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わたしだけの窓

作者: 漂流 中

 わたしはいつものように、2階にある自分の部屋の窓から商店街を見下ろし、通りを行きかう人たちをぼんやり見つめていた。わたしが小さいころは賑やかだった商店街も今はすっかり寂れ、人通りも以前にくらべめっきり少なくなった。

 しばらくして左側半分を開けておいたその窓のす通しの部分を、最近遺産相続でお金持ちになった近所のおばさんが通りかかるのが見えた。着るもの、装飾品、持ち物すっかりブランド品に変わっている。ちょっとアンバランスだけど。そして、それから窓の右側部分に差しかかった。ガラス越しに見るとその姿は以前のおばさんのままだった。着古しのスカートにセーター、エプロン、それに買い物袋を下げていた。お金持ちになったけど人間は変わっていないのね、ちょっと安心した。

 おばさんが通りすぎると今度は反対側から、窓のガラス越しの部分を人影が横切った。窓のす通しのところへ出ると影がすうっと男の人に変わった。やっぱり、たばこ屋のおじさんだ。最近、ますます影が薄くなってきているけど大丈夫かしら。あ、また誰かやって来た、窓越しに見るのは初めての人だ。たしか、最近この近くに越してきた、何とかコンサルタントだったか、何とか評論家だかの人だ。アメリカの有名大学を出たとかで、もっとも本人がそう言っているだけだけど、かなりのインテリだとみんな噂している、ほんとかしら。仕立ての良いスーツにしゃれたシャツ、襟と胸に赤いブートリアとポケットチーフ、高価そうな腕時計に靴、そして立派な口髭とあご鬚を蓄えている。その人がガラスのす通しの部分を通り過ぎて、ガラス越しの部分に差しかかると、その姿が消え、路面の影だけに変わった。けれど、通りの反対側のパン屋さんのショーウインドーへは、その姿が反射してしっかり写っていた。ああー解ったわ、この人は虚像と影だけで、中身のない人なのね、みんなだまされているんだわ。

 この窓を通すとこんな風に見えるのはいつの頃からだったけ、確か子供の頃からだったけど、最初の頃は人へも話してみたけど、どうもこう見えるのはわたしだけのようだ。頭がおかしいと疑われてからはもう人へは話をしていない。わたしだけの秘密、わたしだけの窓だ。この窓のガラス越しには、なぜかその人の本来の姿が見える、理由は解らないけどそれが外れたことはない。わたしはいつもそれに助けられてきた。

 二年ほど前に親戚からの紹介で、縁談があった時もこの窓に救われた。お相手は申し分のない超エリート、見た目も悪くなかった。廻りはみんなで、こんないい話は二度とない、おまえには勿体ない、早く嫁に行けとわたしに結婚するようにせまった。結局断ったけど訳を聞かれてちょっと困った。まさか、窓を通して見るとおかしいからなんて言えないから。それは本当におぞましかった。外観は人間の形をしていたが、半透明でその中に何かが蠢いているのが見えた。それはもう人とは思えなかった。かと言って動物、違う。機械、それとも違った化け物だった。ギラギラした性欲、権力欲、支配欲、物欲、虚栄心そんなのが合わさって具象化したんじゃないかと言う物が中で蠢いていた。

 あれ、サトシくんじゃない、通りの向こうをトポ、トポやってくる。なんか歩く姿がペンギンに似ていてちょっとかわいい。そういえば、うちへ遊びに来るって約束をしていたのは今日だった、いけないうっかりしていた。サトシくんは今のわたしのカレ。家族や廻りはけっしてサトシくんのことを良くは言わない。だけどわたしにはサトシくんが最高な人だって解る。なぜってわたしにはこのわたしだけの窓があるから。いままで数え切れない人を、この窓をとおして見てきたけれど、す通しの時より、ガラス越しで見た時の方が美しく、そして輝いていたのはただひとりサトシくんだけだった。

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