10話
しばらく歩いていると、本当に水が少し流れている場所に辿り着いた。
「―さすがはリーナ!」
大げさに喜んでみせるイシュゼル。
「もう、イシュゼルったら!他の人が見てるじゃない・・・。」
それでも喜ぶリーナ。
―もうお腹いっぱいだ。
「・・・後はこの水の流れる方向へ進むだけだ。いずれ人里へ着くだろう。」
きっと俺の顔はうんざりしていることだろう。
「イシュバーン。さすがじゃあないか。」
「さすがね!イシュバーン!」
――段々この二人の相手をするのが疲れてきた。
少し先を進んでいくと、ペタペタという複数の足音が聞こえてくる。
―ありゃ何だ?魚?が槍を持っている。
「―リーナ、サハギンの群れだ。」
直ちに、イシュゼルが俺たちの前に出る。
「―イシュゼル、いつでもサポートできるわ。」
リーナはどこから取りだしたのか、スティックを構える。
「イシュバーン。君は後ろへ。―ドライブ。」
そう言うや否や、イシュゼルはサハギンに向かってすっ飛んでいった。
「―覚悟。」
イシュゼルは剣を構え、サハギンを両断する!
あっという間にサハギンを一匹を片付け、
「―アイスランス」
リーナから巨大な氷柱が射出され、これまたサハギンを速攻で片付ける。
「天に住まう神イシュヴァルよ。その名において我は命じる。その大いなる怒りをもってあらゆる敵を滅ぼせ。サンダーストーム」
すると、複数の光点がイシュゼルから発射されサハギンたちの上に止まる。
―バリバリバリバリッ!!
一帯のサハギンが黒焦げになる。
―範囲魔法。
こちらから見る限り、二人に疲労した様子はない。
――間違いない。二人とも一流の魔法使いだ。
「―怪我はないか?」
イシュゼルがこちらに向かって言う。
「ああ。問題ない。二人とも強かったんだな?」
素直にそう思う。
「そうだな、俺たちは魔法学院アルトリウスでトップクラスだったんだぜ?」
誇らしげに語るイシュゼル。
「そうなの!ね、イシュゼル!」
リーナも胸を張る。
「だった?」
何故か過去形であることを気にしてみることにする。
「―な、なんでもない。さあ、先を急ごう。」
「そ、そうよ、急ぎましょう。」
―話したくないこともあるだろう。
俺はそれ以上追及せず、二人の後を追う。
しばらく先へ進むと、
「―トレントだ。俺が出る。―ドライブ。」
直ちに、イシュゼルは敵の元へすっ飛んでいき、
「フッ、ハッ」
目にもとまらぬ速さでトレントの枝を剣で捌く。
一回剣を振るう度に、トレントの枝が三本も四本も飛んでいるのはどういうことか??
――そして
トレントに剣を突き刺し!
「避雷針!!」
―バリバリッ・・・ドンッ!!!
大きな音がすると、トレントが炎上していた。
――今のは俺の見たことのない魔法だ。何だこいつは?
俺は目を見開く。
イシュゼルは黒焦げになったトレントからピッと素早く剣を引き抜き、
「―怪我はないか?」
ニヤリと笑う。
「―さすがはイシュゼル!!」
抱き合うイシュゼルとリーナ。
こんなやつがいたとは。
これは場合によっては後半のハーヴェルすら超えるだろう。強さの底が知れない。
―果たして俺が戦ったとして、この男に勝つことができるだろうか?
「あ、ああ。先を進もう・・・。」
俺は二人に圧倒されっぱなしだ。
そのまま先へ進んでいくと、
「―イビルアイ、今度は私がやるわ。」
前へ出るリーナ。
すると、イビルアイがこちらへダークボールを放ってくる!
「―ディスペル。」
リーナが短く唱えると、イビルアイの放ったダークボールが霧散する!
――はあ?
ありゃ何の魔法だ?
「―アイシクルダンス」
複数の魔法陣が瞬時に展開し、キィン、キィン、キィンと甲高い音が響き、大量の氷がイビルアイを包む!
・・・勝負は一瞬だった。
イビルアイはそんなに簡単な魔物ではないはずだ。
「さすがはリーナ!」
「イシュゼル!!」
―抱き合う二人。
「・・・」
俺は何を言うでもなく、その場に立ち尽くしてしまう。
「―ゴホン。すまない、イシュバーン。先を急ごう。」
「えへへ・・・。」
そう言うと、霧に包まれた変な森の中を疾走していく二人。
俺はその後を追うことにする。
そして、更に森の中を進んだとき
何だろうか? 森の先がキラキラと輝いて見える。
―あれは
俺はセバスの言葉を思い出す。
「湖だ!」
イシュゼルの声が聞こえる!
「本当!綺麗ね!!」
リーナの声が聞こえた!
―――と。
気が付いたとき、俺はいつもの森の入り口にいた。




