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第2話 焼肉の香りはスカウトの合図

「よし、とりあえず脅威は去った……。はず」


 抉れた地面や倒した狼を見渡しながら「正直、やりすぎた」と自分の力ながら引いてしまう。 でも、今はそんな事より食欲だ。命の危機を脱した安心感もあって、凄まじい空腹感が襲ってきている。


「さて。理系女子の名にかけて、この『魔獣』を、最高に美味しく調理してやろうじゃない」


 狼の肉を切り分けながらテキパキと準備をしていく。ライターの火を生成して薪に移し、近くの岩場から平たい石を削り出して、即席の「石板グリル」を作った。


「味付けは……日本人の魂、焼肉のタレ! …… 醤油と砂糖……ニンニクも重要だよね」


 強くイメージを集中させる。また脱力感が襲ってきたが今は構っていられない……。

 右手から、何かが実体化する感覚。

 ――ポタッ。


「え?」


 手のひらに現れたのは、食欲がそそられる黄金色のタレ……ではなく、無色透明なさらさらの液体だった。舐めてみると、ただの塩水。


「……失敗? イメージが抽象的すぎた? くっそお!」


 何度やっても、手のひらに現れるのはただの生理食塩水だった。しかも回数を重ねるごとに味は薄くなり、脱力感も限界に達している。


「ああああ!もう限界!!」


 タレへの未練に頭を抱えるが、空腹という生理現象は待ってくれない。私は悔しさに唇を噛み締めながらも諦めるしかなかった。


「タレなしで肉なんて……あーもう! こうなったら素材の味で勝負よ!」


 私は悔しさを吹き飛ばすように叫ぶと、切り分けた狼の肉をそのまま熱々の石板グリルへ乗せる。


 ――ジュウゥゥゥゥゥッ!!


 香ばしい匂いはするものの、タレの暴力的な刺激には程遠い。一口食べてみたものの、肉は柔らかいが味気ない。


 少しでも空腹を紛らわせようと、味気ない肉を食べ進める。しばらくすると、少しだけ頭のモヤモヤが晴れてきた。それと同時に脱力感の回復を感じる。


(……今ならできるかも)


 一度深呼吸をして脳内を整理する。流石に暗記なんて無理だけど、理屈で考えれば構成は見えてくる。……ベースは醤油と砂糖。そこにニンニクの刺激と、リンゴの酵素……。


(……よく思い出して。成分表のラベルを眺めるのが好きだったでしょ。最初に書いてあるのが一番多い原材料。醤油、砂糖、果実、野菜……あ、そうだ、味噌も入っていて驚いたっけ)


 手探りで、パズルのピースを埋めていく。アミノ酸の旨味、糖の甘み、酸味のバランス。正確な比率はわからなくても、「私の知っているあの味」になるよう、脳内で行う構成を煮詰めていく。


「――よし、これで行けるはず。」


――【事象再現:万能焼肉のタレ】――


 再び襲いかかる脱力感。でも、今度は右手に重いガラス瓶の感触があった。

 成功だ! 今度は完璧に、見覚えのあるラベルまで再現している。

 すかさず鉄板の上に新しい肉を移し、再現したタレを惜しみなく注ぎ込む。


 ――ジュオォォォォォッ!!

 爆発的な香りが森に広がる。


 刺激的な香りを楽しみつつ、もう待ちきれない。

 お箸で肉を口に運んだその瞬間、脳内に電撃が走った。


「……ッ!? なにこれ、すごい!!」


 ただ焼いた肉を食べた時とは比べものにならない。タレの旨味成分と野生的な肉が混ざり合い旨みが爆発していた。それと同時に頭のモヤモヤが一瞬で霧散(むさん)し、全身に力がみなぎってくるのを感じる。


「そうか! 私の『能力の源』は、この現代的な食事の体験そのものなんだ! 回復すれば能力もちゃんと使える!」


 重大な発見にテンションは最高潮。その時、香ばしい匂いに釣られて茂みが揺れる。

 上品な刺繍が目立つ黒いローブを纏った男――魔人が現れた。


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