14話
公爵には他に聞きたいことがたくさんあった気がするが。
―酔っぱらってしまった。
「まあ、いいか。」
食後のデザートを食べながら独り言を言う。
「どうしたの?」
ラズリーが不思議そうに聞いて来る。
「いや、酔っぱらってしまったなと。」
ちなみに、この世界の法でどのような制限があるかは知らないことにしておこう。
「本当は飲んじゃいけないのよ?」
いたずらっぽく笑うラズリー。
「―だが、さすがにあれは飲みすぎではないのか?」
ラズリーは酒を飲んではおらず、公爵夫人はグラス1杯分。そして、公爵の前にはボトルが何本も開けられてあった。
「いつも言っているんだけどね。」
困ったような顔をするラズリー。
「~~~今日くらいはよいのだ、ラズリー。」
顔を赤くした公爵がラズリーに言う。
「お父様は飲みすぎよ。いつも言っているじゃない。今日だけなんてことはないわよ。」
冷たく言うラズリー。もしかしたらこの公爵、酒飲みなのかもしれない。
「今日はもう遅いし、泊っていきなさい?」
公爵夫人が柔らかく微笑みながら、そんな提案をしてくれた。
―どうしようか?
セバスには書置きをしてあるし、親父やイシュトが俺のことを心配するはずがない。泊っていっても何ら問題はない。
「部屋はもう用意してあるんだからね?」
ラズリーが楽しげに言う。
―ここはお言葉に甘えるべきか。
「~~~泊っていくのだ!イシュバーン!うっぷ。」
―うっぷ?
「―シュベルツ。この人はこうなってはもうダメ。これ以上の醜態を晒す前に寝室まで運びなさい。」
公爵夫人が執事に命令する。
「―はっ。直ちに。」
執事はがっしと公爵を担ぎ、
「シュベルツ!何をするのだ!?」
「―それではイシュバーン様。失礼致します。公爵様共々私たちはこれにて。」
そう言うや否やさっさと扉を開け、退室していった。
「・・・お母様、あれはきっと吐いてしまうわよ?」
「―ラズリー、お客様の前でそういうことは言わないの。イシュバーン、ごめんなさいね?」
申し訳なさそうに言う公爵夫人。
「そうだ!お風呂が沸いているわよ?案内差し上げて、ソフィー?」
ソフィアの愛称がソフィーなのだろう。
「はい、エミリア様。イシュバーン様、ご案内致します。すぐになさいますか?」
ソフィアがこちらに確認する。
先ほどまで運動?をしていたので、かなり汗をかいている。半袖の制服を着ていたので、幸い制服が破れたりすることはなかった。
さっさと風呂に入って汗を洗うほうがよいだろう。
「ソフィア、それでは頼むよ。」
「ええ。かしこまりました。」
案内される道中、廊下から
~~~おえええええええ!
という何とも言い難い声が響いてきた。
「―トイレからか?」
何がとは聞かない。
「・・・ええ。申し訳ございません。」
困ったような顔をするソフィア。
「「・・・」」
微妙な沈黙が流れる。
「さ!参りますよ!」
ソフィアが少し焦ったように速足になる。
~~~おええええええええええええええええええ!
「・・・さすがに飲みすぎなのです。」
ソフィアが小さく呟くのだった。
俺は制服をソフィアに渡したあと、着替えを受け取り、風呂に入ることにする。
俺の制服は魔道具で簡単にクリーニングされるらしい。
魔道具って便利だよな?ちなみにヘイム家にはそこまで高度な魔道具は存在しないはずだ。
「私はこちらでお待ちしております。」
扉を開けると、かなり大きい風呂があった。
これは―すごいな。湯の温度も自動で制御されているのか、ずばり適温だ。
シャワーで簡単に体を洗い、ざぶんと風呂につかる。
――しゅわしゅわする。まさか、炭酸風呂か!?
上を見るとしっかり換気されているようだった。
調度品などを見ても手入れがほぼ完璧に行き届いていた。
こちらへ来てソフィア以外にも幾人かメイドを見ているが、実は皆、どこかのお嬢様だったりするのだろうか?
「しかし、あの執事、あれは何者なのだろう?」
普通、執事はあれほどの強さを持っているものだろうか?
うちのセバスはよく気が利き、頭も回るが、あんなおかしな強さを持つことはないだろう。
「―さすがは公爵家だな。」
俺は風呂につかり、ブクブクと泡を立てるのだった。




