あんたの転生ボーナスがスペシャル迷惑だっつーの!!!!
気づけば、あたしはテーブルにつき、こいつと向かい合っている。
あたしの様子がおかしかったのか、こいつは私をカフェに誘ったようだ。休憩が必要だと思ったらしい。なんて自然で優しい態度……。いやいや、これも転生ボーナス付きの判定チェックに成功したってこと?
目の前には、きっとこいつが注文してくれた、熊のラテアート付きのカフェオレ。くまちゃん、笑っててかわいい……なごむ……。熊って本物は凶暴なのに、どうして絵とかぬいぐるみにすると可愛いんだろ。いやいやいや、そうじゃなくて。このなごみ方だって、こいつが転生ボーナス付きの判定チェックにクリティカルで成功したってだけじゃない?
そんなものに、率先して騙されているあたし自身に、あらためて腹が立った。
「巧、あんたは!」
思っていたより大きな声が出てしまった。カフェの店員から隣のテーブルのカップルまで、こちらに目を向ける。当然、目の前に座るこいつも目をまるくしている。
皆様、デート中のかた、お仕事中のかた、申し訳ありません。
でも、もうごまかせないから、そのまま言うしかない。でも声だけは少し落とそう。
「あんたは、ダンプに轢かれたの?あんたの世界では、どういう風に死ぬとボーナスつくのよ?」
「は??????」
沈黙。というか、ぽっかりと空いた台風の目みたいな感じの空気。
あたしは普通の自制心はあるが、この時は怒りのあまり言葉をつづけた。ただし、声はかなり小さめにできた。
「あんたが魔法を使っているということがさっき分かった。」
テンパったあたしは、たぶんこいつを、ぬいぐるみに生を吹き込む魔法について問い詰めた。その魔法を転生ボーナスを、あたりかまわず使うことは迷惑なんだって主張した。
「それを言うなら、有希子だって魔法使いだろ?」
「は??????」
「俺、有希子以外に3分で身支度できる女の子知らないぜ。」
肺の中から全部の空気とおつりが出るくらい、あたしはあきれた。
「そんな魔法なんてどうでもいいでしょうが!」
「そうか?有希子と俺でデートしてても、たいていモデルとカメラマンの打ち合わせに間違われるだろ?あれだって有希子の隠蔽の魔法のせいだろ?」
「そんな魔法なんてないし、もっとどうでもいいじゃない。」
「有希子がショップとかに入ると、すいている店でもどんどん混んでくるだろ?あれだって招き猫魔法だと思うんだ。」
「そんな魔法なんてあってもまるで役に立たないんだから、鼻くそよりどうでもいいんですけど!魔法使いは、巧、あんたよあんた!」
「ぬいぐるみなでるの上手っていう魔法だって、大概どうでもいいと思うんだけどな」
そうよ、あんたの言っていること正しいよ。あたしの言っていることおかしいよ。それは認める。
でも、あんた、実はなんか光り輝くのにやたら世間じみた神様から大事なこと口止めされているんじゃないの?あんたの言っていることが真実だと誰もが思ってしまうように、世の中が仕組まれちゃっているんじゃないの?あたしだけが真実に気づいてしまったんじゃないの?神様主導の陰謀論って感じ?
転生やらのきっかけが、ダンプカーやらトラックに轢かれるのだって、よく考えると意味深だ。社会の維持にとって必要でありながら、日頃は意識されていない日陰の存在。つまりは、ダンプカーに轢かれることは、社会維持の犠牲になるということのメタファーですらないメタファーであって、社会の正しい成り行きをつかさどるのが神様だとしたら、神様にとってその犠牲者さんに対して適正な転生のチャンスを与える動機になると言うことじゃないかしら。ほら、頼まれもしてないのに、神様がおまけでボーナスまでべたべたつける理由になるじゃない。
そうでなかったら、あんたのこと説明できないのよ。
「それにあんたが頭いいの知っているけど、あたしの知っているほかの頭いいひととも全然違うのよ。何かオカシイの。何か無理がなさすぎるのよ。」
仕事の関連で大学病院の医師とはよく会う。こいつの友人の一部は、国内外の研究者連中だ。あたしのまわりには芸術系の奴らが多い。
兄に連れまわされて霞が関の官僚のミナサマとも会うこともよくあるし、父にセッティングされて金融関係のオシゴトのオジサマ方とお食事することもある。母からは法曹関係のセンセイがたとお引き合わせいただくことも少なくない。ん、あれらって、もしかしてみんな遠回しのプレお見合い的なやつだったのか……?もしかして、あたしってアラサー独身と言うことで、家族からカワイソウナコに思われてる……?え、心外、そしてなんかちょっとへこむ。なんで今、こんなことに気づくんだ?
まあいいや。
あたしだって、スーパーバカではない。多分。そして頭がよいかたがたを身近に見てきたし、頭の良い人への免疫もある。崇め奉ったりしない。
それでも、こいつの頭の良さは分類できない。そしてこいつは、オカシさの方向性、頭がいいからできるだろうことの範疇を大いに超えている。こいつは、人の範囲さえ超えている。
そしてこいつは、ぜんぜん威張らない。頭の良さやら何かが行動から透けて見えるだけで、ひけらかしもしないしマウンティングもしない。いや、ひけらかしてほしいわけでもマウンティングしてほしいわけでもないけど。頭がいい人が全員ひけらかし屋ってわけでも全然ないけど。
何かこうやって、一つ一つ数え上げていくと、なんかそれぞれ一つ一つはおかしなことに思えない。でも、それが積み重なって、一人の人間として組みあがって、さらにそれが安定していると、なぜかとっても不思議に思えるの。
「そんなこと言われても、俺は俺っていうだけなんだし」
そうだね。そうですよ。そうに決まってます。でも、なんだかそういう自然な態度がもうすでにアヤシイのよ!不自然なボーナスがついていることについて、自然な態度で客観視しているってことじゃないの?
「それに、あんた、なんでもできるじゃない。」
「車の運転も船の運転も下手だよ。陸でも海でもペーパードライバー。俺、使い方が決まっているものって扱いなれないんだよ。」
「いやま、それはそうだったけど!」
こいつができないことがあることを思い出して、あたしは少しほっとする。ん?なんで、あたしはほっとするんだ?
「でも、あんたには他にもボーナスついていることいっぱいあるし、そのボーナス、あたしにまで作用しているのよ。そう、あんたのボーナスが、あたしの行動とかにも加算されているのよ。あたしに影響があるのよ!」
「え、そうなの?例えばどんな?」
「あたし、プロの写真家にもポートレート撮ってもらうことよくあるけど、そのあたしから見てさえ、あんたがとるあたしの写真はいっつも写りのいい写真ばかり。なんかあたしにまでボーナス点ついてきてるに決まってんじゃない。それに、あんたと付き合うようになってから、こちとら男からも女からもきれいだねなんて軽々しく褒められることが多すぎんのよ。それもこれも全部、あんたのボーナス点がこっちにまでついちゃってるってことに決まってんじゃない!」
すると、あいつは可笑しそうに笑った。こいつ、男っぽいのに、可愛く笑うんだよ。くそ、腹立つ。
「それよそれ!その笑みが転生ボーナスの極めつけ!あたしはあんたの転生ボーナスに引っかかりやすいだけってことじゃないの!みんな引っかかっているけど、あたしは特に転生ボーナスに弱いってこと!」
「いや、有希子、俺は君のことを考えているだけだから。もし言っちゃっていいなら、有希子も俺のことを……」
「あんたの転生ボーナスがスペシャル迷惑だっつーの!!!!」




