3話
―これがダンジョンか
山の斜面にぽっかりと開いた洞窟の入り口に見える。
その中は暗くてよく見えない。
―ごくり
俺は唾を飲み込み、その中へ足を踏み入れる。
持ってきたカンテラを使おうかと思ったが、まずは魔眼を試してみよう。
試しに目に魔力を集中させてみると、ある程度、はっきりと内部の様子が見える。
―これは便利だ
あの白い蛇に感謝である。もちろんレーダーを使用しても同じようなことができるだろうが、レーダーは無機物を透過するので、近くに例えば岩のでっぱりがあったとしても気が付かないことがある。
これに対して、魔眼を使用すれば、通常の視界に少し明るさが加わり、更にレーダーによる情報が乗るので、近くの無機物を見分けられる上に、物陰に魔物が隠れていたとしても発見できる。
だが、欠点として魔眼を使用している間は魔力を継続的に使用する上、目から入って来る情報量が多いので少し気持ち悪い。気持ち悪いのは慣れで克服できるかもしれないが、魔力を継続的に使用する方はどうしようもない。
―俺の技に燃費の悪いものが多いのは何とかしたいものだ
そういえば、あの影との戦闘の際にはとっくの昔に魔力が切れていたはずだが、継続的に魔法を使用していた他に、迅雷を放つこともできた。
「ありゃどういうことだ?」
火事場の馬鹿力と思っていたが、よくよく考えてみれば、そんなわけないだろう。
もしかするとまだ俺の知らない魔力の使い方を無意識にやっていたのかもしれない。
―と。
キィキィと音が聞こえて来た。
―この声はフライングバットか。
バチバチッ!
俺は魔力変換を使用し、襲い掛かるフライングバットを確実に仕留めていく。
これまでは魔力変換を使用するには、魔力集中をした後でなければならなかったが、既に魔力変換も無意識のうちにできるようになっている。
魔力変換による電撃を放出する初速がこれまでと段違いだ。
―やはり確実に強くなっているな。
「魔法王国エルドリア」では、他のRPG同様にレベルの概念が存在した。俺が把握することができないだけで、こちらの世界にもレベルがあり、知らず知らずのうちにレベルアップしているのかもしれない。
大方のフライングバットを倒した後、少し遠くの方を魔眼で見る。先の方には魔物の気配は今のところない。
「―よし。」
俺はその間に持ってきたカンテラに火をつける。魔眼だけでは明るさが充分ではないのである。
今のところ遭遇したのはいつものフライングバットだけである。もう少しだけ先に進んでみよう。幸い一本道のようだ。
そうしてしばらく先へ進んでいると、奥の方に、目を光らせる何かが数匹いるのが見えた。相手もこちらに気が付いたようで、走って来る!―あれは、犬か?
ハッハッハ
という犬のような声を上げつつ走って来る。
―なんだ?
視界に現れたのは巨大な犬?いや、犬ではない!
「―ウルフか!」
俺は自分の両手を魔力変換による電撃で覆い、襲い掛かってきたウルフに貫手を放つ!
「―キャン!!」
すると、ウルフは犬のような声を上げ、壁にすっとんでいった。
―無意識に手加減していたのか?
あれくらいの強度であれば一気に貫くこともできたはずだ。
「ガルルルッ」
残りのウルフが後ずさりをする。
―ジャリ
俺が一歩近寄るとパッとダンジョンの奥の方に走っていった。
残されたのは瀕死のウルフである。
――ふいに昔飼育していたゴンザレスを思い出してしまう。
―なんてこった。
たかがウルフ1匹を仕留めることができないとは!
意を決し、もう一度両手に魔力を集中させる!!
―だめだ!!!ゴンザレスの顔が浮かぶ!!!!
「・・・しょうがないな。今回だけだぞ。」
俺はポーションを取り出し、ウルフにかけてやることにする。
しばらくすると、ウルフは意識を取り戻し、ダンジョンの奥に走っていった。
―今日はこれ以上ダンジョンに深入りするのはためらわれるな
原作でその存在を知っているとはいえ、ウルフとは今まで遭遇したことはなかったのだ。
俺はゴンザレスの顔を思い出しながら、ひとまず離れに戻ることにするのだった。




