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パンドラの領域シリーズ  作者: いす投げ小太郎
パンドラの領域
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パンドラの悲しみ

パンドラの悲しみ


「よく来たわねえ、良子ちゃん。その隣にいる男の人はもしかして彼女かしら?」神女の母が言った。

「ええ、そうよ。」神女が言った。

「初めまして、豊山国立メガロポリス大生物学部学部長兼教授の豊山です。お近づきになれて光栄です。」豊山は言った。

「もしかして、あなたってアーなんちゃら賞とか取った偉い先生じゃないかしら。」母は言った。

「ええ、まあそうですけど、それが何か?」豊山は言った。

「さすが、良子ちゃんね。偉い先生を簡単に落としてしまうなんて。ぜったいに良いお嫁さんになれるわよ。」母は言った。

「そんなでもないって。向こうからプロポ−ズしてきたんだって。」神女は言った。

「さすがね、私の美しさとお父さんの頭の良さをちゃんと受け継いでるのね。」

「•••。」何かを言い返そうと神女はしたがどうも良い言葉が思いつかなかった。

「それと一郎さんに会いにいってらっしゃい。とても、良子ちゃんに会える事を楽しみにしてたみたいだから。」母は言った。

「はい。」神女は言った。

そして、叔父の西沼一郎の元に向かった。

「神女君、中々立派になったものだよ。彼は誰だい?」一郎は言った。

「お初に御目にかかります。私は豊山メガロポリス国立大生物学部長兼教授で西都大名誉教授でもあります。あえて光栄です、西沼会長。」豊山は言った。

「いや、いや。私としてもアーベルト賞受賞者の方に姪の面倒を見てもらえるのは大変ありがたい。いやあ、しかし立派になったものだね。前に君に会ったときはただの臆病な研究員だったのにねえ。」一郎は言った。

