13話
「ほら、こっちこっち!」
くるっと振り返るラズリー。今日はテンションが高いな。
「そんなにあたふたしていると転ぶぞ?」
「―大丈夫よ!これくらい問題ないんだから!」
―何がそんなに嬉しいのだろうか。女心はよく分からん。
そうして大きな食堂に入ると、既に綺麗に盛り付けられた料理が準備されているようだった。どれも上品かつ美味しそうで、大変食欲がそそられる。
ちなみに、侯爵家の別邸で食事をしているときは、親父とイシュトがお小言を言いまくるために味が全く分からなかった。また、離れの館に移動してからは俺の好みに合わせ、高栄養で味は単調なものに変更されていた。
これまでのヘイム家での食事とは比べるまでもないことは明らかだった。
「―これは。期待できそうだ・・・!」
思わず声に出てしまう。
「今日のは私が作ったのも出るのよ~?後で当ててみてよ!」
―なるほど。それが理由か。
「要するに他と味が違うのを選べばいいんだろう?」
俺はニヤリと笑う。
「あら?見くびってもらっちゃ困るわよ。見ておきなさい!」
―実はかなり料理上手だったりするのだろうか?
「イシュバーンはここね?」
ラズリーはそう言って、とある席を指で触れ、それからその隣の席の椅子を引き、それに座った。
―なんだか随分と懐かれてしまった気がする
「―やれやれ。」
俺はラズリーが示した椅子を引き、腰かけることにする。
「―イシュバーン様。お水をお持ちしました。」
いつの間にか部屋に控えていたソフィアが水をコップに注いでくれた。
「―ああ、すまないな。」
「・・・イシュバーン、貴方って不思議ね。」
それを見ていたラズリーが、ふとそんなことを呟く。
「どうかしたのか?」
「変に学院で威張るかと思えば、メイドに礼を言ったり、お父様の前では変な言葉で話すし。・・・えへへ。」
ちょっぴり、はにかみながら言うラズリー。
「ラズリー。酒でも飲んでいるのか?」
俺も自分自身のことを大概だとは思うが、今日に限ってはラズリーの方が変だと思う。
「―失礼ね!やっぱり今のなし!」
ラズリーがおこである。
今日のラズリーは、まあくるくると表情が変わる。見ていてちょっと面白い。
――ガチャリ
そうこうしていると、扉が開き公爵と女性が入って来た。女性の方は公爵夫人だろうか?そして彼らに続いて、先ほどまで俺と戦っていた執事が入室し、静かに扉を閉めた。
「やあ、イシュバーン。楽しんでいるかね?」
公爵が俺に声をかけてきた。先ほどまでとは異なり、その口調は俺に親しみやすい雰囲気を感じさせるものだった。
「ああ、実に。料理もかなり美味そうだ。」
俺は席から立ち上がる。このような食事の場であるが、しかし、この場が公爵家であるということを忘れはしない。
「初めまして。イシュバーン。ラズリーの母のエミリアと言います。娘がいつも大変お世話になっております。」
やはり女性の方は公爵夫人だった。ラズリーに負けず劣らず美しいが、彼女とは異なり、とても落ち着いた雰囲気の美人である。
「いや、こちらこそ、いつもラズリーには世話になりっぱなしだ。」
「―なんだか兵隊さんのような雰囲気なのね?」
そう言って、公爵夫人が首をかしげる。
公爵は、そんな夫人に少し笑い、
「イシュバーン、君はどこかで訓練を受けたのか?」
「―いや。特に、他人からこれといった訓練は受けてはいないが。」
サンダーボルトの習得を除き、こちらの世界で他人から訓練を受けたことはない。
「――もう!訓練とかそういうのはどうでもいいの!せっかくのお料理なのに!」
ラズリーが口を尖らせた。確かに、綺麗に着飾った今の彼女の前では無粋な話である。
「はっはっは、そうだったな。そういった話はまた今度にしよう。」
「あら、ごめんなさいね。私ったら。」
そんな娘の様子に、ほがらかに笑う公爵と公爵夫人である。
「―ところで、イシュバーン。君はイケる口かね?」
公爵のその言葉を聞いた執事が、そのグラスに何かを注ぐ。―あれはきっとワインだろうか?そして、注がれたワインをこちらに向けてくるのである。
チラッとラズリーを見ると、少し困ったような顔をしている。
「―むろん。俺はイケる口だ。」
思わずニヤリと笑ってしまう。
「おお!さすがはイシュバーン!将来が楽しみだ。のう、ラズリー。」
なぜかラズリーに話をふる公爵。
「もう!知らないんだから!」
そう言って顔を赤くするラズリーだった。




