20話
俺の目の前には巨大な丸い岩がある。
―ん??? 何か思っていたのと違うな?
「・・・?」
俺は思わず蛇を見る。
―ほれ、さっさとせんか。
「・・・いや、何を。」
確かに蛇は試練と言ったが、こんなものを見せられたところで、さっぱり分からん。
何だこれは?
とりあえず触ってみるか。ペタペタと丸い岩に触れてみる。
――硬い。岩みたいだ。というか質感も岩だ。丸い岩。
「・・・硬いな。」
俺はもう一度蛇の方を見るが、とりあえず蛇は居るだけで何もしてこようとはしない。
「―おい、どうしろってんだ?」
俺は何をするべきか聞いてみることにする。
―この岩を、汝一人で道具を使わず叩き割ってみよ。
「俺一人で道具を使わず叩き割るだと?」
ふーむ。迅雷を使えば割れるんじゃないか?
そう思うと俺はすぐに、
「迅雷」
―バシュッ
俺はそのまま拳を岩に繰り出す!
直後、ズゥンと大きな音がするが岩は無傷である。
「――は?」
無傷だと?そんなわけあるか!
「―どうなってやがる?」
俺はもう一度その岩をペタペタと触る。
俺の迅雷は普通の岩程度は簡単に貫通する。本来この程度の岩であれば、苦も無く叩き割ることができるはずだった。
―その岩は瞬間的に魔法をはじくぞ。
蛇の方を見るとどことなく楽しそうだ。
確かに迅雷は魔法もどきであるが、魔力を使うので魔法の一種である。
対象が魔法をはじく性質のものであれば、迅雷を放ったとしても、効果は強烈な拳の威力程度のものだろう。
「あ?魔法が通じない?んなもん、どうすりゃいいんだ?」
まさか素の拳の威力だけで砕こうというのだろうか?
いくら闘気が使用できるとして、こんなデカい岩を拳だけで砕けるものだろうか?
「―闘気だけでこんなバカでかい岩を砕けと?」
―ほう。闘気も使えるのか。面白い、やれるものならばやってみよ。
――ってことは、闘気は方法には含まれていない?
「ふーむ。」
―ではな。岩が割れたならばまた来る。
蛇はそのままブンッと跳躍し去っていった。
「―いやいやいや、飛びすぎだろ。」
後に残されたものは巨大な丸い岩である。
「・・・どうしろってんだ?」
段々と日が暮れて来た。
キィキィとフライングバットの声が聞こえてくる。
―もうそんな時間か
俺は岩をじっと見つめる。何度見つめても丸っこい形をした岩である。
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。唸れ!サンダーボルト!」
バチバチッ!
音を立て電撃が岩に飛ぶが、岩に当たる直前でバチッと音を立てて霧散してしまう。
―どうしたものか?
魔力集中をした状態で殴ってもこちらの拳が痛いだけである。魔力集中と魔力変換を使った全力の突きをしてもやはり同じく痛いだけ。魔力変換をして電撃を浴びせてもサンダーボルトと同じようにバチッと音を立てて弾かれてしまうだけだった。
「・・・分からん。」
何か他に方法があったか?
そうこうしているうちに、フライングバットがこちらに集まってきてしまう。
――いったん帰るか
このままうんうん唸っていてもしょうがない。
ここは一旦帰り、また明日出直すべきだろう。
俺はそのまま離れの館まで戻ることにする。
夕食を食べ、風呂に入ることにする。
―ザブン
寝る前でもよいが、考え事をするとすれば、風呂に入っている時間が一番である。
あの丸っこい岩に色々と試してみたが、俺の使える魔法は全てはじかれてしまった。
闘気はどうかと考えたが、そもそも闘気は未だ制御できてはいないし、あの白い蛇も闘気で壊すことは想定していなかったようだ。
果たして道具を使わずに一人であんなものを叩き割ることが可能だろうか?
―魔法をはじく。瞬間的に魔法をはじく・・・。瞬間的に?
「そういえば、まだ試していなかったことがあったな?」
すっかり忘れていたが、俺には魔力を持続的に電撃にして放出するという技があったはずだ。これは最初にサラマンダーの硬い皮を切る際に使ったものである。
―あのときは確か、無理やり小刀に電気を通してサラマンダーの皮を切っていったんだよな?
燃費が悪いからこれまで実戦で使用しなかったものだ。
「――明日試してみるか。」
俺は独り言を言い、風呂から出ることにした。




