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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
二章 北へ
9/31

【2】

 北の樹海へ抜ける途中、セラの視界を墓地と火葬場が掠めた。亡くなった者は火葬場で丸一日掛け焼かれ、煙となって空に昇る。昼間から上がり始めた煙が、薄気味悪く夜空を引き裂いている。

 その光景を目にし、セラは不安にかられた。一方で亡き両親が空から自分を見てくれているのではないか。その思いがセラを後押しする。

 家々の土壁と同じ素材で作られた墓石に向かって心の中で別れを告げ、セラはついに北の樹海へと足を踏み入れた。

 やはり樹海は暗かった。セラはその暗さに歩みをゆるめた。一部の落葉樹が寒々しい枝を晒していたが、それ以上に常葉樹が大きく枝を広げ、天を覆い隠している。土とも腐った葉ともつかない黒いモノが地を覆い、湿気の混じった嫌な臭いにセラは顔をしかめた。

 鼻ではなく口で呼吸をしてみるものの、嫌な臭いは喉の奥を通って鼻に抜ける。それでもどうにか、樹海の暗さに目が慣れる頃になると、その臭いにも耐性がついてくる。

 少しずつ歩を早め、いつしかセラは再び走り出していた。流星のことは気掛かりであるが、一刻も早くこの森を抜けることの方がセラにとっては重要だ。

 どのくらい走っただろう。普段は星の位置で時間を把握していたが、こんな森の中では空を見ることは叶わない。それがセラの疲れを助長した。

 疲れを自覚して、セラは歩みを緩めた。家を飛び出す時に羽織った毛皮の下で、背にはじわりと汗が滲んでいる。汗をこのままにしておいては、貴重な熱を奪っていくことだろう。

 何もせずそれを見過ごすわけにはいかない。休むにしてもある程度、暖をとる必要があった。木もまた生き物だ。その熱を別けてもらえばいい。セラは流星の言葉通り、大きな木のうろを探した。その途中、比較的乾いた落ち葉を集めるのも忘れない。

 セラは自分一人が膝を抱えて座り込めるくらいの木のうろを見つけ、身体を潜り込ませた。落ち葉の毛布を被ると、そこは思いのほか温かく、セラをまどろみへ誘った。

 まるで家にいた時の安心感に、セラはふと兄のことを思う。流星は心配だけれど、あれから兄はどうなったのだろう。身を寄せ合って眠った夜もあった。急に寂しさを感じでセラはそれをふるいのけるように、瞼をぎゅっと閉じた。眠ってしまえばこの寂しさも忘れてしまえるかもしれない。

 まどろみの中、何度も瞼が落ちては、慌てて持ちあげるのを繰り返す。けれど遂に誘惑に負け、意識が遠のいた当にその瞬間だった。

 パキッと何かが木の枝を踏んだ気配がした。ひっと喉がなりそうになるのを押さえて、セラは身を縮めた。一瞬にして身体を恐怖が支配した。眠気が一気に吹き飛んで、全神経を研ぎ澄ませて気配を探る。恐怖で強ばる身体で、早くなる鼓動を抑えるようにゆっくりと静かに呼吸する。気配は一つではなく複数ある。動物かもしれないと感情が告げる一方で、頭はそれを否定していた。全身の感覚をこれはどう考えても二足歩行の足音だ。

 流星ではない――そう結論付けるのに時間は掛からなかった。


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