11話
「・・・」
何だ?何があった?
俺はしばらくの間呆然としてしまう。
―白昼夢
「・・・イシュゼルとリーナ。」
イシュゼルは俺の爺さんの名前で、リーナという女は俺の爺さんの机の上にあった写真の中の女性にそっくりだ。
「白昼夢ではない?」
――であればあれは何なのだ?
「そもそも俺はここに何をしに来ていたんだったか・・・?」
―そう、ボア。ボアだ。またしてもセバスに頼まれてボアを取りにこの森へ来たのだ。
この森はおかしなことだらけだ。だが、あの白い蛇なら何か知っているかもしれない。
「―おい!蛇!いるか!?」
俺は誰もいない森の中で一人叫ぶ。
―何じゃ?騒がしい。
これはテレパシーのようなものだろうか?蛇の声が聞こえてきた。
魔眼で周囲を確認するが、どこにもそれらしい姿は見えない。
「・・・イシュゼルとリーナという奴らに会った。だが、あの二人はこの時代の人間ではないはずだ。どういうことだ?」
―イシュゼルにリーナか。面白い人間ではあったな。
蛇がふっと笑った気がした。
「お前の仕業か?」
もしかしたらこの蛇ならそういったことも可能であるのかもしれない。
―我は何もしとらん
「なぜだ!?一体誰が!?」
―我は何もしとらんと言っておるじゃろう。・・・まさか、ーか? どこで会うた?
蛇はよく聞き取ることができない言葉で誰かの名前を言う。
「誰のことだ?俺はそんなやつは知らん!」
―おぬし、何を見た??
どうやら本当に蛇の仕業ではないらしい。
「・・・分からん。イシュゼルとリーナ、それに無駄にくねくねした木々に巨大な湖だ。」
―ほう
「何か知っているのか??」
―あやつめが何を考えているのか我にも分からん
「どういうことだ!?」
だが、それっきり蛇から何の返事もなかった。
―全く、何だというんだ
日の傾きから考えて、ここに来て時間はそんなに経っていないはずである。それなのに、俺は自分がくたくたに疲れていることに気が付く。
「・・・ボアは明日にするか。今日のところは帰ろう。」
離れにある自分の部屋に戻ると、俺はそのままベッドにダイブする。
そしてそのまま眠りにつくのだった。
―しばらくして、
―ジリリリッ
玄関のベルが鳴る。
「・・・誰だ?」
まだ眠いが、壁時計を見ると夕食の時間だった。
階段を降りて玄関の扉を開けると、メイドがバスケットを持って立っていた。
「イシュバーン様。こちら本日のお夕食になります。」
「ああ、いつもすまないな。」
メイドはバスケットをこちらに手渡すと、一礼して別邸の方へ向かって行った。
―飯を食うか。
俺は食卓へ向かう。
思えば、あの二人もこの離れにしばらく住んでいたのだろうか?
きっと恋人どうしだったのだろう。
そう思うと少しだけ二人が羨ましい。ここでの食事も一人と二人とでは随分と違うはずだ。
「・・・」
俺は飯を食いながら、今いる食卓の、かつての様子を思い浮かべる。
――イシュゼル、今日の食事はどう?腕によりをかけて作ったのよ?
――愛しいリーナ、いつも君の食事は最高さ!でも俺はデザートの君を待っているのさ。
――もう、イシュゼルったら!
――ほら、おいで? リーナ
――うん・・・
――抱き合う二人
そんな会話がここでされていたのかもしれない。
・・・そんなことを考えると、急に一人で飯を食うのが寂しくなってきた。
俺は別邸の様子を思い浮かべる。たまには向こうで食べてみるのはどうだろうか?
――イシュバーンよ、おまえは少しはイシュトを見習おうとは思わんのか!
――父さん、兄さんに何を言っても無駄だよ?
――おお、我がイシュトよ。お前こそ侯爵家にふさわしい
――父さん・・・。兄さんなんか気にしちゃだめなんだ
――おお、愛しいイシュトよ・・・。
――父さん・・・
――見つめ合う二人
「・・・やはり一人ほど気楽なものはないな。」
何故かは知らないが、急に元気が出た。
そんな妄想をしていると、いつの間にか飯を食い終えていたようである。
―そろそろ鍛錬の時間か
鍛錬室に向かうことにする。睡眠を取ったためか、疲れも取れていた。




