研究者たちの喜劇part2
マルサスの研究室にて
「リョウコ、最近豊山教授と付き合ってるんでしょ。まさか、リョウコが私より早く玉の輿するなんて。本当にうらやましい。」メアリーは言った。
「まあね。あんなことがあったから・・・。」神女は言った。
彼女はあの日の次の日、ホテルのスイートルームで起きた。
すると同じ頃、豊山も起きて二人は驚いた。
なんと裸だったのである。
二人は何もなかったことを確認しつつ、その日は休んだ。
次の日に暗い顔をしていたのはそういうわけである。
そしてしばらく、二人の間には気まずい不陰気がながれつづけた。
そして、ある日に久しぶりに二人は大学の食堂で出会った。
なんとそこで、豊山はプロポーズをしたのである。
彼女は迷った末にそれを呑み、二人は付き合い始めた。
なんてことはメアリーが知る由もないのでこんな質問をしてきた。
「(英語で)ねえ、リョウコ。如何やって射止めたの、豊山先生を。」メアリーは尋ねた。
「(英語で)それは私の秘密なの。もう聞かないで。」神女は言った。
「(英語で)リョウコが隠しごとをするなんて珍しいわねえ。もしかして何かあった?」メアリーは言った。
「(英語で)メアリー主任、研究に集中してください。もうすぐまた、発掘調査なんですから。」神女は言った。
「(英語で)はいはい、分かりました。」メアリーはそう言った。
「(英語で)メアリー、考え直してくれよ、頼むから。本当にもう君なしでは僕は生きられないんだよ。」ヘンリーは言った。
「(英語で)リョウコが言ってたでしょ、研究に集中しなさい。もうあなたには興味がないの。」メアリーが言った。
「(英語で)先生もなんと言ってくださいよ。メアリーの友達でしょ。」ヘンリーは言った。
「(英語で)研究に集中しなさい、全く今はまだお昼でも夕方でもないの。さもないと解任権を行使して、2度とメアリーとは会えなくするわよ。」神女は笑いながら脅した。
「(英語で)はい、はい。分かりましたよ。ふん、どうせ僕なんてただの馬鹿ですよ、•••。」ヘンリーはそう言って、やっと研究を進め始めた。
「(英語で)そう言えば、葉山もリーナとかいう豊山教授の研究室で助教をやっている人と付き合っているんでしょ。如何やって落としたの、葉山君。」メアリーは言った。
「(英語で)そう言えば、私も気になっていたんだ。教えて。」神女も言った。
「(英語で)かなり押しまくりでいったらかなり効いて、まず一回食事して、その後は成行くままにいったら•••。」近くのデスクで自分の研究をしている豊山が答えた。
「(英語で)いいな、日本人ってもてて。俺も日本人になりたい。」ヘンリーがブツクサ言った。
「(英語で)先生、論文ができました。」カールが言った。
しばらくたって
「(英語で)何、やればできるんじゃない。どうして、私を頼っていたの。」神女が尋ねた。
「(英語で)それはまだ新任ほやほやで、なんだか簡単に手伝ってくれそうだったから•••。」カールは答えた。
「(英語で)なんて人を食った人なんですか、カール主任は。本当に他のポスドクがまねするから辞めて。」神女は言った。
「(英語で)まあ、ちゃんと素晴らしい論文ができたから、さっきのブラックジョークは聞かなかった事にしましょう。」神女は言った。
「(英語で)もし、次言ったどうなるんですか。」カールは尋ねた。
「(英語で)必ず解任権を行使して、この大学から追放するわよ。」神女は言った。
「(英語で)ウッヒョウ、恐ろしい。まあ、次からは気をつけるよ。」カールは全く怖くないかのように言った。
「(英語で)さて、パンドラの書の予想発見可能場所は思いついた、ヘンリー主任。」神女は尋ねた。
「(英語で)もちろん、これでどうですか。」ヘンリーは手渡した。
「(英語で)ありがとう、これで古代グノーシス主義の起源に迫れるかもしれないわ。」神女は言った。
「(英語で)じゃあ、お昼までがんばるわよ。」神女は言った。
脳記憶工学センターにて
「(英語で)先生、センター中の噂になっていますよ。あの女の助教と付き合っているって。」リーナは言った。
「(英語で)まあ、事実だ。それに何か?」豊山は言った。
「(英語で)みんな、びっくりしてますよ。あなたがもてるなんて誰も思わなかったんですよ。」リーナは言った。
「(英語で)それは侵害だな、私は自分の顔には自信があるのになあ。どうせ、みんな私の皮肉にへきへきしてるんだろ。」豊山は言った。
「(英語で)そのとうりですが、その•••、どうやって愛をかわしたんですか?」リーナは尋ねた。
「(英語で)意外だな、君の事だからもっとまともな事を聞くと思っていたのだがねえ。まあ、答えよう。私が彼女にプロポーズしたんだ。で今に至ったという訳だ。で、きみは?」豊山は答えた。
「(英語で)はあ、なんのことですか?」リーナは尋ねた。
