チラシの裏の話
夏休み。
高校生の新谷が隣県のばあやん家に身を寄越すことがあれば、それは小遣いの欲しさゆえだ。
自分の住むオフィス街と比べれば、こちらは静かだ。
一つ県を超えるだけでなぜにこんな閑散とした風景が広がるのだろう。
ばあやん家に向かう道中。 雲は空を覆いつつある頃。
新谷は田んぼ尽くしをあみだのように進んでいた。
あとどのくらいだろう、もう着いてもいい頃かと彼は思う。
しかし、視界に写るは伸びた草と田んぼだらけで、新谷の心は戦慄きする。
昼時をとうに過ぎていたが、彼は朝から何も食べていない。
腹の蓄えがなくなり、身体中の筋肉が衰退していくのを傍受しながら歩みを進める。
今日も暑かった。 今や水筒に残る水はただの一滴もない。
呼吸するたび、がさがさの喉が擦り合う感覚には耐えない。
どれだけ歩いても変わらぬ風景に、もはや彼は心身共に干されていた。
倒れかかった体勢を堪えて持ち直した時、不意に気づいた。
一帯を支配していた日射がみるみるうちに陰にすり替わっていくのだ。
それと同じくして、照りつける陽の弱まりつつあることを知る。
嗚呼。 まだ俺は生きれるか。 まだ俺は生きれるか。
ぎこちなく次の一歩を踏み出そうとした。
腰に痛みが走る。
ぬう、なぜに腰痛……新谷は辟易した。
まるで腰に電気の迸るような痛みは、生まれて初めてのことだった。
彼はその場に倒れ込む。 ぷつりと何かが抜けきったように。
ゆっくりと。 まるで銃が放った後の硝煙のように。
瞼が閉じられていき、身体の所々がねっとりした闇に沈まる。
黒く塗られつつある意識の中、少しの思考を経て、彼は思い至った。
銃が放った後の硝煙と、男が放った後の賢者タイムは、虚しさの面で似ていると。
しかしまた、勝負の行方を見守る銃士と、社会を遠くから眺める男と、内なる熱の面で非なることを。