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雪の煌めき2 〜雪が溶ける音〜

作者: 雪代深波

粉雪の記憶を胸に、春の光と一緒に歩き出す──



読んでくださる皆さまへ

前作『雪の煌めき』で描いた、胸の奥に残る淡く切ない雪の記憶。

その物語の続きを、今回は春の光と共にお届けします。

主人公・川澄莉冬(かわすみりと)と、ヒロイン・咲苗陽茉莉(さなえひまり)の出会いから、少しずつ心を通わせていく時間を、優しさとぬくもりを感じながら描きました。

「痛みの先にある優しさ」と、「心を溶かすぬくもり」をテーマに、少しでも皆さまの胸に春の温かさが届けば幸いです。

どうぞ、二人の歩みをそっと見守ってください。

『雪の煌めき2〜雪が溶ける音〜』


第1章 出会い編

冬の名残が残る駅前。

川澄莉冬(かわすみりと)は、いつものように自販機で缶コーヒーを手に取り、ふと立ち止まった。

あの日、粉雪の夜に見上げた街灯は変わらないけれど、胸の奥の感情は少しずつ違っている。

もう「君」を探してはいない。

そう自分に言い聞かせながらも、つい口元がにやけてしまった。

「おっと、冷たい風が強いな…」

思わず口に出した言葉に、自分で吹き出しそうになりながらも、肩をすくめる。天然な自分に苦笑いしつつ、心のどこかでワクワクしている自分を感じた。

その時、駅前のベンチに一人の女性が座っているのが目に入った。長い髪の隙間から覗く横顔。朝の光に照らされて、ふいに心が緩む。

「寒くないんですか?」思わず声をかける莉冬。女性は驚いたように顔を上げ、少し戸惑った笑みを浮かべた。

「平気です。春、もうすぐですから」

莉冬は軽く頷き、にこっと笑った。その自然な笑顔に、凍りついていた心の一部が、静かに溶けていくのを感じた。

二人は自然と歩き始めた。駅前の小さな通りには、冬の名残を感じさせる冷たい風が吹いていたが、心地よい空気が同時に流れていた。

「川澄さん、普段はこういう時間、あまり一人で歩かないんですか?」

咲苗陽茉莉(さなえひまり)がふと尋ねる。

「うーん、まあ…歩くのは好きですけど、今日はちょっと特別ですね」

莉冬は少し顔を上げ、街の風景を眺めながら答える。「特別っていうのは…?」

陽茉莉の声に、自然と胸が高鳴る。

「今日みたいに、ちょっとだけ春の匂いを感じられるから…かな」

陽茉莉は小さく笑う。

「川澄さん、なんだか素直でいいですね」その言葉に、莉冬は軽く肩をすくめて、自然な笑みを返す。

「えへへ、ありがとうございます。でも、陽茉莉さんも素直な方ですよね」

二人の笑顔が、冬の名残の街にそっと溶けていく。

駅前の角で、二人は立ち止まった。

「じゃあ、そろそろ……」

陽茉莉が少し寂しそうに言う。

「うん、今日はありがとう。すごく楽しかったです」莉冬も自然と笑みがこぼれる。

「僕もです。陽茉莉さんと歩けて、なんだか、春の匂いをもっと感じられた気がします」

陽茉莉は少し顔を上げて、目を細める。

「それなら良かった。じゃあ、またどこかで…」

「はい!ぜひ…次も、歩きましょう」

思わず口に出たその言葉に、自分でも少し驚いた。

ふわりと、駅前の風が二人を包む。粉雪の記憶はまだ胸に残るけれど、今は確かなぬくもりが手のひらの中にある。莉冬の心に、静かに芽生えた春の気配──それは、雪が溶ける音のように、柔らかく優しかった。