「(英語で)それは君がマルサス教授の部下の葉山と付き合っているという噂だよ。ま、こちらも私の一件と同じぐらいセンター中で話題になっているけどね。」豊山は笑いながら言った。
「(英語で)そうですか、相変わらず先生の皮肉癖も有名ですよ。」一瞬険悪なムードが立ちこめた。
「(英語で)まあまあ、私が悪かったよ。それよりも葉山君とはどうなんだ?」高橋が言った。
「(英語で)相変わらず、鈍感で馬鹿で取り柄なしですよ。でも、なんだか私が支えなきゃっていう気持ちになってしまうんです。不思議ですね、恋って。」リーナは言った。
「(英語で)そうか、まあしょうがない。私もそんなとこだと思っていたよ。ところで、主任達はちゃんと研究してるか?」豊山は言った。
「(英語で)ええ、相変わらず不満ばかり言っていますけど一様ちゃんとやっていますよ。ところで、何で私を副センター長にしたんですか?」リーナは聞いた。
「(英語で)自分への負担を減らすためさ、それ以外には何もないよ。それに何か問題でも?」豊山は言った。
「(英語で)そうですか、相変わらず隙があれば、人に責任を押し付けようとする腹黒い方ですね。本当に私は今の事だけで精一杯なんです。何であなたの全ての事務的行為、また仕事を私がやらなければならないんですか?」リーナは尋ねた。
「(英語で)もちろん、きみが私の助手だからだよ。だから、私は長がつく職が好きなんだよ。」豊山は言った。
「(英語で)本当に人使いが荒いんだから。もういい加減にしてください。私が今まであなたの尻拭いを何日間やってきたというんですか!」リーナは怒りながら言った。
「(英語で)いい加減にしてください、豊山先生とリーナ先生。こっちまで聞こえてきてますよ。全くお二人とも教鞭を持つ者として恥ずかしくはないのですか。本当に2人とも大人になってください。いったん2人とも頭を冷やしてはどうですか。」ケンティックが言った。
「(英語で)すまない、ケンティック主任。恥ずかしい場面を見せてしまったなあ。私も少し頭を冷やした方が良さそうだ。という訳でリーナ君、君を教授代行に任命するから後はよろしく!」豊山は笑いながら出て行った。
「(英語で)ちょっと、困りますってばあ。」そう言ったもののその時には豊山は研究室のある建物から出て行ってしまっていた。
「(英語で)ち、やられた!あの人、私に研究室とセンターの事務を全てまかして自分の趣味みたいな研究をセンターでする気だ。本当にいい加減にしてほしいわ。もう絶対にあの人の口車に乗せられてたまるか。」リーナは怒りながら言った。
「(英語で)いやあ、豊山先生のやり方ってすごい参考になりますね。僕が教授になったらこの手法を取り入れようっと。さすが、アーベルト賞を取ると腹黒さも常人並みでは無くなるんですね。しかし、なんで僕たちをセンターの研究に参加させてくれないんだろう。普通は自分の研究室の人間でセンター職員を固めるのに外部出身者ばかりを集めてる。僕たちの大学は自分で言うのは何だけど世界一の大学のはずなのに。」ケンティックは言った。
「(英語で)多分、本当は豊山先生は何かを隠してる。そして、私たちを守ろうとしているのよ。」リーナは言った。
「(英語で)どういう事ですか?あの先生が隠し事をするとは思えないんですが。」ケンティックは言った。
「(英語で)私、実は前に一度だけ、まだ彼が日脳研の主任だったころに見かけた事があるの。その時はオドオドしてて、でも明るい普通の研究員だったの。だから急に彼がアーベルト賞を取ったと聞いて、とても驚いたの。何か大きな事件でもあったのよ。あの人はきっと自分と付き合うと周りが不幸になると思って自ら距離を置いているの。だからきっと心の中では悲鳴をきっと上げていると思うよ。」リーナは言った。
「(英語で)まあ、それなら僕たちと距離を置く理由にはなりますね。先生、アーベルト賞を取った四人に関わる噂を知っていますか?」ケンティックは言った。
「(英語で)どんな噂?」リーナは尋ねた。
「(英語で)えっとですね、四人は洗脳装置の本体と設計図、それに膨大な実験データを持っていて、誰かがそれを売り渡したという噂ですよ。まあ、あくまでも噂ですけどねえ。」ケンティックは言った。
「(英語で)怖いわねえ、今の豊山先生ならやりかねない。もしかしたら事実かも。ってあなた研究さぼるんじゃないわよ!」リーナは言った。
「チェ、ばれたか。はいはい、ちゃんと研究に戻りますからお構えなく。ところでコールはどうしたんだろう。」ケンティックは言った。
「グー、グー、グー。」コールは寝ていた。
「(英語で)あなたもいい加減起きなさい!」リーナは得意の空手の技を繰りだした。
「(英語で)ふあ、よく寝た。リーナ先生、起こし方が雑すぎですよ。僕を起こすときは割れやすい物を扱うときと同じように丁寧にお願いします。」コールが眠たそうな顔を浮かべながら言った。
「(英語で)もういい加減にして。どいつもこいつも!」リーナは怒りを爆発させた。
