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星詠みと流星  作者: 黒崎メグ
二章 北へ
10/31

【3】

 気配が動く度に、森の中に不釣り合いな音がした。(ころも)の擦れる音と木材がパチパチと燃える音だ。

 既に追っ手が掛かったのだろうか。セラは気配を殺して様子を伺った。

 このまま何事もなく、通り過ぎてくれればいい。今のセラにはそれを祈ることしかできない。

 だが、その祈りは届かなかった。

「若様、お待ち下さい」と濁りのない男の声がして、足音がやむ。

「いかがした、タキス」

 濁りのない男の声に返したのは、低く重い男の声だった。

「近くに何かいます」

「この寒い森の中にか?」

「土にまだ新しい足跡がある。小さいが二足歩行だ。おそらく人間かと」

「まさか追っ手が?」

「いえ、それにしては小さいし、第一痕跡を残しすぎている。もちろん罠という可能性も捨てきれませんが」

 気づかれたーーとセラは思った。

 セラの追っ手にしては彼らの会話は不自然なのだが、焦りと恐怖がセラを支配していてそれに気づく余裕もない。セラの心臓は早鐘を打ち頭は真っ白になっていた。

「見てきます」

 それでも近づいてくる気配は、セラの決断を待ってはくれない。狭いうろの中では逃げ場を失い直ぐに殺されてしまうだろう。

 逃げなければーー。

 死への恐怖が身体を突き動かして、セラはうろの外に躍り出た。

「うさぎ、か」

「いや、人です!」

 後ろ手に上がった声とひゅんっと宙を飛ぶ音。セラの足元を矢が掠め、足が絡まりセラは前のめりに転がった。

 体勢を立て直す暇もなく、再度弓を引くしなる音がする。

「待て! 殺してはならぬ!」

 矢の代わりに飛んだ澄んだ声にセラは初めて背後を振り返った。

 それと同時にーー

「動くな」

 と目の前に突きつけられた剣先に、セラはようやく動きを止めた。

 乱れた息を整えながら、セラは相手を観察する。短髪の赤髪が印象的な、長身の剣士だ。彼が持つのは帝国の兵士が持つのと同じ仕様の剣。しかし身につけているものは、あの忌々しい黒とは違っている。

 彼を含めて一行は三人。彼らは一様にセラが普段外出時に身につけるのに似た、風除けのマントに身を包んでいた。

 帝国兵ではなさそうだ。けれどそれにしては剣を操る男の身のこなしも、狭い森の中で矢を操る弓の腕も尋常ではない。明らかに武器の扱いに馴れている。素人目のセラからでもそれはわかった。

「若様、いかがいたしますか?」

 剣士は濁りない声で、主に指示を仰いだ。危険がないと判断したのだろう。壮年の弓使いが、地に投げ出した松明を拾い、主を伴って近づいてくる。

 彼らの主は薄暗い森の中にあってなお目深にフードを被っているため、正体を伺い知ることはできない。だが弓使いを制した声のトーンから若い男だということはわかった。

「あまり近づかれては困りますよ」

 彼は弓使いの忠告を手で制してセラの間近に寄ると、膝を折りフードの中に隠れたその双眼をセラと交差させた。

 セラはその瞳の色に覚えがあった。緊張に張りつめていた糸が切れ、声にならない音が胸の奥から込み上げてくる。

 セラが見たその瞳の色は、流星と同じ金色(それ)だった。



六年ぶりの更新になります。

昔の感覚が戻りきっていないので、昔の世界観に追い付いていない部分もあるかもしれませんが、少しずつ感覚を戻していければと思います。


なお、スマホからの投稿で改行に伴う段落下げ等がうまく処理しきれていないところがあるかもです。


感想などお待ちしております。

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