互いに手を振り、別れ際の微笑みを交わす。

「じゃあ、また」

「はい、また」

二人の足音が、駅前の小さな街角に重なり、遠ざかっていった。けれど、その一瞬の時間が、心の奥に確かな温もりを残していた。


第2章 再会編

数週間後、莉冬はいつものカフェに立ち寄った。本を片手に窓際の席に腰を下ろすと、暖かい陽射しとコーヒーの香りに心がほっと解ける。

「……あれ?」

窓越しに見覚えのある姿。陽茉莉が、隣のテーブルに座っているではないか。思わず目を見開く莉冬。胸の奥で、昨日の駅前の記憶が鮮やかによみがえった。

「陽茉莉さん…?」

声を出すと、彼女がこちらを見てにっこり微笑む。

「川澄さん、また偶然ですね」

自然と距離が縮まる笑顔に、莉冬の心は軽く跳ねた。「ええ、びっくりしました…でも、嬉しいです」

少し照れながらも、胸の高鳴りが抑えられない。

二人はカフェの席で向かい合い、少しずつ会話を重ねる。冬の記憶を胸に秘めつつ、今の瞬間を楽しむ莉冬。陽茉莉は柔らかい声で話し、自然と彼の心を溶かしていく。

「この前の駅前では、ありがとう」

「いえ、こちらこそ…あの時は、なんだか照れちゃって」

会話の隙間に、互いの視線が交わる。それだけで、胸がじんわりと温かくなる。

莉冬の中で、紗良の記憶はまだ残る。けれど、陽茉莉と過ごす今の時間が、少しずつ心を満たしていく。“痛みの先にある優しさ”──その意味を、彼はこの瞬間に感じていた。

「川澄さん、またどこかで一緒に歩きませんか?」

その言葉に、莉冬の心は高鳴る。

「はい、ぜひ…!」

小さく頷き合った二人の間に、言葉以上の温もりが流れた。


第3章 春の訪れ編

冬が完全に終わり、春の光が街を包むころ、莉冬は陽茉莉と歩く小道で立ち止まった。粉雪の記憶はまだ心の奥に残るけれど、もうそれは痛みではなく、温かい思い出になっていた。

「川澄さん、今日はありがとう」

陽茉莉が微笑む。

「こちらこそありがとう。陽茉莉さんといると、心が本当にあたたかくなる」

莉冬の自然な笑みと、ほんの少しの照れ。それを見て、陽茉莉も優しく笑い返す。

歩くたびに春の匂いが二人を包み、心も少しずつ軽くなる。

莉冬は気づく――あの人の思い出も、過去の痛みも、今の自分を形作る大切なものだったと。

そして、陽茉莉と共に歩く未来を、確かに選んでいる自分がいることに。


最終章 告白と春の笑顔

春の陽射しが小道に差し込む午後。川澄莉冬は、少し緊張しながらも、陽茉莉と向かい合った。手のひらは少し汗ばんでいるけれど、心は決まっていた。

「陽茉莉さん……あの、僕、ずっと伝えたかったことがあります」

陽茉莉の柔らかい視線を前に、莉冬は少し笑って肩をすくめる。

「なに?」

「僕…陽茉莉さんのことが、好きです」

シンプルな言葉。でも、胸の奥からあふれる想いが、確かに込められていた。

一瞬の静寂のあと、陽茉莉は小さく息をつき、にこっと笑った。

「私も、莉冬さんのこと…ずっと気になっていました」

その瞬間、空気がふわりと柔らかく変わる。互いに笑顔を交わし、手を取り合う二人。冬の名残の街角に、春の光と温もりが溢れた。

「やっぱり…笑顔っていいですね」

莉冬がふとつぶやくと、陽茉莉も笑って肩をすくめる。

「うん、莉冬さんと一緒だと、自然に笑っちゃう」

粉雪の名残も、過去の痛みも、もう怖くない。

今はただ、隣にいる人と笑い合う幸せだけが、確かに胸に広がっていた。

二人は手をつないで小道を歩き、街の花々や春風を楽しみながら、自然に笑い声を重ねる。

「ねえ、莉冬さん」

「ん?」

「これからも、ずっと一緒に笑っていけたら嬉しいな」

「もちろんです!僕も、ずっと一緒に笑ってたいです!」

そう答えた莉冬に、陽茉莉はにっこりと微笑み返す。


雪が溶けたあとに訪れる春のように、二人の未来は柔らかく、温かく、希望に満ちていた。小さな奇跡のような出会いが、確かな幸せに変わった瞬間だった。

        ~完~



最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

莉冬の天然でにこにこした性格と、陽茉莉の柔らかさ、二人の心の距離感を描くのがとても楽しかったです。

前作『雪の煌めき』を読んでくださった方も、今回初めて読んでくださる方も、二人の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

雪が溶けて春になるように、少しずつでも皆さんの心に温かさを届けられますように。 雪代深波

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