19話
「イシュバーン様。―それは。」
・・・真剣な顔をするセバス。
「―それは?」
ゴクリ。思わず唾を飲み込む。
「・・・腹上死です。」
―フクジョウシ?
「まさか、あのフクジョウシか?」
あまりのことに呆然としてしまう。
「はい。その腹上死です。」
二人の間に微妙な空気が流れる。
「・・・坊ちゃん、こちら本日の昼食です。」
セバスが眼鏡の位置を調節しながらこちらに手渡す。
「・・・ああ。」
俺はセバスから手渡されたバスケットに入った昼食を受け取る。
「―それでは私めはこれで。」
そう言うとセバスはさっさと別邸の方へ戻って行く。
黙って俺は誰もいない食堂でパンを口にする。
今日の昼食は割とメニューによく出てくる、何かの鳥の肉の肉増し増しとパンと何かの野菜である。豊富な栄養を持つ食事であることは一目で分かるが、まるで今の俺の心の中を表すようにぱさぱさとしている。
あのとき俺の爺さんの部屋で見た公爵家のご令嬢だという女性は、どことなくラズリーに似て、可愛らしい容姿をしていた。しかし、よく考えれば俺の爺さんなんぞの毒牙にかかるはずがないだろう。
「―単なる爺さんの横恋慕か何かだろうさ。」
もしゃもしゃと昼飯を平らげるが、やはりほとんど味はしなかった。
おかげでいい感じに頭がピンク色から離れることができたようだ。
「まあ、何か夢でも見ていたのだろう。」
ラズリーの家に招待されたのは、単に公爵から俺へ労いの意味があっただけだろう。
護衛もその労いの一環で、すぐに正式な者がラズリーの護衛に付くはずだ。
そして。
―まだまだ俺は弱い。
模擬戦をするわけではないが、鍛錬を怠れば、どんどん強くなっていくハーヴェルに後れを取ることになりかねない。
アイリスやプリムもどんどん力をつけていく。ルディですら、エミリーをハーヴェルに取られて、怒りに任せてハーヴェルを打倒しようとするのだ。
それどころか、学院には本来退場するはずだったセフィリアやラズリーといった才女もいる。
イシュバーンのポテンシャルは彼らに比べてお世辞にも高いとは言えない。
―鍛錬だ。鍛錬を怠るわけにはいかん。
「白い蛇が何だと言うのだ。まぐれとはいえ、フレイムサラマンダーにも勝てたのだ。あれより強い敵がいるとは思えん。」
―森に行こう。
何ならあの蛇を探しに行ってもよい。そうだ。俺はイシュバーン。俺に怖いモノなどない。
――しかし、意気込んで森に来てみたものの、特に森に変わった様子はない。
こちらの気分が乗っているのに、森はいつもの生命に溢れる様子を見せている。
俺はレーダーを使用して周囲を調べてみるが、ボアが何と3匹も近くにいた。
―不思議な術じゃ
!?
なんだ?今何かが頭に響いたぞ?
―どこだ?どこにいる?
だが、周囲を目で見ても、レーダーを放射しても何もいない。念のため、周囲の木々の上を探ってみるが、特に変わった様子はない。
「おい!見ているんだろう!出てきたらどうだ!?」
俺は叫んでみることにする。
フレイムサラマンダーが現れたときとは逆に、森の様子は生命で満ち溢れている。
「・・・帰るか?」
客観的な森の状態から判断すると、特に危険はないと思われる。だが、奇妙なことが起きていることも確かである。
―何じゃ、帰るのか
――まただ。やはりいる!間違いない!!
ふと、俺の周囲一帯だけ日陰になっていることに気が付く。そんな時間ではないはずだ。
―まさか。いつの間に。
頭上を見上げると、巨大な蛇が、すぐ真上の木を覆うようにして俺を見つめていた。
ッ!!!
俺は瞬間的に横に避ける!
―気が付くのが遅い。・・・何度も食うてやる機会はあったのだぞ。
蛇は悠々としており、こちらを襲ってくる様子はない。
―ちょうどよい。汝を試してやろう。乗り越えることができれば良いものをくれてやるぞ?
「ふん、蛇程度がこの俺を試せるなどとは、俺も見くびられたものだ。」
もちろんハッタリである。
―ふっふ。言いよるわ!
蛇の腹が大きく膨らむ!!
―ブレスか!?
俺はいつでも迅雷で回避できるように集中する!!!
――ヴェッ
すると、蛇は巨大な丸い岩?を吐き出したのである。