「いえいえ、資金援助ありがとうございましたよ。」豊山は言った。

「どういうことですか、叔父様、豊山君。」神女は尋ねた。

「彼の当時属していた日脳研に出資していたのだよ。わたしはもっとベンチャー分野に経営を拡大したくてねえ、そんな時に一時期出資していたのだよ。」一郎は言った。

「そうだったんだ・・・。」神女は言った。

「とういうことで豊山先生、姪を頼みますよ。この子はやんちゃですからちょっといらいらすることもあるでしょうが我慢してあげてください。」一郎は言った。

そして葬式が始まった。

葬式は簡素で、しかしたくさんの友人が集まり、そして厳かに終わった。


西都大にて

「今先教授、いくらなんでも無茶ですって!単独でグノーシス文書を発掘しに行くなんて。」藤川助教は言った。

「何を言っている。メガロポリス大で出来ることに西都大で出来ないことはない。」今先教授は言った。

「せめて、ローマ大との合同発掘調査にしましょうよ。そうじゃなきゃ、不可能です。」藤川は言った。

「そうか、いや不可能を可能にするのが研究員たるものだ。」今先は言った。

「もう出来ないこと言ってもしょうがないじゃないですか。」藤川は言った。

「もっちろん冗談だって。今回はちゃんとローマ大と発掘チームを組むよ。まったく冗談が通用しないのが君の悪いところだ。」今先は言った。

「ばか、本当にあなたという人はもう・・・。」藤川は言った。

「プルルルル、プルルルル。」電話が鳴った。

「ごめんちょっと失敬。」今先は言って、携帯電話を持って外へ出て行った。

「もしもし、今先ですけど。」今先は言った。

「もしもし、わしだ。計画をとめようとするであろう者を見つけた。」なぞの人物は言った。

「誰ですか、その人は?」今先は言った。

「その名も神女 良子。メガロポリス大の助教だ。」その男は冷たく言い放った。

「え、彼女が。何があったんですか。」今先は言った。

「それは、彼女の祖父である西沼がへんなことを言っていて、やつから聞き出そうとしたところに青酸カリを飲まれて聞き出せなかった。ただ」なぞの人物が言った。

「ただ」今先も同じことを繰り返した。

「われらの計画を破壊する鍵らしい。」なぞの人物は言った。

「それで何をしてほしいんですか?」今先は聞いた。

「殺せ。どんな手を使ってもいい。そのうち、西沼の葬式がある。お前にも招待状を送る。それで葬式に参加して、終わった後に消せ。」なぞの人物は言った。

「そんなあ、僕と神女は仲が・・。」今先は言った。

「そんなことはどうでもいい。消せ。それしかない。」なぞの人物は言った。

「はい、わかりました。」今先は小さい声で言った。

「よかろう、また電話する。」そう、なぞの人物が言うと電話が切れた。

「今先教授、誰からの電話だったんです?」藤川は聞いた。

「いや、ただの間違え電話だったよ。」今先は言った。

「そうですか。ならよかった。最近、妻がうるさく電話してくるからまた説教かと。」藤川は言った。

「そうか、君も中々大変だなあ。」今先は言った。

「気を使ってくれてありがとうございます。」藤川は言った。


葬式の後の帰り道にて

「いやあ、お酒飲まなくてよかったあ。もし飲んでいたら、明日の飛行機に乗れないぐらいの二日酔いになっていたろうな。」豊山は言った。

「本当にそうね。このままだったらかなり危なかったわ。で今日はどこに泊まるの?」神女は言った。

「東都ホテルを取ってけど、これから西岡所長に会ってくるから先にホテルに帰っておいててくれ。」豊山は言った。「はいはい、まったく仕方がないわねえ。相変わらずあなたという人は・・・。私を連れってくれてもいいのに。」神女は言った。

「いいじゃないか、久しぶりに恩師と飲むぐらい。まあ、明日の飛行機にはちゃんと乗って帰るから。」豊山は言った。


「わかったわ、じゃあ先に帰っているから。」このとき、神女は妙な胸騒ぎを感じた。

「でも。」豊山は言った。

「でもって、まどろっこしいから言いなさいな。」豊山は言った。

「気を付けてくれ。」豊山は言った。


「ここに神女が泊まるんですよねえ?」今先は言った。

「ああ、ここ508号室に奴は予約をしている。われわれの組織の人間に任せようとも思ったが、何せ非合法活動だ。躊躇されても困る。その点、君は忠実な同志である。君に委員会の人間も期待している。ちゃんと、隣の部屋を手に入れてある。」なぞの人物は言った。

「どのようにやればいいでしょうか?」今先は尋ねた。

「とりあえず、ショックガンで動けなくして部屋に運べ。その後は指示を出す。」なぞの人物は言った。

「はい、わかりました。」今先は言った。

電話が切れた。

彼は初めて戸惑った。

委員会の命令で、グノーシス文章のうちパンドラに関係するものを見つけたたびに泥棒に盗難の依頼をする、これには何も良心の呵責を感じなかったのだ。

殺人に対する警戒感からか?

いや、それも違う。

一人、真相に届きそうな研究者がいた。

その男と学会の後に会って、こっそりビルから突き落としたこともある。

そのとき、委員会の力で事実をもめ消してもらったがそのときも良心の呵責を感じることはなかった。

なのに今、彼は良心の呵責を感じていた。

委員会は絶対に正しい、それをいつも子供のころから教えられていた。

この世界はわれわれを弾圧する者があふれているということは今でも信じている。

なのに、今心の中にあるのは悲しみだけだ。

彼は思った。

これはできない。

でも、やらなければならない。

でも、やれない。

だから、僕は死ななければならないと。


タクシーにて


「すみません、東都ホテルまでお願いできませんか?」神女は言った。

「いいですよ。」年配の白髪だらけのドライバーは言った。

「それにしても、なんだか空き地が次々とビルになっている気がするんですけど。」神女は言った。

「ええ、最近は工事が多くてねえ。景気もよくなってきたってことですよ。ところで今の時代で東都ホテルに泊まれるなんてお金持ちですなあ。もしかして、海外で働いてる?」運転手は尋ねた。

