11話
「―それではイシュバーン。君の実力を見せてはくれないか?」
なんとなくその流れも予想できていた。相手は―
「ソフィーをここへ。」
公爵が短く言う。
執事がドアを開けると、先ほどまで一緒にいたメイドが入って来る。
「自己紹介はまだだったかな?私たちの所でメイドをしているソフィアという。」
すると、ソフィアがペコリと頭を下げる。
―だが、ひとつ問題がある。
それはどの程度の実力を見せればよいのかということである。確かに相手の何となくの実力を判断することはできる。強敵であれば本気を出すだろうし、相手がボア程度であればサンダーボルトや「おそろしく速い手刀」で問題ないだろう。
だが、馬車の中でソフィアを見る限り、ボア程度ではなく、かといってあの影や、ましてやフレイムサラマンダーには遠く及ばない。それでも、原作で出るキャラであれば相手の実力をある程度は判断することはできるだろうが、目の前のソフィアは原作には出てこない。つまり、どの程度自分の力を出せばよいのかが全く分からないのである。
「―公爵、俺は手加減をすることが難しい。」
ここは予め公爵に確認するべきだろう。
「どういうことだ?」
公爵が俺の質問の意味を訊ねる。
「だめよ!お父様!ソフィーが死んじゃうわ!」
ラズリーがはっとして言う。ラズリーは俺の実力を少しばかり見たことがあるからな。
「なるほど、その可能性は考えていなかったな。」
公爵が顎をさすりながら言う。
俺の実力を判断するのに、ソフィアで充分であると判断したのか、あるいは俺が相手に応じて手加減できると考えていたのか。
―そちらの執事はどうだろうか?
見たところ相手に不足はない、というより迅雷を使用しなければ俺よりも強いかもしれない。良い戦闘経験になるのではないか?やっぱりいつもの上下を持ってくるべきだったかな。
「そちらの執事。強いのではないか?」
俺はニヤリとして言う。
「―ほう。」
公爵が呟く。そして、執事の方を見て、
「シュベルツ。どうだ?相手になりそうか?」
公爵は執事に今一度確認するようだ。
「―分かりません。ですが、見たところ、彼にそのような強さはないように見えます。」
シュベルツという執事も魔力の強さを判断できるのだろうか?ソフィアはラズリーも同じようなことができると言っていたな。今度聞いてみようか?
「ラズリーよ。シュベルツによるとそのようだが、どうだ?」
公爵が今度はラズリーに確認する。
「え、ええ。私も最初はそう思っていたんだけど・・・。」
困惑するようにラズリーが言う。確かにラズリーも最初のころは俺を侮っている節はあった。
正直、相手がソフィアであれば、まあ何とかして断りを入れただろう。が、この執事が相手となると話は別だ。対人戦で本気を出せる機会は少ない。
―これは願ってもないチャンスだ
俺は魔力集中から魔力変換を行う。
バチッ・・・バチ!
自らの周囲に電撃を纏う。
―迅雷を放つことはしないが、それ以外は本気でいこう。
「―これは。」
執事が驚いたように言う。
「テレジア様。相手に問題はありません。」
はっきりと執事が言い切り、上着を脱ぐ。
―見事な筋肉である。
歴戦の戦士だろうか?そして戦闘スタイルも俺と似たものかもしれない。
「いいだろう。やってみろ。」
公爵は短く言う。どちらに対して言っているのかは知らない。
―おそらく場所はここで。
「少年。自己紹介がまだだったかな。私はシュベルツ。普段は公爵様の執事をしているが、同時に護衛も兼ねる。」
シュベルツと名乗った執事の周囲に濃密な気配が漂う。
―あれは魔力、それに闘気か。
やはり戦闘スタイルは俺とほとんど同じだろう。だが、その身に纏う魔力と闘気はこちらからでもよく分かるほどである。
俺はむやみやたらに近づこうとはしない。あのような気配を漂わせる相手にカウンターを食らうと洒落にならないことは明らかだ。
「―なるほど。何、警戒するのも無理はない。それでは初撃は私から。覚悟されたし。」
すると、相手の姿が目の前から消えた。




