもない。ただたんに性癖がそっちなジジイなだけです。

 だって、俺がこの白い世界にやって来た時にこう言ったんだもん。


『なんでお前が来るんだよ。あっちの子狙ったのにのにのに!』


 もちろんお約束通り、俺がトラックに轢かれたのは轢かれそうな子供を助けようとしてです。神様マジ道路交通法違反。


『天界に道路交通法はないないない!』


 あ、さっきからウザい事この上ない神様の語尾は、こう言う風に喋っているのでは無くて白い世界に響き渡るエコーです。


 あふれ出る涙をこらえてキャラクターメイクを進める。外見は今のままをちょっとだけ美化した感じで年齢は十代中盤って事で決定済み。神様特製のデジカメを受け取っていて、神様の性癖に沿った特定の条件の写真を色々撮って神様に送るという条件で、素晴らしいチートを授けてもらう約束を取り付けている。その替わり現地の神殿には立ち入らない約束という点がデメリットと言えばデメリットだ。ほら、神器デジカメがバレルとマズイから、いろいろと。


『現地の神にバレるととても怒られるのでのでので! カメラは自動的に消滅してついでにお前のチート能力も爆発四散するするする! ナムサン!』


 なんでナムサンだけエコー掛からないの。エコーナンデとか言いたいが、話が進まないのでそこはスルーする。


『チート能力は大きく分けて、三つ。ハーレム系とTUEEE系とNAISEI系になるなるなる!』


 いいねいいね!ハーレムはナデポできますか!


『その気になれば鉈で切りかかっても惚れられるナタデボとかもできるきるきる』


 何それ怖い。


『さらにナデポニコポ系のハーレムチートを極めれば、辿り着くのはガメポメポメポ!』


 なにそれ。ガメポ? それってとういうことですか?

 いい加減うっとおしいので残響音はカットする。でもずっと聞こえているので心の中で補完して欲しい。


 説明を聞いてみると、ガメポというのは「画面に入ると好感度があがる」という究極の能力らしい。視界に映れば初対面の幼女や猫でも発情し、義理の姉も実の妹もコンマ5ミリ秒で脱衣完了して襲いかかってくる。


『ショッピングモールなどに行った日には老若男女全てがアヘ顔でパイルダーオンしに飛びかかってくるぞ』


 ゾンビか。

 そんな強すぎる能力いらんわ。怖すぎるだろ。

 そうすると内政系だけど、NAISEIっていう表記だと落とし穴がありそうだし、ちょっと自信ないな。


『BAKAがNAISEIすると面白い事になる』


 うるさいな。どうせ富国強兵する知識なんてありませんよ。治水して開墾奨励する位しか思いつきませんよ。墾田永年私財法って必殺技みたいな語感でカッコいいとか思ってましたよ!


『必殺技が好きならTUEEEE一択のはず』


 そうだよね。自分の知識でいろいろやらなきゃいけないのは面倒臭いし、TSUEEEEにするよ。イージーモードで楽~に生きていきたい。


『ならば最強のTUEEEである超魔法を与えよう。広範囲の敵には右手にメテオ&左手にもメテオの一人ダブルメテオで、ぼっちでもよろしいですとも仕様』


 竜の谷でも滅ぼす気か。それにダブルで撃つのは耐性がついたとか言われて負けるフラグじゃないのか。


『ならばレベル偶数デスとレベル素数デスを身につけ、決して無敵ではない点で苦戦してみせることもできる安心設計でどうだ。レベル9の敵が出てきたら苦戦する振りを充分楽しむがよい。ただしこの世界はMAXレベルが10で伝説級。大国の宮廷魔術師とかでようやく9の世界。国王になっちゃうルートとか行かなければレベル9なんて接点ないので超安心』


 だめだめだよ。それに素数って事はレベル1の敵にもその単体超魔法効かないじゃねぇか。苦戦できるのは楽しそうだけど勝てないと意味無いし。それに使える魔法がデスだけとか、手加減出来無さ過ぎて使い勝手が悪い。もっと徐々に強くなるのがいいんじゃねぇか。ラーニング系とかないのか?


