最終話 戦いの果てに
長く続いた戦乱の世が終わろうとしていた。
天下分け目の合戦に勝利した時の支配者は、帝から征夷大将軍の位を授かると、各地の大名は一斉に戦をやめた。
同時に、アヤメはお役御免となり数年ぶりに故郷へと帰っていた。
「おぉ…アヤメではないか。心配しておったぞ」
出迎えた父親は寝床で身体を起こした。
父親は長い間病床に伏せていたため、かつての面影はなくなり、背中もずいぶんと小さく感じられた。
「父上、お体に障ります。どうかお休みください」
アヤメは短く身の上を報告した。
それからしばらくして、父親はアヤメの婚約相手にと貴族の男性を紹介した。
しかし、アヤメはそれをどうしても了承する事はできなかった。
「…申し訳ありません、父上。私はここから嫁ぐつもりはないのです。これは昨年亡くなったキキョウお姉様からの遺言です。この“獅子”の血を絶やすな…と。本当に申し訳ありません」
そう言ってアヤメは部屋を飛び出していった。
この事がきっかけとなり、彼女は別の男性を婿に迎える事が決まった。
これを境に、彼女はこれまで続けてきた剣の道を退いた。
兄と姉が過ごせなかった平和で穏やかな時を、彼女は一生懸命生きる覚悟だった。
加えて、アヤメには毎年欠かさず行う行事がある。
それは春に、二人の兄妹の墓前へ花を添える事。
以来、毎年四月にはそれぞれの墓前に、二人が大好きだった桜の花を供えられている。
そして、新しい春が訪れ、アヤメは新しい命を授かった。
その子は彼女に似て凛としていながらも、どこか優しい目をしている。
兄と姉が好きだった花の名前を取って、“サクラ”と名付けられた…。
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