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通称・僕  作者: 葉太
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縁ノ道

 ―ぼくが初めてシモベと名乗ったのは彼と彼女に出会った事件がきっかけだった。

   そう、あの暑さと涼しさが入り混じる月夜にぼくは二人に出会ってしまったんだ。―



 街灯が一斉につき始める。既に陽はその姿を全て隠していたが、かすかに残る茜の光と光が届かずに暗くなる空。これから夜が始まろうとしていた。

 下山辺しもやまべ 想太そうたが学校の帰り道にここ「縁の道」を通り帰るのがお決まりになっていた。区のちょうど真ん中あたりにある駅から家に帰るのに縁の道は最適だった。茜色を背中に映して縁の道にある植物に目をやる。彩り豊かとはいえない真っ赤な紫陽花が咲いていた。

 住宅街の真ん中に作られた歩行者専用の通り道通称「縁の道」。古くから区画整理もせずに家々を立て続け道が狭くなってしまったここ等上とううわ区では車の通る道路は歩行者が通る幅を全くといっていいほど考慮がされていなかった。それでも人々は車を肩に切りながらその道を使わざるを得ない。何故ならその道が都会へ出る駅へと続いているからだ。

 そんな運転手も歩行者も気が気でないその道へ区民から非難が寄せられるのは当然だった。区民は区へと陳情として道を広くするよう申し入れた。車を通る道を確保しつつ歩行者が安全に通れる歩道を作れ。至極真っ当だが既に多くの家々(その中にはかなり古くからある家もある)が軒を連ねているのにそれを移動させることは区にもできることではなかった。

 そこで区は家々が持っている庭や余剰土地をを少しずつ買取り、家々の真ん中を突っ切る形で歩行者専用の縁の道を作ったのだ。縁の道は車道と車道を繋ぐように作られ、最初は一つの区画を次にすこしずつ区画をぶった切り縁の道は住宅地のあらゆる場所にできた。これにて区を横断ように縦断する蜘蛛の巣のように歩行者専用道縁の道は完成したのだった。


「そろそろ朝顔の季節かな。また蔦が道まで来なければいいけど……」


 ここ縁の道では区民が率先して道の端に花を彩る。縁の道自体はタイルで歩きやすく舗装されているが端は約1mごとにタイルを張らず土になっており、基本的に誰が何をそこに植えてもいいのだ。区長の縁の道は区民のもの、彩り管理し使うのは区民だという狙いが込められていた。中には庭石なんかを置きなかなか粋な道に仕上げた区民もいた。あべこべな装飾をされてはいるが区民の自分たちの土地を愛する気持ちがこの縁の道に現れていると想太は感じていた。しかし、区が積極的な管理をしないせいもあり、たまに区民が適当に植えた植物で惨事になることがある。植えたはいいがほったらかしにしてしまい成長しすぎ、道が侵食された。サボテンを植えて子どもが触って怪我をした。そんなことが数年に一度のペースで起こりそのたびに区民が区へ縁の道の管理をするよう要請するのだった。

 想太は基本そんな縁の道が好きだった。区が一定距離を保ち区民に管理を任せている今の状況のほうが、その結果出てくる不都合も含めて区民のための縁の道だと想太は考えている。


「それでもたまにはみんな後先考えて植物は植えてほしいけど……」

 

 独り言を呟き想太は縁の道を歩き続けた。街灯が植物と家々を照らし、家々は花の香りに負けじと夕食の香りを出している。

 今日の夕食はなんだろうか。育ち盛りの想太を満足させようと母はいつも食材を買い込んで料理に精を出す。だいたい成功したのか失敗したのかわからないままとりあえず食べられるものをだしてくるのだが……。


「縁の道か。言いえて妙な道を拵えやがって」

「仕方なくない?元々はここの土地柄を考慮して命名してるんでしょう?」


 今夜の夕飯に思いを馳せる想太に聞こえてくる男女の話声。

 縁の道に隣接している家かららしい。家々を縫うように敷かれている縁の道は歩いていると家々の生活音や話し声などは否応なく聞こえてくる。それこそ子どもの泣き声、夫婦喧嘩もだ。

 声の聞こえるほうに何気なく声のするほうを向いてみると、庭を持つ古い一軒家であった。雑草が点々と島のように生えているだけの庭か縁の道を見ながらか縁側に腰掛けている若い男女がチラッと見えた。

 昔ながらの家屋に今風の若い男女というのは想太の目を引いたが、立ち止まってまじまじと見るわけにもいかず想太は歩みをそのままにその男女を視界から消したのだった。




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