『ハイパーなストーリーになりそうだの。そうしよう』


 同意を得る事が出来て嬉しい。ラーニングの詳細だが、スキルを盗む感じかそれとも倒した相手の技を身につける感じかどっちがいいかな。


『どっちもメリットあるな。だが、喰らった技を覚えると言う基本に立ち返った形でも良いぞ?』


 痛そうだからいやだなぁ。


『いっその事、エロ系でラーニングという一挙両得なスキルにしたらどうだ?』


 具体的に!


『エロい事すると、相手のスキルが手に入る』


 それだ! 神様天才!


『もっと誉めてもいいんじゃよ?』


 神様ったらマジ神!


『お、おう。まったくもってその通りだから嬉しくもなんともないが気持ちは伝わってきた』


 じゃあさ、ラーニング以外にもなんか凄いの欲しい。ほら、非合法スレスレ一歩手前の二三歩先な写真撮る為にもさ、モテモテになるようなスキルとか女運とか!


『ふむ。それなら撮った写真の枚数に応じて能力値に補正を掛けるポイントを付けよう』


 いや、その写真を取る為にも、透明化とかさ。壁抜けとか時間停止とか。そういうのが欲しいです。


『ワシも欲しい』


 あ、はい。


 しかし、エロラーニング持ってて、写真と引き換えにステータスUPって素敵な大器晩成キャラだけど、序盤きつくないですか。軌道に乗ったら「チョロインGET! ⇒スキルコピーして写真も撮って補正ポイントも貰えたウレシイヤッター」になって、スキルと能力で無双してウハウハ! ってのは見えてるんですが。


『安心しろ。そうやって軌道に乗った頃にはエタる。世の中そんなもんじゃ』


 おおう。だから軌道に乗るまでの不自由を楽しめ、と。


『うむ。女の子GET出来なくても写真だけでもいいからな。公園とか水辺とかで妖精を激写して近所の人にヒソヒソされてもいいからデータだけ送っておくれよ?』


 いやですよ。合法的になんとかします。壁に張り付く能力とか手に入れて窓の外から激写とか。


『お前の合法は幅が広いのぅ』


 いやぁ、神様ほどじゃないですよ!


『わっはっはっは』

 あっはっはっは。

 


 そんなわけで、そこそこイケメンになった俺は全裸で荒野に降り立った。右手には神器カメラ。身を隠す物の一つもあるわけでなく。武器ナシ、防具ナシ、スキルは【スキルNT】のみ。なんだこの名前。


「ステータスボード、オープン!」


 とりあえずお約束として言ってみる。あ、でた。

 目の前に半透明の板。レベルに力に知性に賢明度そして運。全部最低値。正気度だけはMAX。ステータスポイント0ってのは……割り振るポイントがまだないって事だろうな。


「アイテムボックス、オープン!」


 なんもでない。


「インベントリ! 無限倉庫! 亜空間倉庫! 空間倉庫! 空間魔法!」


 なんもでない。

 たしかに、ステータスについては話がついてた。スキルをラーニングってのがいかにもゲームっぽくて忘れていたが、アイテムボックスの類に関するチートは貰って無かった。


「やばい。全裸だ」



 全裸のまま。嫌がらせの為に自分のセクシー過ぎる裸体を激写してから歩きだす。股間を葉っぱで隠そうとしたが、葉っぱが自然に張り付いてくれるわけも無く。何か紐のようなものがあればいいのだけれど、森の中に入るのは怖い。

 なにせ全裸だから。大きな葉っぱを取ろうと思ったら、足元のシダっぽい植物でふくらはぎチクチクしたし、ケモノ道とか細かい枝が一杯で何が刺さるかわからないし。せめて葉っぱのついた木の枝でも折ってこようと思ったけど、狙った枝に蛇がいたので止めた。もし毒とかあったら何処を噛まれてもクリティカルヒットだ。


