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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
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【17】

 そうなってしまえば、二人の間に流れるのは沈黙だった。

 セラはナトリのことをよく知らないし、アルクトゥールスについた後のことを、流星から聞いていたわけでもない。

 どうしたらいいのか正直わからなかった。ナトリもどう接していいのかわからなかったのだろう。

「キラン殿達が戻るまで、休んでいたらいい」と、部屋をあとにしようとした、その時だった。

 ポロロンッとどこからともなく、美しい調が聞こえてきたのは。それはどこか悲しく、どこか切ない調だった。それに呼応するようにセラの胸元で人魚の涙が熱を帯び始めた。その熱さにびっくりして、セラはベッドから飛び起きた。

「何? なんの音?」

 ナトリはそんなセラの様子に驚いたようである。

「君は、あの音が聞こえるのか? 部屋も離れているのに」

「ええ……」

 そんなにおかしいことだったのだろうか。セラは一瞬言葉に困って、それでも、鳴り止まねどころか大きくなっていく調が気になって言葉を続けた。

「なんだか悲しい音。誰が鳴らしているの?」

「この塔には先客がいる。その先客が弾いているんだろう」

「先客?」

「ああ。人魚の涙を持ってきた吟遊詩人さ」

 そういえば、あの混乱のなかナトリが話していたのをセラも覚えている。ナトリがシューレに赴くために使った人魚の涙は、もともとはその吟遊詩人が持ってきてものだ。

 そんな吟遊詩人がこんなにも悲しそうな調を奏でるのはなぜだろう。セラはそれが不思議でならなかった。

「その人はここでなにをしているの?」

「大公様のご命令で、塔の一室に留まってもらっている」

「どうして?」

「それは君が知らなくてもよいことだ」

 急に素っ気なく突き放されて、セラは困惑した。何もかも教えてもらえるとは思っていなかったが、ナトリの言葉はシューレで投げ掛けられた言葉にどこか似ている。

 だからこそセラは、自身の持つ人魚の涙の存在を明かすことが得策ではないように思えてならなかった。

 調に呼応するように、人魚の涙はセラに助けを求めているようでもある。

「その人に会わせて!」

 セラは意を決して、ナトリに懇願した。ナトリの返事はやはり素っ気ないものだった。

「それはできない」

「どうして?」

「大公様の許しなく、会わせるわけにはいかないからだ」

「じゃあ、もう頼まない。わたしが勝手に会いに行くから!」

「待て!」

 セラはベッドから抜け出して、ナトリの静止を振り切った。だがそううまくいくはずもない。セラはベッドから立ち上がる時に立ちくらみを起こしてつまずいてしまった。

 その拍子に胸元から赤い人魚の涙の涙が転がり落ちて、ナトリの目に晒されてしまったのである。

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