その頃、豊山は学部長室にいた。
「(英語で)教授職を辞したい。理由はセンターの運営に専念したいからである。了承してくれませんか?」豊山は言った。
「(英語で)それは困りますねえ。あなたは教授だから、センター長になれるのですよ。」学部長は言った。
「(英語で)じゃあ、リーナ助教を教授代行に任命します。それなら、いいでしょ。
「(英語で)あなたも困った方だ。権力には責任が伴うのですよ。いい加減、それを認識してください。まあ、いいでしょう。で、どうですか、研究の方は?」学部長は言った。
「(英語で)まあ、ぼちぼち進んでますよ。それより、あなたの研究室が分裂しかけている事で問題になっているじゃないですか。あなたにそんなことを言う資格はないと思いますよ。」豊山は言った。
「(英語で)全く人の痛いとこを突く方だ。で、今日の教授会は出てくださいよ、豊山先生。」学部長が嫌みを言った。
「(英語で)はいはい、分かりました。ちゃんと出席します。」豊山は言った。
昼休みのマルサス研にて
「(英語で)最近どうだ、豊山教授とは。」マルサスがサンドイッチを齧りながら、言った。
「(英語で)最近はなんだか明るくなりましたよ。皮肉も言わないし、本当の豊山さんはどっちなのかが未だに分かりませんわ。」神女は言った。
「(英語で)おそらく、最近の彼が真の豊山教授なんだろうと思うよ。意外と話すとすぐ仲良くなれる陽気な人物なんだと思うよ。」神女は言った。
「(英語で)いや、でも暗いときの彼はとっても暗いんです。おそらく、どちらも彼の一部なんだと思いますよ。」神女は言った。
「(英語で)それより、例のパンドラの書探索計画は進んでいるか?」神女は言った。
「(英語で)まあ、もういつでも行けますよ。そこの本当にあるかは未定ですけど。」神女は言った。
「(英語で)そうか、じゃあ今月中に行こうか。」マルサスは言った。
「(英語で)ちょっと早すぎる気が•••。」神女は言った。
「(英語で)日本の有名なことわざで『善は急げ』というのがあるだろ。
「(英語で)はい、はい。相変わらずのごり押しですね。どうなっても知りませんよ。」神女は言った。
「(英語で)さすが、西沼の孫だ。奴と同じように普通のことを言いおって。まあ、わしの考えにはかなり無理なことが多いからしょうがない事もあるが。」マルサスは言った。
「(英語で)マルサス先生、他にことわざで『急がば回れ』っていうことわざがあるんですよ。少しずつ進めていった方がいいと思いますよ。」神女は言った。
「(英語で)じゃがなあ、今回の発掘は葉山と君を現場に慣す意味もあるんだ。」マルサスは言った。
「(英語で)先生、もう分かりました。先生がやると言ったらやるんですね。しょうがないですねえ、私が笠山教授にはアポを取っておきます。」
「(英語で)ああ、頼む。それとローマ名物のおいしいチーズを持ってこいって言っといて。」マルサスは言った。
「(英語で)はいはい、わかりました。」神女は言った。
会議室にて
「(英語で)じゃあ、これより第百回生物学部教授会を始めます。では、何か提案がある者はいますか?」学部長は言った。
「(英語で)動物行動学研究室のクリスチャン教授の解任を要求します。」クリスチャン教授のライバルである動物心理学研究室のマイク教授が言った。
「(英語で)異議あり、このような場で自分の怨念を発散する場ではないでしょう。」クリスチャン教授は言った。
「(英語で)他に提案は?」学部長は尋ねた。
「(英語で)二つあります。できれば一つずつ審議にかけてほしいのですが。」豊山は言った。
「(英語で)いいでしょう、豊山センター長。言いなさい。」学部長は言った。
「(英語で)まず一つ目はリーナ助教の教授代行就任です。私は激務ためにリーナ助教に事務面で頼る事が多くなってきました。しかし、一部の事務的行為は教授でなければできません。よってリーナ助教を我が研究室の教授代行兼助教に推挙します。」豊山は言った。
「(英語で)では審議に入ります。賛成の方は•••。反対の方はいませんのでこれは可決されました。もう一つの方をどうぞ。」学部長は言った。
「(英語で)学部長の解任を要求します。」豊山は言った。
わあッとざわめきが起こった。
「(英語で)どういう根拠があってそれを。」学部長は冷静に言った。
「(英語で)まず、研究室が分裂している事です。ライス助教率いる約三分の二のメンバーはあなたを信頼していません。それに、私はあなたの横領の証拠を持っています。」豊山は言った。
「(英語で)貴様!裏切る気か、この私を。」学部長は言った。
「(英語で)裏切るなどと言われましてもあなたと手を組んだ気などありませんが。」豊山は言った。
「(英語で)この皮肉野郎が!」学部長は言った。
豊山は無視して言った。
「(英語で)今すぐこの議題は審議してください。」
その夜、学部長ロナルドは解任された。