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第四話 再開

アヤメは上司の命令で、とある大名が築いた砦の中にいた。

この砦には内通者がいたため、彼女は手はず通り潜入に成功していた。

そんな折、頼りにしていた仲間が敵に見つかり、彼女は敵陣の中に取り残されてしまった。


「クッ…敵にも内通者がいたなんて…」


アヤメは唇を噛みながら、自らが置かれた状況を必死に整理しようとしていた。

その間にも、アヤメの近くには探す追手が迫っていた。

警報を告げる笛の音が四方八方から聞こえ、徐々に敵軍の足音も近付いている。

そんな中、アヤメは周りの空気が一瞬にして張り詰める感覚に襲われた。

それは、”獅子”が放つ特徴的な殺気だった。


「ど、どこ!?」

「…久しいな」

「…!?」


背後から突然聞こえてきた声に、アヤメは目を見開いて凍りついた。

彼女を包むのは、まるで背中に氷の塊を入れられたように、不快感を伴う殺気だ。

そして、声の主は彼女のよく知る人物だった。


「…兄上」

「よぉ…元気にしてたか?」


姿を表したのは、長年共に過ごした三兄妹の兄だった。

しかし、その雰囲気はアヤメが知っている姿とは違い、その瞳には深い闇を湛えている。

生気がないその表情には、彼女との再会を喜ぶ様子は感じられない。


「そうか…ここは兄上が仕えた大名の砦だったんですね」

「あぁ。だから賊が侵入したと聞いて、ここで張っていたんだがな…」


よく知る兄の雰囲気とは違い、語彙には勢いがない。

しかし、目の前にいるのが血の繋がった実の兄と言う事実には変わりなかった。


「兄上、掟にしたがって問います。…“兵か法か”」

「お前からその言葉を聞くのは二度目だな…。答えは“兵”だ。悪いが立場上引くわけにはいかなくてな。仕事なんで、大人しくしてもらうぞ」


血をわけた実の兄は、懐に隠していた小刀を取り出した。

手にしているのは、父親から受け継いだ家紋入りの小太刀だ。

アヤメは生唾を飲み込み、脇に差している刀の柄に手を掛けた。


「…引く気はないようですね」

「愚問だ」


それを聞くと、アヤメは覚悟を決めて、太刀ではなく脇差しを抜いた。


「心苦しいですが、お相手します」

「お前…死ぬぞ?」

「私も兄上の知らない間に習練を重ねました。心配はいりません」

「これは修練ではない、実戦だ。おっと…無駄話が過ぎたな。…行くぞ」


兄は一呼吸置くと、懐に忍ばせていた砂鉄の詰まった袋を放り投げた。

すると、袋から砂鉄が放射状に飛び散り、一瞬でアヤメの視界を奪った。


「くッ、目潰しなどと…」

「…喋る暇があるのか?」


アヤメは砂鉄に気を取られていると、兄が放った刃がすぐそこまで迫っていた。

彼女は、それを手にした脇差しでいなし、小太刀の間合いから離れるように後方へ飛んだ。

何とかやり過ごしたと思ったアヤメだったが、不意に右足から痛みを感じた。

そこには見に覚えのない刀傷があり、僅かに血が流れ出ている。


「…気が付かなかっただろ?そういえば、俺の得意な暗器はお前に見せた事がなかったな…」

「暗器…。手加減はなしと言う事ですね」

「元より…そのつもりだ!」


兄の手には細い針金のようなモノが握られている。

その先には、小さい刃が無数に繋がっており、針金を投げたり引いたりするだけで簡単に相手を切り裂くことが出来る武器だった。


「まぁ…そう言う事だ」


アヤメは脇差しを左手に持ち替えて太刀を抜いた。


「…最初から解せなかったんだ。何故お前が脇差しだけを抜いたのか。それはお前の甘さだったのだな…」


二刀を構えたアヤメは、少し乱れた呼吸を整えるように息を短く吐いた。

どうやら兄の持つ武器に毒は塗られていないらしい。

出血は気になるが、今はこの場から逃げ出すのが先決だ。


「いいえ…ここからは甘えではありません」

「どうやらそのようだな」


無意識ではあったが、命のやりとりを行う二人は、自然と戦いの中で言葉を交わしていた。

二人にとって実に数年来の出来事だった。


「兄上を越えて…私は先へ向かいます」

「果たして出来るかな?」


兄は出会ってから声のトーンが低いままだ。

どうやら周囲に気を配っているらしい。

しかし、アヤメには兄が何故そうしているのか理解できていなかった。

彼が言葉の通り本気なら、大声を張り上げて侵入者の存在を知らせてもおかしくはない状況だ。


「兄上…何故です」

「…何がだ?」

「兄上はまだ本気じゃない。本気で私を殺そうと思っているようには思えません…」

「…」


その言葉に兄は何も答えなかった。

代わりに懐から笛を取り出し、高らかに吹いた。


「…!?」

「…興が冷めた。いずれまた会おう」


そう言うと、兄は持っていた小太刀をアヤメに向けて放った。

アヤメはそれを太刀で弾き落としたが、その隙に兄は姿を消していた。


「兄上…」


残されたアヤメは、去っていった兄の後ろ姿を眺めながら唇を噛んだ。

足元には兄が大切にしていた小太刀が落ちている。

彼女はそれを拾い上げると、再び悔しさが込み上げてきた。

耳を澄ますと、笛の音を聞き付けた兵士が隊列を組んでアヤメの元に向かっていた。

時間はあまり残されていない。


「…やり過ごすにはこれしかない」


アヤメは懐に隠していた小さな袋を取り出した。

それを兵士の足音がする方へ勢いよく放り投げた。

すると、投げた小袋は勢いよく炸裂し、激しい炎を巻き起こした。

彼女が投げたのは、火薬と油を混ぜ合わせ、爆発力を向上させた爆弾だ。

それに巻き込まれた数名の兵士が悲鳴を挙げた。

彼女は、その混乱に乗じて敵兵士たちとは別の方向へ走って行った。

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