12話
――否、消えたのではない。
咄嗟に魔力を集中し、ガードをする!
―が、重い突きが左手に突き刺さった!!
「・・・ぎっ!」
何とか踏ん張る!―だがそれだけにとどまらない!!
――蹴り!!
ギィン!
右腕一本、間一髪ガードが間に合った!!
―逃すかよ!
俺は瞬時に魔力集中から魔力変換を行い、相手に電撃を浴びせる!!!
「・・・ぬぉ!」
―効いているぞ!
――こちらからいく!!!
右手に魔力を集中させ、さらに魔力変換!ついでに闘気も乗せ、脇腹を狙う!!!
――ガシン!!!!
バリバリバリ!!!!!
―だが、両手で防御されたらしい
シュウシュウと音を立て、肉が焦げる臭いがする。
「―これほどとは。」
俺の本気の突きはおっさんの腕を焼いただけだった。
「―やろう。」
――大気が震え、窓という窓がガタガタと大きな音を立てて揺れる
一気に魔力を全身に集中し、さらにそれを雷撃に変換する。
おっさんの全身からほとばしる魔力と闘気も、更に一層濃密なものになっていく――
――とそのとき。
パンっと手を叩く音が聞こえ、
「もうよい!!部屋が壊れる!!!」
公爵の大声が響いた。
いつの間にか大理石には穴があき、あたりが黒く焦げていた。
言っておくが、その踏み込みで大理石に穴をあけたのは俺ではない。
・・・周囲を見ると、公爵もラズリーもソフィアも、皆、部屋の端に退避していた。
「―テレジア様。申し訳ございません。ですが―」
執事が一礼をする。
「―よい。聞かんでも見れば分かる。」
防御時に使った左腕はヒビが入ったか、あるいは折れているかをしているようで、感覚がない。さすがにポーションくらいは用意してもらう必要があるだろう。
「すまないが、ポーションを頂けないだろうか?」
俺は公爵に訊ねる。
「当然だ。ソフィア!」
「―はっ。イシュバーン様、こちらです。」
「おお、サンキュ。」
俺は軽く礼を言い、ポーションを受け取って飲む。
―感覚が戻ってきたが、かなり痛い。ズキズキとした鈍痛があるが、何とか修復できたようだ。
その後、ソフィアは執事のところに行き、ポーションを手渡す。
おっさんはポーションを直接腕にかけているが、同じように痛みがあるらしく、顔を少ししかめている。
―ふう。少し落ち着いてきた。
「イシュバーン、大丈夫・・・?」
ラズリーがこわごわと聞いてくる。
「―ああ。何とかな。だが、相手は魔法使いばかりだと思っていた。」
「私も、強い強いとは聞いていたけれど、実際にシュベルツの戦いを見るのは初めてだったのよ・・・。でもソフィーにやらせなくて正解だったわ。」
だが、ソフィアを相手にするのであれば、むしろどういう戦い方をすればよいのか分からず、俺にとっては逆にかなりやりづらかっただろう。
「それで、どうなんだ?」
俺は公爵に訊ねる。
「―合格だ。むしろ予想以上だったといえる。」
公爵は顎をさすりながら言う。
「お父様。その顎をさわるのやめてって何度も言っているのに・・・。」
するとラズリーがそんなことを言った。
「―次はご飯ね!付いて来て!」
そう言うと、ラズリーはそわそわした様子で扉を出る。俺はラズリーに続いて公爵家の食堂に向かうことにした。
「――シュベルツ。あれは何だ?」
ラズリーとイシュバーンが出ていき、ソフィアが食事の支度をしに退室して、公爵と執事二人だけになった広間で、公爵が聞く。
「―分かりません。私と同じように魔力と闘気を使用する相手だと思っていましたが。あれは確かに魔法でしょう。ですが、見たこともない―。いえ、あれはどちらかと言えば、魔物が使う魔法に近いのでしょうか?」
シュベルツは先ほどの戦いを思い出しながら言う。
「詠唱魔法、範囲魔法、大魔法、召喚魔法でもない。であれば、残る可能性は―。」
公爵が顎を触りながら言う。
「―ええ。ですが、そうであるなら、私もこの目で見るのは初めてです。」
「レグルスを招待せんで良かったな。もしここに居たらうるさかっただろう。」
魔法の体系が厳然と存在するこの世界では、極大魔法を習得することは極めて難しい。というのも、極大魔法は、正当な手順を踏まずに術者個人の独自の方法によって生じる現象であるからである。そのような極大魔法は術者の性質や性格が大きく反映される。実のところ、強いとか弱いとかそういった類のものではない。
イシュバーンの使用する魔法は、極大魔法といえるものだった。




