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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
三章 オーロラの都と声無き者の使者
22/31

【8】

「大昔? では今は違うのですか?」

 険悪な関係にないのならば、海は通じているのだから、人魚は直接この国に出向くこともできたはずだ。けれどそれをしなかったということは、何か理由があるのだろうか。

「人魚の伝説で語られる戦のあった時代です。我らはその戦が切欠で人魚との決別を選んだ一族なのです。人魚と二度と相まみえないことを誓い、隠れるようにこの北の地に暮らすようになりました。しかしその際に我らは、二度と相まみえないという誓いの他に、人魚ともう一つの盟約を交わしたのです。過去と同じ轍を踏まないために、(なみだ)を持つ者の力になると」

 そこで少女は一旦言葉を区切り、リツェをまっすぐ見つめた。

 謁見申請の際に人魚の涙は身分証の代わりに役人に預けてある。だから今、リツェの手元に石はない。にも関わらず、四日前それが触れていたはずの胸元が、ほんのりと熱を持ち始めたような気がした。

「人魚の涙は人魚の声を聞き、人魚がこれと認めた者しか持つことができない希少なものです。あなたがお持ちだったのは、確かに本物の人魚の涙でした。ですから人魚の声たるあなたに、単刀直入にお尋ねいたしましょう。人魚はなんと申しておりましたか?」

 リツェは音にならない、人魚の澄んだ声を思い出す。彼女は星の光を背に、花びらのような美しい唇を動かして言ったのだ。

「星の子に協力して欲しい……、と」

「星の子に?」

 少女の呟きに重なるように、彼女の隣に控える護衛のカルラが腰の剣に手を掛けた。

「ご自分が何を仰っているのかご自覚がおありですか?」

 粛々と、だがどこか怒りにも似た熱を含んだ少女の声がその動きに続く。

 何かまずいことを言ってしまったのかと、リツェは身を強ばらせた。人魚のその言葉を聞いたとき、リツェが思い浮かべたのは流星のことである。だがリツェが訊ねても、人魚はそれを認めなかった。だから自覚といっても、リツェはただ人魚の声を音にして伝えただけなのだ。

 そんなリツェの反応に、少女は大きくため息を吐き、カルラの耳元に顔を寄せた。何かを囁いたようであったが、リツェまでその内容は届かない。嫌な予感がして、リツェの背中にじわりと汗がにじむ。

 少女の言葉に頷いたカルラは、呆然としたリツェの横をすり抜け、いつの間にか退路を断つようにその背後に回り込んでいた。

「あなたが仰っていることは、我らに再び人魚の声になれ、と言っているも等しいこと。それは決して受け入れられないことなのです。ですから事の次第がわかるまでは、あなたをお返しするわけにはいかなくなりました」

「抵抗はしないことだ。お互い争うのは本意ではないだろう?」

 前後から掛けられた声は、リツェがもう逃れられないことを示していた。

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