16話
翌日。いつもより遅めの時間に起きた。
やたらふかふかのベッドで上質な睡眠をとることができ、快適な朝を迎えることができた。
―喉が渇いた
水差しからティーポットに水を入れ、昨日と同じ要領で紅茶を沸かす。カップに紅茶を注ぐが、朝の少しだけひんやりとした空気のせいか、華やかな香りがする。
「―良い香りがするな。」
そして、わずかな酸味と深いコク。
昨日は酔いもあってゆっくりと味わうことができなかったが、今ならこの紅茶もかなり上等なものであることが分かる。
―本当に気持ちのいい朝だ
コンコン。
すると、ノックをする音が聞こえる。
「イシュバーン様、朝食の支度ができております。起きていらっしゃいますか?」
外から聞こえてきたのはソフィアの声だ。
「ああ、起きている。」
俺はそう言って部屋の扉を開ける。
「おはようございます。こちらをお持ちしました。朝の支度が出来ております。」
そう言うと、ソフィアは綺麗にクリーニングされた俺の制服を手渡してくる。
「おはよう。少し待ってくれ。着替えるから、案内してくれるか?」
「かしこまりました。」
そう言うと、ソフィアは軽くお辞儀をする。
俺は制服に素早く着替えると、再度部屋の扉を開け、
「―すまない。待たせた。」
「いえ。それではご案内致します。こちらへ。」
そう言うと、ソフィアは先を歩きだす。
俺はそれに付いて行くと、昨日の食堂へ案内された。
テーブルを見ると、既に朝食の準備がされており、既にちょこんとラズリーが座っていた。
「おはよう、ラズリー。」
俺はラズリーに声をかける。
「うん?おはよ・・・イシュバーン。」
きっとまだ眠いのだろうか、ぼんやりとした様子である。
「―おはようございます。イシュバーン様。」
部屋の端の方で控えていた執事のシュベルツが声をかけてくる。昨日戦った相手なので、何だかむずがゆい感じがする。
「ああ、おはよう。」
俺は朝の挨拶を返す。
「公爵とご婦人は?」
俺はラズリーに確認したつもりだったが、それに答えたのはソフィアだった。
「お二人ともいつももう少し後の時間になって朝食をお召し上がりになります。」
「・・・うん。先に食べよ?」
ラズリーが眠たげな目を擦りながら言う。
―プレートに用意された朝食も素晴らしい
昨日は、魚介と野菜の入った前菜を始めとして、わずかに甘いソースのかかった柔らかい肉をメインディッシュに、ベリーのアイスクリームといった簡単なデザートに至るまでまで素晴らしかった。
今日の朝食は卵とハム、そしてほくほくの蒸かしポテトに、野菜のたっぷり入ったスープ、そしてパンと、これはこれで食欲をそそる。
ヘイム家の食事のように変に豪華だったり、俺のいつもの食事のように単調で栄養だけは豊富といったものでもなく、食事のバランスと見た目の調和がとれているものだった。
一口食べる。
―やはり美味しい。
一見ありふれた朝食のように見えるが、さっぱりとして、かつ、まろやかな味わいが口に広がる。
「これ、美味いな?」
口から出て来た言葉はシンプルに、美味い、の一言だった。
「あ、うん。・・・そう言えば、イシュバーン。昨日私が作ったお料理、どれか分かった?」
―そういえば、そんな話があったか
ぶっちゃけ、どれもとても美味しく作られていた。だが、デザートは他に比べてかなり簡単なもので、あれならラズリーにでも作ることができそうだった。
「どれもとても美味しくできていたからな。デザートか?」
「ぶー。正解は、お魚と貝の入ったスープ!」
―なるほど、前菜か。あれもよくできていると思った。
「―あれも美味かったな。ラズリーは料理が得意なのか?」
「お嬢様はよくご自身で手料理をお楽しみになります。」
ラズリーの代わりにソフィアが答える。
「―あ!ソフィー、それ言っちゃだめなやつ!秘密にしておきたかったのに!」
どうやらラズリーがようやく目を覚ましたようだ。
「申し訳ございません、お嬢様。」
そう言って苦笑するソフィア。
「いいじゃないか、ラズリー。別に減るもんでもないし。」
「私の秘密が減ったじゃないのよ~。」
そんな感じで、朝のゆっくりとした時間が過ぎていく。




