表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

六畳憧憬

作者: 雪村灯里
掲載日:2026/06/17

 都内の1K6畳間で、俺の新しい生活が始まる。


 俺は新里(にいさと)蓮司(れんじ)、18歳。この春から大学生だ。初めての一人暮らしに期待で胸が高鳴っている。


 ――ガタガタガタガタ……

 

 大学が始まれば友達や彼女が出来て、この部屋で多くの思い出を作るだろう。タコパに鍋パ、あと麻雀も覚えたい。それに、あんな夜やこんな夜……。俺は社会に出るまでの4年間モラトリアムを満喫する!


 先程、引っ越しも終えて両親も地元へ帰った。まだ荷物が少ないこの部屋は、6畳なのにとても広く感じる。


 親戚の(つて)で紹介してもらったこのアパートは、大学からも程よい距離でスーパーやドラッグストアなども近い。

 しかも築浅の一階角部屋。風呂トイレ別、室内洗濯機置き場有り、エアコン完備、風呂は追い焚き機能付き。クローゼットと住人向けの無料Wi-Fi完備、日当たり良好ときた!


 ――ガタガタガガタ……


 高い要素しか無いのにこの部屋、相場よりかなり安いのだ。しかも、前の住人が置いて行った家電を使って良いとまで言われた。おかげで引っ越し費用がかなり浮いたのは言うまでもない。


 まさか、事故物件なのでは? と疑い、内見時に同じアパートの101号室に住む大家、田辺(たなべ)絹江(きぬえ)さんに聞いてみた。御年80歳の物腰の柔らかい、編み物が似合いそうなご婦人だ。彼女の答えは『事故物件では無いわよ?』だった。


 ……そんじゃあ、いいか。


 趣味で儲からない飲食店を経営する富豪もいるし、このアパートもそれに近いのかもしれない。無理矢理理由をつけて無理矢理納得した。


 だけど、この部屋を契約して本ッ当に正解だった! 先程アパートの住人に挨拶をしに行ったら……みんな可愛かった。


 俺の部屋の真上、205号室に住むのは同い年の、ミステリアスで憂いを帯びた女の子。冴島(さえじま)(りん)さん。


 その隣、203号室の住人は人懐っこい可愛いギャル、柏木(かしわぎ)ヒナタさん。


 そして俺の隣部屋103号室に住むのは、天宮(あまみや)ゆかりさん。少しだらしない大人の色気が漂うお姉さんだ。


 これは期待していいのだろうか? ドラマやアニメならラブコメが始まる要素しかない。憧れていた独り暮らし。幸先(さいさき)がいい。


 夕飯を食べ終え風呂に入り、幸せに満たされた俺は眠りに就こうとした。その時だった。


 ――ガタガタガタ……


「いい加減なんだ? この音」


 幸せから現実に引き戻される。また、変な音が聞こえた。

 このアパート、唯一欠点としては時々異音が聞こえる。地下深くから震えるような……近くに線路も大きな道路も無いのに不気味だ。


 目が冴えてしまった。やっぱり事故物件なのか? 前の住人が真新しい家電を残して消えるなんてやっぱり変だ。スマホで事故物件マップを見ても何も書かれていない。気になり過ぎて心理的瑕疵物件しんりてきかしぶっけんという言葉について調べ始めた。


 へぇ、賃貸は事件発生から3年間は告知義務があるのか……。このアパートは築2年だ。つまり……


 ――ガタン!!


 クローゼットから大きな音が鳴った。クローゼットには荷物らしい荷物なんて入れてない。なのに、なぜ鳴った?


 やっぱりこの部屋、おかしい……!


 恐る恐るクローゼットの扉に手を掛けた。お願いだハクビシンやネズミで在ってくれ。俺が覚悟を決めると、扉の方から勢いよく開いた。


 暗闇に慣れた目が、目の前にいる存在の輪郭をなぞる。クローゼットの中に居たのは隣の住人、天宮ゆかりさんだった。


「天宮さん!? どうしてこんな所に!?」

「蓮司君、急いでいるの! 早くこっちに!」


 彼女は俺の手を引いてクローゼットの中へと引っ張る。まさかラブコメ開始か? それとも変な人だった??


 期待と不安で高鳴る胸は現実を突きつけられる。なんとクローゼットの壁にぽっかりと黒い穴が空いていた。彼女はその穴に俺を突き落とす。


「なぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 真っ暗なウォータースライダーを滑っているようだ。何だよコレ! 長っ!! 夢なら覚めてくれ! すると、俺の希望通り光が見えた。 俺は尻餅をついて到着する。


 痛む尻を撫でながら明るさに目が慣れるのを待った。どうやら俺は椅子の上に着地したようで、ここは電子機器やモニターが四方を囲む小さな部屋だった。このシチュエーション知ってる。


 まさか……デスゲーム!?


 モニターにウインドウが2つ現れて映像が流れる。そこにはアパートの住人、冴島さんと柏木さんが映っていた。しかも二人は体のラインが分かる、ぴちっとした変わった服を着ている。


 可愛いけど訳が分からないので、モニターに向かって叫んだ。


「冴島さん!? 柏木さん!? これなんですか? 助けてください!!」


 声は彼女達に届いたようだ。冴島さんは驚いて悲しい顔をする。


「蓮司君もギガンテスロンに乗ってしまったのね……」

「なんですか? ギガンテスロンって?」


 俺の問いに、ギャルの佐伯さんが嬉々として答えた。


「平和を守る巨大ロボットだよ! 1回の出動で3万! 敵の殲滅(せんめつ)に成功すれば成功報酬2万! 腕が鳴るね~。蓮司君! 負けないからね!!」


 ロボット!? 敵の殲滅!? 安くないか!?


 愕然(がくぜん)としていると、モニターにウインドウが増えた。そこには、俺を突き落とした天宮さんが映っている。しかも彼女は青いジャケットを羽織ってだらしない雰囲気は消えていた。真剣な目つきの彼女は俺達に向かい言葉を放った。


「全員そろったわね。指令からお言葉よ!」


 メインモニター全体に新たな映像が映し出される。それは……

 

「大家さん!? 絹江さん!?」


 神妙な顔をした絹江さんはティアドロップのサングラスをかけて手を組んでいた。俺の声を聞くと静かに話し出す。


「蓮司君、今は指令とおよびなさい。みんな、知っての通り今日から新人の蓮司君が入りました。仲良くなさってね」

「そんな! 俺、ロボット動かせないですって!!」


 俺の抗議に、天宮さんがフォローを入れる。


「蓮司君、大丈夫!! こっちでアシストするわ♡ 音ゲーみたいに、タイミング良く指定されたボタンを押してね♪」


「そんないい加減な!?」


 しかし、俺を無視して全ては進む。


「じゃあ、三人とも頼みましたよ」

「みんな~頑張れ♡ やっちゃえ♡ ギガンテスロン全機発進!!」


「「イエス! マム!!」」


 嘘だろぉぉぉぉ!


 こうして俺の憧れていたひとり暮らしはラブコメでも心霊ホラーでもなく、ロボット戦記物として幕を上げたのであった。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