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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
28/31

【14】

 疑問は次々と沸き起こる。キランの羅針盤についていたのは人魚の涙だったかだとか。人魚の涙とはなんなのかだとか。

 そんななか、男はセラに向けていた剣をそっと下ろした。

「セラ!」

 キランがセラの名を呼ぶ。そこで初めてセラは男がセラの拘束を解いたことに気がついた。男の様子をうかがいながら駆け寄ってきたノズに、フラフラと身を預けたセラは、キランが手にしたその羅針盤から目が離せなかった。

 それは男も同じだったのだろう。

「なぜ……、なぜ人魚の涙使った羅針盤を持っているんだ」

 明らかな男の動揺に、キランは静かに答えた。

「これは母の形見。昔母が教えてくれた。アルクトゥールスの者は、この石を持った者を邪険にはできないはずだ」

「どうして? そもそも人魚の涙ってなんなの?」

 思わず出たセラの疑問に答えたのは、帝国兵の格好をした男だった。

「文字通り人魚の涙が結晶化したものだろうな。詳しくはわからない。だがアルクツゥールスでは人魚との盟約でそれを持つ者は人魚の使者として守られる」

 セラもまた人魚の涙を持っている。それは流星が託してくれたものだ。ここでそれを明かせば、セラもまた人魚の使者として歓迎を受けるのだろうか。

 しかしセラはそもそも人魚なんて知らないし、使者としてなんの役目も帯びていない。それがセラに迷いを生んだ。

 そのなかでセラを開放した男は、帝国兵の黒いマントを脱ぎ、剣を地に立てると、先程までの態度が嘘のようにその場にひざまづいた。マントの下に身に着けていたのは、ガレの兵士の身につける金属製の武具とは違い動物の革で作られた胸当てと防寒具である。

「アルクトゥールスまでご案内しましょう、使者殿」

「貴殿は?」

 とキランが尋ねた。

「私はアルクトゥールスのナトリと申します。大公様の命を受けた者です」

 落ち着きを取り戻し口調を改めたナトリは、こうしてみるとノズやタキスに似た雰囲気の男だった。もしかしたら、キランの従者であるノズやタキスのように大公に近しい人間なのかもしれない。

 年はタキスとそう変わらないが、短く切りそろえてられた黒い髪の先がキラキラと光っていて眩しく見えた。顔立ちは端正で、シューレの民にも似た色白さがある。

「大公殿の?」

「はい。実はアルクトゥールスにもう一人の人魚の涙を持った者が滞在しております。大公様はその出現に大層気がかりなご様子で、わたくしをガレに遣わしたのです」

「人魚の涙を持った者が他にもいると?」

 訝しげにつぶやいたキランの言葉に、セラはどきりっとした。セラ自身も人魚の涙を持っていると言ったらキランたちはどんな顔をするだろう。

 今のように訝しげな目で見られるくらいなら黙っていた方がいいのかもしれない。

「ドレナからの客人です」

 ドレナの名に、二人の会話を聞いていたノズとタキスの顔も自然と険しくなる。

「それはどのような人物か?」

「本人は吟遊詩人と申しておりましたが。アルクトゥールスに着けば、お会いすることも可能でしょう」

「その使者が持っていたものが、本物の人魚の涙だという確証は?」

「ご心配には及びません。本物だからこそこの短期間にシューレに辿り着き、私がこの樹海にいられるのです」

 そう言ってナトリは、防寒具の下から赤い石を取り出してみせた。

「これがその使者の持ってきた人魚の涙です。この樹海を抜けるには、これがなくては難しいですから」

 今まで四人が進んでいた方角、北へと石を向けると確かにそれは赤い光りを帯びた。同時にキランの羅針盤の石が呼応するように鳴ったのを、セラの耳は捉えたが、キランたちはそれには気づいていないようである。一瞬ナトリと目が合い、彼はセラを見て目元を緩めた。ナトリの耳にもその音が届いていたのかもしれない。そして胸元でセラ自身の持つ石もまた呼応するように熱を帯びていた。

「さあ、参りましょう。これさえあればアルクトゥールスへはそう遠くありません」


暫定的に掲載します。

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