2話
翌日も朝早く起き、まずはランニングを行う。
そして、ランニングを終えるとそのまま風呂だ。
風呂から出る時間にメイドが朝食を持ってくるので、まずは腹ごしらえをする。
―今日はダンジョンに行こう。
そう、この長期休暇を活かしてダンジョンアタックをするつもりだ。
もちろん、ダンジョンを攻略しようなんてつもりはない。あくまでも俺の鍛錬のためである。
ダンジョンは暗い所が多いと聞いている。そこで離れを掃除するときに見つけたカンテラがあるので、それを持って行くことにする。
今日行くつもりのダンジョンも、俺がいつも行く森と同じく、あまり強い魔物が出ないと聞いている。だが、森では必ずしもその情報が正しくないことを俺は身をもって経験した。
強敵を相手に森で戦えたことの理由の一つに、森は場所が開けているので、移動の制限があまりかからないということがあった。俺は魔法使いではあるが、自分の大きな強みの一つにその機動力があると考えている。迅雷は言うまでもなく、魔力集中を利用して行う縮地などはもはや無意識で使用できるまでに昇華されている。
―だが、ダンジョンではそうもいかないだろうな。
例の影との戦闘で優位に立ちまわることができたことの大きな要因の一つに、俺が予め窓や扉を開けておき、移動場所を確保していたことがあった。あの一戦は閉鎖空間での戦闘とは言えないものだ。
これに対し、今度のダンジョンは一度その中に入りさえすれば、おそらくは閉鎖空間であり、行動に大きな制限を受けるだろう。
しかし、閉鎖空間での戦闘も「魔法王国エルドリア」では存在するので、何かのとばっちりを受けてそういう状況に陥らないとは言い切れない。
スローライフのためには、いついかなる状況にも対処できる戦闘能力が必要なのである!
「よし、そろそろ行くか。」
味気のない飯を食い終わると、ダンジョンに行く準備をする。
「まずは、ポーション1つと、マナポーション2つが入ったポーチ。ズタ袋にカンテラと包帯を入れておくか・・・。」
もちろんダンジョンの奥深くにまで潜るのであれば、このような装備では不十分であることは明らかだ。しかし、今回はほんの入り口、あるいはそこから少し入ったところまでの探索と決めている。
――さて、行くか。
まずいつもの森の入り口へ向かう。
そういえば、ダンジョンと聞いて思い浮かぶのが、秋ごろにある、ルディの婚約者であるエミリーとハーヴェルとのイベントである。
魔法学院アルトリウスでは、希望者を募り、秋ごろに合同でダンジョンの探索を行っている。なぜか次の合同探索に限り、将来有望な中等部の優秀な学生もそれに参加することになる。その学生は複数人だが、そのうちの一人がエミリーである。ちなみに、イシュトもその中にいたりする。
有り体に言ってしまえば、集団から何故かはぐれてしまったエミリーがダンジョンで襲われ、それをハーヴェルが難なく倒す。そこからエミリーがハーヴェル大好きになっちまう。
当然、それを見たルディは黙っちゃあいない。そこからルディはエミリーを取り戻そうと奮闘するが、ハーヴェルはそのことごとくを撃退するのである。
――俺はいつもの森の奥に続く道とは逆の分かれ道を進んでいく。
イシュバーンは、初回にハーヴェルに魔法剣を食らい気絶した後は出番が激減するが、ルディが悪役貴族のバトンを新たに受け取り、そしてこれまたあっけなくハーヴェルにやられるのである。
イシュバーンは自業自得的な要素があったからまだましだが、ルディは悲惨だ。
自分の婚約者が自分の知らないところで勝手に集団からはぐれて、それを勝手にハーヴェルが救い、勝手に婚約者がハーヴェルに惚れるのである。
―やはりさすがに何か手助けをするべきか。
ゲームと、この世界は異なる。この世界のルディは俺にとっては数少ない友である。
・・・少なくとも俺にとっては。
ハーヴェルのハーレムパーティーの戦力が下がる恐れは確かにあるが、プリムとアイリス以外にも、ハーレム要員は他にもいるのだ。エミリー一人が抜けたところで、問題ないだろう。
そんなことを考えながら歩いて行くと、やがてダンジョンの入り口に到着した。




