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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
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【16】

 目を覚ましたセラは、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。身を包むのは肌触りの良い寝具で、見上げれば木彫りの天蓋が目に入る。どうやらここはベッドの中らしい。身体の節々が酷く痛み、頭はまだぼうっとしている。ノズに気絶させられたことは覚えている。だが、その後どういう経緯で自分はここにいるのだろうか。

 ともかくここを抜け出して、流星を助けに行かなければならない。だが身体はだるく、いう事を効かない。

「起きたのか?」

 声がして、部屋のなかにセラは自分以外に人がいることに気がついた。重たい身体を最小限に動かして、頭を傾けるとそのにいたのは、ナトリだった。

 最初に会った時は、髪を黒く染めていたのだろう。不自然に毛先が光る黒髪だったはずが、今は淡い金髪が印象的だ。

 セラは問い掛けに答えるために、声を出そうとしたが喉がかれていてうまく声が出ない。

「無理をしないほうがいい。ここまで運ぶ途中、眠り薬を使わせてもらった。あれは効き目が強いから、酷く喉も乾くし、身体もだるいだろう?」

 そう言いながら、水差しから陶器の器に水を注いで、セラの背中に腕を回した。

「飲めるか?」

 一瞬警戒心が肩をもたげたが、このままではどうすることもできない。ゆっくりと首を縦に振って、セラは水を口に含んだ。清く冷たい水はセラの喉を潤し、意識をはっきりと覚醒させていく。セラはまだだるい身体を自らの意思で動かして、ナトリの腕を握りしめた。

「ここは? キランたちはどこ?」

「アルクトゥールスの城の一室だ。使者殿は大公と謁見中で席を外している」

「アルクトゥールスまで来てしまったのね……」

 ぎゅっとナトリの腕を握る手に、自然と力が入る。流星を助けに行くはずが、アルクトゥールスまで来てしまった。ここからシューレに戻る頃には、流星はすでに都に発っているかもしれない。

「どうして残念がる? あの時、えらく取り乱していたが、あのまま樹海に一人残されたほうがましだったか?」

 それでもよかったかもしれない。ここで後悔してしまうくらいなら。セラを妙な脱力感が包む。唯一の救いは、シューレで皇太子を見たというナトリが目の前にいることだ。

「ナトリはシューレで何を見たの?」

 ナトリはセラが欲する答えを探るようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「黒髪の青年が兵士に囲まれて、連れて行かれるところを見たんだ。それがどうやら皇太子だということまでは耳に入ってきたが、その後は知っての通りだ」

 知っての通り、セラと同じようにナトリは兵に見つかり追われる身となったのだ。

 それにしても、とセラは思う。キランの髪は焦げ茶色だから、黒髪ならばやはり連れて行かれたのは流星で間違いない。でも流星はなぜ逃げなかったのだろう。彼はあれだけ力を持つ星だ。その力を使えば、逃げることも可能だったのでなないだろうか。仮に力を消費していたとしても、力が戻ればうまく逃げることもできるだろう。

 ほんの一筋の淡い期待がセラの頬を紅潮させる。あの時は流星を助けることで頭がいっぱいで、思い至りもしなかった。けれど冷静になってみると、それがセラにとっての希望となる。

 だがそうなってくると新たな疑問が浮かび上がる。キランと流星は、なぜあんなに似ているのだろう。兵たちが間違えるほどだ。

「もしかして自分から身代わりになったのかな……」

 思わずセラは考えを声に出していた。キランは流星のことを知らない様子だったけれど、流星はキランのことを知っていたのだろうか。

「なんのことだ?」

 と不思議そうにナトリが問う。ナトリは流星のことを知らない。「なんでもない」とセラは、素っ気なくナトリに言葉を返した。


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