 お約束としてモンスターに襲撃される女の子イベントでもあったら、襲撃が終わるまで隠れて見ていよう。ゴブリンとかオークとか繁殖力旺盛なエロゲモブの皆さんだったらとりあえず写真。力とかの能力を増やして、襲撃が終わったら服だけ奪おう。そうすれば、最初のイベントは失敗に終わるけど、次からはなんとかなる。

 能力最低の全裸の変態ではどうにもならないが、力を少し上げた服を着た紳士なら、力になれる事はあるはずだ。あれだ、捨てイベントってやつだ。


 もし、襲撃イベントがなくて、別のお約束として廃墟になった村とか見付けたら儲けモノだ。服くらいなんとかなるだろう。無くてもシーツとか布的なものがあれば紳士への一歩を踏み出せる。下着でもあったら写真撮れるし。下着写真だけじゃあのジジイは首を縦には振らないかもしれないが、年齢のストライクゾーンが低い替わりにシチュエーションの幅は広いのかもしれない。試す価値はある。


 普通に一般人に遭遇したらどうしよう?

 川の近くとかを歩いておくべきかもしれない。服が流されたとか言える。もしくは盗賊に身ぐるみはがされて命だけは助けてもらったという設定なら全裸の説得力があるかもしれない。同情されて服を融通してもらえると助かる。


 そんな風に、想定しうるパターンをシミュレートしながら歩いていたら……

 なんの事件も無く、大きな城壁を持った街についてしまった。これは想定外。


 門番っぽい人が検問の様な事をしているらしく、幌馬車が門の前で止められている。その後ろにも少し商人と思われる列が出来ている。

 この格好では出ていけないので、列が無くなるまで茂みに隠れて待つ。背中をポンポンと叩かれても無視して人がいなくなるのを待つ。門番さんに記憶喪失ですとか言ってなんとか保護してもらえたらいいのだけど。

 またポンポン叩かれる。

 そろそろ無視するのは無理だよね。ゆっくりと振り向くと、そこには門番の人と同じ格好をした屈強な男が三人。胸甲を付けて刺又を持った二人と、少し後ろに下がって監視しながら笛を持っている一人。隙の無いスリーマンセルです……


「お前怪しいな。こんな所に隠れて何やってた?」

「あの、気がついたら全裸で、あっちの方にいまして。自分が何処から来たのかとかも覚えてなくてそれで」

「それで商人を狙っていた?」


 やべぇ、俺が盗賊と思われてる!


「違います! 人が少なくなるのを待って門番の所に相談に行こうかと」

「自首しようと」

「違います! 助けて下さいって」


 盗賊じゃないんです本当です。なんか賞罰を確認する魔法の石とかあるんでしょ! 確認して下さいよとか思っていると、後ろに下がっていた一人が懐から六角形の半透明の宝石の様なものを取り出して喋り始めた。通信の魔法道具なのかな?


「不審者一名を壁外にて確保」


 不審者ですか。盗賊じゃなきゃいいや……



 衛兵の詰所みたいな所につれていかれて、根掘り葉掘り聞かれるが、身分や住所どころかこの世界の常識すらしらない俺は何も答える事が出来ないわけです。

 冒険者ギルドにも商人ギルドにも吟遊詩人ギルドにも登録されていない上に、体格がひょろくて住んでいる村の名前も言えない俺は農民でも無い。不審者扱いから、隣国の間者扱いにクラスチェンジしそうになったので必死になって自分が危険ではない事をアピールする必要が出てきた。


「そもそも、間者とかなら服はきますよね! 商人とかになって街を普通に歩けないと情報なんて手に入らないじゃないですか!」

「ほうほう、間者の手口に詳しいなお前」

「ほら! 本当に怪しい人なら、ばらしませんよね? そういう事は!」

「裏をかこうとしているのかもな」

「裏も表も無いですよ! 疑われないようにするんじゃないですかって事です! なんで間者が全裸で逮捕されるんですか、そんなヤツ居ないですって」

「ここにいるぞ」

「違います!」


 何を言っても信じてくれない事がこんなにも辛い。


「じゃあ、何であんな所に全裸でいたんだ。盗賊なんてのは俺達が定期的に巡回して街道の安全は確保しているんだ。もしそんなのがいるなら、何処で何人組のどういう面相の連中だったのか詳しく言ってみろ、今すぐ山狩りするから」