「ええ、まあ・・・。」神女はあいまいに言った。

「そうですか、戦後では日本は円安で外国に勤めてる人のほうが収入がいいんですよ。なににしろ、国家が扱ってないし、世界の覇者はアメリア様ですから。」ドライバーが言った。

敗戦後、日本銀行は解散されて、軍票が発行され経済が大変なことになる中、すべての銀行は共同で新日本銀行を設立。出資額の分だけ配当できる配当金制度で運営されている。

そして、この銀行はドルを大量に持っていて、そして日本円と変動式で交換できるようになっている。

「あんた、外国で勤めてるんだったら今度日本に帰ってきたときには東都タワー見ていきなよ。来年の一月にはできるみたいだから。」ドライバーは言った。

「ぜひそうします。」神女は言った。

「おっと、お客さん。ホテルに着きましたよ。代金は七百三十円です。」ドライバーは言った。

「すみませんね、ドルしかないんで。五十ドルでいいですか?」神女は聞いた。

「もちろんです、本当ありがとうございます。ドルではらって下さるのならいつでも大歓迎ですから。」

タクシーの運転手は言った。

「そうですか、じゃあ失礼。」神女は言った。


ホテルにて


「いやあ、疲れた。もうくたくただわ。」神女は一人つぶやいた。

「神女、ちょっと来てくれ。」今先は言った。

「どうしてこんなところにいるの、君?」神女は言った。

「そんなこと今はどうでもいい!今、君は命が狙われているんだ。ついてきて!」今先は言った。

「そんなこと急に言われても。」神女は言った。

そこに銃声音がして、ひとつの銃弾が神女の足元の近くに落ちた。

「どういうことなの、今先君。」神女は言った。

後ろから大声が聞こえた。

「貴様、組織を裏切りやがって。これによって、我々の神の復活がどれだけ遅くなるかわかっているのか。まったく今すぐにその女を連れて来い!」神女はそのように聞こえた。

そして、エレベーターに乗った。

彼らは銃を撃ちながら追いかけてきたもののエレベーターの壁に遮られた。

「ふうー、助かった。で本当に何があったの?」神女は聞いた。

「いや、まだ安心はできない。すぐに地下一階に着いたら僕の車に乗って。」今先は言った。

そして車に乗って逃げた。

「で何があったの?」神女は尋ねた。

「僕は君をある人から殺すように言われたんだ。でも、君を殺すわけにはいかない。」今先は言った。

「何を言ってるの?そんな事される事してないのに•••。しかもあなたが殺人なんてするはずは•••。」神女は戸惑いながら言った。

「そうじゃない、神女ちゃんの恋人の豊山教授の拉致を狙っているんだ。あと、やっぱ言えない。これを言えば君はひどい目に遭う。絶対にそんな事をさせる訳にはいかない。」今先は言った。

「一体何を言っているのか分からない、本当に!」神女は言った。

「分からない方が良い事というものがこの世にはあるんだよ。」今先は言った。

「でどうするの?」神女は聞いた。

「とりあえず君を安全な所に送る。」今先は言った。

「そんな所あるの?こんなおわれる身となった私が身を隠せるような場所なんて。」神女は言った。

「あるちゃあ、ある。」今先は言った。


その頃日脳研では

「いや、本当にびっくりした。君が、あの西沼の孫と付き合っていたなんて。言ってくれれば良いじゃないか。」西岡は言った。

「本当にすまないと思っていますよ。で、本題は?かつての恩師とはいえ、ライバルのトップに何のようですか?」豊山は言った。

「ああ、それはなあ。実は彼に話を聞いてもらおう。」西岡は言った。

突然男が入って来た。

「お久しぶりです、豊山先輩。本当に尊敬してしまいますよ。僕が指名手配犯として逃げてる間にアーベルト賞を取って、更に特許でガッポガッポ金が入って大金持ちになられるとは。あのすっとこどっこいな間抜けな科学者とは大違いですよ。」中川は皮肉った。

