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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
29/31

【15】

「お待ちください」

 先を促すように立ち上がったナトリを止めたのは、セラを抱きかかえたノズだった。

「その前になぜ大公様がシューレの地に貴方を遣わしたのかお聞きしたい」

 ナトリがシューレからこの樹海に逃げ込んで来たというのなら、シューレであれからなにが起こったのかも知っているはずだ。セラの身体は自然と緊張で強張った。思わずノズの腕を握りしめていたのだろう。ノズが大丈夫だとでも言うように、もう片方の手でセラの背中をあやす様に撫でてくれた。

「この短期間にガレに入るには、樹海を抜けてシューレに向かうしかなかった。それに大公様はオーロラが鳴ったのをお聞きになったようです」

「オーロラが鳴る?」

「そう、空の音が時々言葉を伝えてくることがあるのですよ。まさに、シューレの民が星の声を聞くようにね」

「シューレの民についてもすでにご存知でしたか」

「人魚の涙をご存知のあなた方なら、すでに承知の上でしょう。アルクトゥールスはシューレの起源といわれて言われています。だから、帝国が下隠しにするシューレの存在をこうして知っていてもおかしくはないでしょう?」

「だからシューレに入り星の予言を探っていたというわけですね」

 ノズの言葉にナトリは否定の言葉を口にしなかった。代わりに、「天の裂け目からもれる音は断片的ですから」と言って、押黙る。

 それを見て取ってセラは口を開いた。

「シューレの様子は? 流星は捕まっていなかった?」

「誰のこのだか。少なくとも誰かが捕まったという話は聞きませんでした。ただ……」

「ただ?」

 ごくりとセラの喉が鳴る。残してきた兄になにあったというのだろうか。

「シューレでは行方不明だった皇太子が見つかったと騒ぎに」

 思わずセラはキランを見た。ノズとタキスモ同じように主の動向をうかがっている。

「急ごう」とキランは言った。

「これ以上時間を無駄にしては、我々がここにいる意味がなくなってしまう」

「それではまるで、あなた方が騒ぎの原因の皇太子に聞こえるのですが」

「まさしくそう言っているのですよ」

 ノズの言葉に、ナトリの焦りが見て取れる。

「そんな馬鹿な。皇太子は兵たちとともに都に戻ることになったと」

「もしかして、他に皇太子がいるの?」

「皇太子をあらわすのはお一人だけです」

 キランの他に皇太子と呼べる者がいるのか、と思ったセラだったが、早々にノズに否定されてしまった。それならばキランに似た誰かが、皇太子に扮しているのかもしれない。セラには、キランに似た人物に一人だけ思い当たる節があった。

「もしかして、流星が……」

 兵たちが流星を見て驚いた様子を思い出して、セラは思った。あれは皇太子と間違えていたからなのかもしれない、と。

「セラの言っていた恩人は、僕にそんなに似ているのかい?」

 セラの言葉にキランは驚きながらも問いかけた。セラはなんと答えてよいものかわからなかった。それよりもすぐにでもシューレに戻って流星の無事を確かめたい、そんな思いに支配されて頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「わたし、戻らなくちゃ!」

 本能的に出たつぶやきに呼応して動かした身体は、ノズによって強く静止させられた。

「放して! 流星が! 流星が行っちゃう! アルクトゥールスで会おうって約束したのに!」

 振りきろうとするが、セラの力ではノズには敵わない。

「落ち着きなさい。少なくとも皇太子として扱われているならば危険は少ないはずです」

「危険なのに変わりはないわ! 放して!」

 懸命にノズから逃れようとセラは身を捩り、喉の奥から声を張り上げる。言葉の通じない状態のセラにノズはやれやれと言った具合にため息をついた。それがセラの気持ちをさらに激昂させた。だが、次の瞬間、首に感じた衝撃にセラの意識は遠のいていった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつ結びつく点と点。 それと同じくらい謎の点が星のようにちりばめられていきますね。 続きが気になる、最後にすべてが結びついたらとても気持ちよくすっきりするだろうなあと思わせる作品でした…
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