 なにこの安全な世界。詰んだ。


「も、モンスターに追われて服を囮にしながら」

「モンスターってなんだ。チュパカブラか、イエティか」


 尋問している人以外の男たちが笑う。モンスター、居ない世界ですか。詰んだ。


「お前、全裸の割には性能の良い撮影魔法機なんて持ってたじゃないか。あれは何処で盗んだんだ、ん?」


 カメラが異世界品じゃない……だと。この世界にはカメラと同じ魔法のアイテムがあるって事か。目の前で盗撮とかできないなぁ……と、撮影難易度が上がった事を嘆いていると、俺に天啓が走る。あのカメラで自分を撮っていたじゃないか!


「じ、じつは……」

「ほう、自白する気になったか」


 全裸になるのかキモチイイ事。そのまま表を歩くのが趣味である事。どんどん遠くにあるいていくうちに気がつけばここまで来てしまった事。持っていた撮影魔法機には、そんな全裸な自分の淫らな姿をうつしてあり、家に帰ってからその成果を思い浮かべてうっとりする予定だった事。何て名前の村なのかは絶対に言いたくない。家に連絡されたくないし、村の名誉の為にもそんな変態がいる村だと思われたくない。切々と語る。今捻りだした変態拗らせた若者という設定を。


 語り終えた俺が目を上げると、涙ぐむおっさん一人。うわぁという目をして引いている男二人。


「そりゃ、名前も住所も言えないよな」


 撮影魔法機の中も検められた。ばっちこーいなポーズを取る俺。足を組んで小指を噛むうっとりした表情の俺。全裸でリンボーダンスを踊る俺。なんで俺こんな写真撮ったんだろ。生まれてきてごめんなさい。



 釈放された。

 服を貰って、性癖は心に秘めて表に出すなよ辛いだろうけどと同情された。服は横縞々の囚人服だったけど、とりあえず紳士に一歩前進した。何か大事な物は失った気がするけれど。

 なんとかここから、ノクターンな展開に持ち込まないと。スキル奪わないと強くなれない。裸一貫は回避したけど、所持金は0。メシも食えない。さぁどうやってノクターンしよう。娼館か! 奴隷か! ナンパしてってのは難易度高すぎるなぁ。なにせ所持金ゼロからはじまる囚人服生活だ。こんな男に引っかかるのがいたらそっちの方が怖い。




「おーい、新入り! そろそろメシにすんぞ!」

「はーい、親方! コレ運んだらすぐ持って行きまーす!」


 お金の無い俺はお約束通りにギルドに登録した。ステータス最弱で戦闘技能も無い俺は、街中での力仕事を回して貰った。城壁にでかい石を運んで魔法セメントを使って積み上げていく現場だ。灼熱の太陽の照りつける中、重い袋を持って一日中往復するのはかなりキツイが、目的があればがんばれる。目の前のエロチートの為の資金と思えば、なんてことはない。


「新入り。今日の弁当はな、ちくわ天入ってんぞ」

「ちくわですか。あれは……ウマい」


 やかんに直に口を付けてお茶を飲む親方の言葉に、俺は汗を拭ってニヤリを笑みを浮かべる。この現場の良い点がこれだ。弁当が支給される。それもメシは大盛りだ。


「今日で一週間か。新入りは真面目に働いたな。来週からも来いよ!」

「はい、まだまだお金は必要なのでお世話になります!」

「よしよし、お前は根性あるから、来週からは足場組むの教えてやるからな!」

「ありがとうございます!」


 金が必要なのは誰だって同じだ。だが、身分証明書すら必要としない場末の職場は、それぞれ何らかの事情でお金が切実に必要な人達が集まって来ている。キツくても働かなければいけないから働くのだ。その中でヒョロいながらも必死で働く俺は、おっさんたちに可愛がられていた。有難いことだ。