「全く、その一言と反抗心がなければ出世できたのになあ。で、指名手配犯の君が何のようだ?」豊山は言った。

「そうですね、まあ例えれば渦中の虫が助けを求めて来たと思って頂いていいです。」中川は言った。

「君に言われなくても分かっているよ、その「神再臨計画」いわいるパンドラ計画のことはね。まあ、受けてやってもいいが一つ条件がある。」豊山は言った。

「さすが先輩、察するのが早い。どこでそれを?」中川は言った。

「実は僕も少しは変だと思ってたんだ。どうして他の国であの装置を悪用する装置の開発に取りかからない事を。で、僕は何か裏があるとは思ってたけどその内容までは分からなかった。でも、西沼さんが僕にあるものを託してくれた。」豊山は言った。

「西沼先生ですか、彼は確かに世界パンドラ計画実行委員会の日本代表でしたねえ。」中川は言った。

「そう、彼は殺された。そして死ぬ前にあるものを用意し、それを電子メールで送るようにでも仕向けたのだろう。そして、そのプログラムの実行後消去までね。」豊山は言った。

「西沼先生はガチガチのパンドラ計画推奨派のはずなのに、人って不思議なものですね。」中川は言った。

「そこには全ての真相が書かれていた。それには君が知らない、秘密が書かれていた。」豊山は言った。

「それはぜひ聞きたいですね。」中川は言った。

「いや、断る。これは人類にとって福音ではあるがこれを教えるわけにはいかない。そうすることが今、出来る事だ。」豊山は言った。

「なんだかまどろっこしい人ですねえ。で、なんで私に彼女を保護しろと。」中川は言った。

「彼の書類には全てが書かれていた。そこに、もう一人知り合いがいた。それは神女の後任の西都大教授だった。必ず彼女は襲われるだろう。だから助けてやってくれ。」豊山は言った。

「ならどうして彼女を連れてこなかったんですか?」中川は言った。

「それは、彼女はなんとしても真実を知らなければならないからだ。たとえそれが苦しくても•••。」豊山は言った。

「相変わらず、なんだか分からない事ばかり考えている人ですねえ。」中川は言った。

「ああ、頼む。何でもするから。」豊山は言った。


車では

「すみません、あなたを殺さなければならないんです。本当にすみません。」今先は言った。

「そう、ならすぐに殺しなさい。」神女は言った。

「すみません、本当はこんなことはしたくないんです。でも、「パンドラ計画」を守るためなら何でもしなければならないんです。」今先は言った。

「そう、仕方がないわねえ。」神女は言った。

「すみません、僕の事を恨んでも仕方がありません。でも、これだけは言えます。あなたはこの時に死んでおいてよかったと。」そう言うと彼はナイフで刺そうとした。

そのとき、何かが起きた。

突然、魔方陣が現れて、そこから謎の光り輝く物体が現れた。その物体、いや神は雷を落とした。

「あっちちちち。これはまさか、エレクトロンの仕業か。いや、そんなはずはない。奴はこの世界に入れないはずでは•••。」今先はそんな事を話しながら倒れた。

神女は恨んだ。このおかしなことと彼の運命の酷さを。


「大丈夫ですか、神女さん。」警察官は言った。

「ええ、それより彼は、今先はどう•••。」神女は聞いた。

「お亡くなりになりました。お悔やみ申し上げます。お連れ様が落雷でお亡くなりになるなんて。一様、事情聴取をさせて頂きます。」

若い警官は言った。

神女は嘘をついた。

彼と歩いていたら、突然雷が落ち焼け死んだと。

幸い彼のナイフはあまりの高温でとけてしまったためにその話になることはなかった。

「全く、大丈夫か?」聴取終了後に豊山が聞いて来た。

「ええ、大丈夫よ。」神女は小さい声で言った。


「今先は死にました。」男は言った。

「そうか、これで殉教者は後一人。もう死者の戯れ事など気にしなくて良い。未来は我々の手にあり!」椅子に座って報告を受けていた男は声を少し大きくして言った。

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