5話
―何やら外が騒がしいな?
と、どうやら外に誰かがいることに気が付く。
―ん?あれは誰だ?
よく見ると、イシュトとセバス、そして見慣れない女が一人。
「―何か用か?」
俺は3人に声をかける。
「坊ちゃん、お帰りなさいませ。」
まずはセバスが挨拶をする。だがその顔は困り果てた様子だ。
「どうした?何か問題があったか?」
俺はセバスに確認する。
「―兄さん、しばらくの間こっちの離れを使えないかな?」
などとのたまうイシュト。
「お前は何をいっているんだ?」
―いきなり何を言い出すんだ、こいつは。
「ローズが静かなところがいいと言うんだ。」
そう言って隣の女を見るイシュト。
「別邸の方も静かじゃないか。」
うちのメイドたちはやかましくはないはずだ。
「こちらがいいわ。」
キッときつい目でこちらを見るどこぞのご令嬢様。
「―お前がローズか。ローズ、ここは俺の住処だ。悪いが向こうで泊ってくれないか?」
「―イシュトから聞いているわ。あなたもう廃嫡されているんですって?住処の一つくらい譲れないものかしら?」
―なるほど。そういう言い分か。
「ローズ。この家を住めるように掃除をして整えたのは、俺だ。イシュトではない。」
これで通じるだろうか?
「それがどうしたというの?」
きょとんとした顔をするローズ。
―まあ、貴族ってそういうもんだよな。どうする?
「どうしてもここに住みたいというのなら、俺もいつものようにここで暮らすが、3人でも問題ないのか?」
「―どうしてあなたと暮らさないといけないのよ。あなたが出ていけばいいじゃない。」
すまし顔でそんなことを言う。
「ならば力ずくでやってみるか?」
―最終手段だ。
「―いいわ。あなた、とっっっても弱いってことを兄さんから聞いているのよ?」
そう言ってにっこり笑うご令嬢。
―どうなっても知らんぞ?
俺は手加減するのが苦手だから、分からせるなどと甘いことは考えない。やるなら全力でいく。
「おやめください!!!」
セバスが叫ぶ!
「ローズ様。わたくしが言うのも何ですが、この離れは坊ちゃんが住む場所で今は汚れています。あなた様にはふさわしくない。大人しく別邸に戻って頂けませんか?」
セバスが汗を拭きながらそんなことを言う。
「―ふん!次までに片付けておくことね!」
ローズはそう言い捨てて、別邸の方に戻っていく。
「―兄さん、命拾いしたね。ローズは兄さんなんかより、ずっと魔法の才能があるんだ。」
イシュトはイシュトでそんなことを言ってローズの後を追う。
「・・・坊ちゃん、申し訳ございません。」
何故かセバスが謝ってくる。
「何故セバスが謝る必要がある?謝罪しなければならないのはあいつらだろう?」
「矛を収めて頂いたことを感謝しております。」
セバスに直接俺の実力を見せたことはないが、何度か狩の成果を見せているので、ある程度は俺の実力を把握しているのかもしれない。
「それより、少し小腹が減ったな。追加で何か軽く食えるものを持ってきてくれないか?」
妙な諍いに巻き込まれたせいか、少し腹が減った。
「―申し訳ございません。現在、ローズ様とイシュト様のお料理を優先させておりまして、もうしばらくお待ちください。」
そう言うと、セバスはまたしても頭を下げる。
「なるほど。では準備が出来たら持ってきてくれないか?」
――あるいは、非常食を用意するのはどうだろう?
特にこれからはダンジョンに行くのである。予め非常食を準備し、それを持っていくというのはよいアイデアだ。
「・・・であれば、さっそくレシピを知る必要があるな。」
「坊ちゃん、何かおっしゃいましたか?」
「―いや、何も。独り言だ、気にするな。」
「そうですか。それでは私はこれで失礼します。お夜食は後ほどお持ち致します。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
セバスを見送り、俺は離れの中に戻る。
―さて、鍛錬の続きといこう