「一週間分の給料、なんに使うんだ若者。なんか欲しいモノでもあるのか?」


 小柄だが針金を束ねて捩じった様な筋肉を持つ爺さんが尋ねてくる。周りの人は余計な事聞いてやるなよといった空気を出しているが、若いのに借金でもあるのかとか、病気の妹の為なのか、学費にするんですとか、ちょっといい話みたいな話のタネが聞きたいのだろう。


 すまないな、爺さん。


「はい、『おっぱいプラス』に行こうと思います」


 ザワっと空気が波立つ。まさか女の為とは。いや、最高の初体験の為なのか。

 そう、そこはこの街の最高級の娼館。


「……あそこは高けぇぞ?」

「スレスレで、足ります」


 おおおおぉぉぉという低いビート。


「スレスレってお前ぇ。一週間分の給料吹き飛ぶだろ。生きてけんのか」

「馬小屋にタダで泊めて貰ってます。水で身体も拭けますし、メシはここの弁当で一日一食腹一杯食えます。全力で突っ込めます」


 真剣な瞳。滾る精力。初めての体験の為に衣食住を投げ捨てて戦いに赴く戦士の姿がおっさん達には見えているのだろう。おっさん達の目が限りなく優しくなった。だが、ここでスキルを何か手に入れれば、そこからはイージーモードなのだ。大器晩成型は最初が辛い。ここからは俺のターンなのだ!


「行って来い。なんならトニオの紹介だと伝えるといい。良い娘を割り当ててくれる」

「ありがとうございます! でも大丈夫です。自分で選びたいんです」


 そうだろうそうだろうと優しく頷くおっさん達。俺は選びたいのだ。綺麗な子とかおっぱいの大きい子じゃない。戦闘系か魔法系は難しいだろうが、斥候系のスキルを持つ娘ならいてもおかしくない。後ろ暗い背景のある娘を引き当てたいのだ。スラム出身で【気配察知】とか【隠密】持ちだとか、そういうハズレっぽいのが俺にとっての当たりだ。高級な店にいくのは病気対策の為。


 そしてやってきた最高級のお店『おっぱいプラス』店名の由来は豊胸薬のレシピを開発してヒト山当てた錬金術師が初代オーナーだからだそうだ。莫大な金をつぎ込んで、自分の理想の女の子に手ぇ出す為に店を作ったという男気に敬意を表して、巨乳系で揃えられているという。

 一体どれほど理想が高かったのか、生涯童貞であったという初代の銅像に深く礼をして店に入る。さぁ、伝説の始まりだ!



 |そしてしばしの時間が流れ《キングクリムゾン》。


 所持金が0になりました。

 いやぁ、撮影にオプション料金とられんのね。でも、まぁ目的は達したから金なんて些細な事。


「ステータスボードオープン!」

 ステータスポイント0。新規取得スキル【演技】一体どういう事だってばよ?


『馬鹿者! エロイ写真なら何でもいいってわけじゃないぞ! ワシのストライクゾーンをお前なら理解していると信じていたのに! わくわく全裸で待っていた時間と楽しみにしていた気持ちを返せ! 返せよ!』


 頭の中にガンガン声が響く。神様必死過ぎ。


『あと、ロリ系とロリは天と地ほどの差があるから気を付ける様に! 清純派のプロと素人位違うからな!』


 お願い黙って! その路線で喋られると15禁の枠で収まらなくなっちゃう!


『カメラ渡したんだからその分いい仕事しろよ! カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!』


 わかりました、プロじゃダメって事ね。合法の範囲でステータスポイントを稼ぎたかったけど仕方ない。とはいえ、まずはスキルを手に入れないと話にならない。もう一週働いてつぎ込むとしよう。



 そしてまた三週間ほど時は流れ。

 新規取得スキルに【年齢偽装】【舌使い(対男性)】【ダメ男誘引】という使い道の無い技能が並んだあたりで心が折れた。プロの女性からスキルを得るのは無理だ。それに一日一食で肉体労働を続ける俺の身体はもうボロボロだった。職場のおっさん達も、二周目はまだ温かい視線だったが、三週目は冷ややかになり、四週目には怖ろしい物を見る様な感じになっていた。

