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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
27/31

【13】

 一勢にセラに視線が向いた。正直予想外の言葉に声が出てこない。

 セラは人質なんてなったことないし、好んでなる者なんていないだろう。それでも、セラが断れば事態は動かない。

 怖い。

 寒さではなく、怖さがセラの身体を震わせた。それでもふと浮かんだのは流星のことがだった。

 流星のことがわかるかもしれない、その淡い期待がセラの勇気を行動を後押しする。

「いいわ」

 セラが言葉を放ってすぐに、キランがセラを押し止めるように腕をつかんだ。

「代わりに僕が行く」

「いや、お前はだめだ。人質はあくまで、そこのお嬢さんだ」

 木の上から指示がとび、セラはそっとキランの腕を払った。

「シューレでの出来事に比べたらこのくらいなんてことないわ」

 強がりであるのはセラ自身もわかっている。それでもそれは本心だ。怖い思いなら、もう何度もしているではないか。そう考えてしまえば、ノズとタキス、キランがいる分勝算がないわけではない。

 歩み出たセラに、木の上から影が降りてくる。木の上にいた男が身につけているのは、ガレの兵がよく身につけている黒衣のマントだった。

 ガレの兵士なのか。だがそれでは狗に追われる理由がわからない。

 セラを自らの間合いの中に入れ、男は剣をセラに向ける。その剣がどこか帝国のものとは違っているのに、近くに立ったセラは気がついた。帝国兵のそれはどこか豪としたものだが、男の持つそれはどちらからというと細身で凛としている。

「まずはこちらからの質問に答えて貰おうか?」

 皆が張り詰めた空気の中、先に言葉を言葉を発したのは、ガレの兵士の格好をした男だった。

「いいでしょう」

「お前たちは何者で、なんの目的でこの樹海にいる?」

「事情はお伝えできませんが、我らは主を護衛しながらアルクトゥールスに向かっていたのです」

 ノズの答えに、セラの腕を押さえつけた男の手に力が入った。

「その軽装で? 娘はまだ心得ているようだが、あんたたちは命知らずにも程がある」

「羅針盤も持っておりますし、旅の心得もありますよ」

「いや、北の寒さを甘くみていないか」

「マントの下には毛織物も羽織っておりますが……」

「まだ初冬だったからよかったものの、本格的な冬を迎えればそうも言っていられなかっただろうよ」

「やけに北の気候にお詳しいんですね」

 探るように向けられたノズの言葉に、男は狼狽えることなく苦笑した。

「北の生まれなものでね。動揺を誘っているようだが、無駄だぞ」

「あなたの方こそ、アルクトゥールスから話をそらそうとしても無駄ですよ」

 セラの肩ごしに、男の身体が跳ねた。同時にセラの身体も跳ねた。アルクトゥールスは流星が口にしていた北にある国の名だ。セラが横目で男の表情を確認すると、頬が強ばっているのがわかる。

「あなたのその剣は帝国のものとは違う。その作りはアルクトゥールスのものですね」

 セラが気づいたことにノズが気づいていないはずがない。

 そこを言い当てられた男が、セラの喉元にその刃を近づけた。

「だったらどうする?」

「私たちはあなたの敵ではない」

 ノズはそう言いながら、キランに視線をやった。キランはそれに頷いて外套の胸元から何かを手繰り寄せた。

「この羅針盤がその証明になりませんか?」

 キランは外套から取り出した羅針盤を高々と掲げてみせる。

 赤く光る石がセラの目にも写った。そしてそれを同じく目にした男からは思いがけない言葉がもれる。

「……人魚の涙……」

 それもまた流星がセラに教えてくれた言葉でもあった。

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