 必死で働いては全額を風俗につぎ込み続ける俺に、トニオ爺さんは時間を割いて説教してくれたりもしたが、スキルが手に入らない俺は焦る気持ちばかりが募り、仕事でのミスも増え始めている。


 状況を打破しようと、神様の好むような写真を撮るために小学校を見学に行ったりもしたのだが、また逮捕されてしまった。

 このままだと、せっかくの暖かな職場で居場所すら失ってしまう。なぜか最初に世話になった門番さんがやたらと馴れ馴れしく食事を奢ってくれたり安物とはいえ服を譲ってくれたりしたが、そうそう世話になるわけにもいかない。


 俺はチートを諦めるべきなのだろうか。

 朝晩の冷え込みのきつくなった馬小屋で、湿った寝藁をかき集めながら心が折れそうになるのを感じる。無料で泊めて貰ってそろそろ一カ月。いくら馬小屋とは言え宿の御主人の視線も厳しくなって来た。せめてもの罪悪感を誤魔化す為に、馬小屋の掃除と干し草の入れ替えを自発的に行っている。馬達とも馴染んできており、俺が囲いに入ると寝藁を蹴って集めてくれる。こんな心づかいが少し嬉しい。馬達だけが俺に優しい。


 馬の、好感度……そうだ!

 俺のノクターンに向かない脳細胞に天啓が走る。


『いや、何も授けとらんよ? 捕まっても良いからそろそろ写真……』


 ロリ神様は黙ってて下さい。


 馬は農作業に使われるほど馬力があり、移動手段として人類の歴史に長く君臨する俊足の持ち主で、草食動物としての高い感知能力がある。これだ!

 

 ブヒヒヒヒヒヒヒヒーーーーーン!


 その夜、街で最も大きな馬小屋を持つ宿から奇妙な嘶き声が響き渡った。


 新規取得スキル【馬並み】

 オスだった。リトライ!


 モヒヒヒヒヒヒーーーーーン!

 ブルヒヒヒヒヒヒーーーーーン!

 イイイヒヒヒヒヒヒーーーーーン!


 馬小屋からの異形の嘶き声は長く夜霧の彼方まで響き渡り、多くの街の住人に不安を抱かせた。なにかの悪い前兆でなければいいのだが、と。


 新規取得スキル【1馬力】【四本脚走行術】【澄んだ瞳】

 よし! また微妙なスキルだが娼館で手に入れた物よりはマシな感じだ! 使えるスキルもある。

 確か、村はずれに養鶏やってる農家があるって聞いたな。鶏なら時間感覚とか魔除けとかありそうだし飛行スキルなんて手に入れたら一気に戦力強化だ。

 あと羊! 臆病な獣のほうが警戒心高くて気配察知スキルとか持ってそう。まてよ、兎から鋭敏聴覚とか……

 いやぁ、アイデア次第で化けるもんだなぁ。やはりチートってのは貰った物を使うより、使いこなし方を考えてこそだな。よし、ドンドン行こう。そしてギルドに動物園の掃除とか餌やり補佐の仕事を回して貰おう!!


 彼が、手段と目的が入れ替わり、進む方向を見失っている事に気付く事はなかった。



 数日後、神様の元に大量に4歳馬の写真とか、毛をすっかり刈り取られたツルツルの羊の写真や、ウミガメの貴重な産卵シーン写真などが贈られたが、既に他の神々や秘書神に悪事が露見してデータ受信装置を取り上げられていたので、悲鳴が響く事も無かったと言う。


猫耳猫の更新待ってる間に割烹ネタ書いてたら長くなったった

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想した通りのあたまおかしい主人公でにやにやが止まらない。エロいことしたくてチート貰ったはずがチート活かすためにケモナー(手遅れ)になるとか本末転倒過ぎて……www
[良い点]  これは酷い(褒め言葉)  やはりさすがのイチコさんはさんは格が違った!  今後も全力で突っ走ったってくださいさいさいさい(残響音含む) [気になる点] > 何それ怖い > あっはっはっ…
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