7話
「なあ、イシュバーン。」
声をかけてきたのは、―ルディか。
「なんだ、どうした?」
「お前、次、ハーヴェルのやろうと模擬戦だろう?」
「ああ、そうだ。どうかしたのか?」
「この機会に生意気なハーヴェルの野郎をぶちのめしてやろうぜ!」
ルディは、ハーヴェルの強さをあまり知らないんだったな。
いや、それはイシュバーンも同じだったか。
大抵のクラスのやつらは、ハーヴェルの強さに気が付いている。
知らないのは俺やルディのような、実習や授業をサボりがちな不良くらいだ。
「ああ、そうだな。任せておけ。」
ニヤリと笑う。とりあえず、ここは原作通りの返答をする。
「―あなたたち、まさかハーヴェルに勝てると思っているの?」
横やりが入る。これは、我が婚約者か。
「アイリス。我が婚約者よ。よく見ているがいい。奴に目に物を言わせてくれよう。」
ここも原作通りの返答をする。
「あなた、私よりも弱いくせに何言っているの。」
とても冷たい眼。
「そうさえずるな。可愛い顔が台無しだぞ。」
「・・・あなたにだけは言われたくないわよ。」
―アイリス、その顔はさすがに俺も傷つく。本気でイシュバーンが嫌なのだろう。だが気持ちはよく分かる。
「ふん、行くぞ、ルディ。」
「あ、待ってくれよ、イシュバーン!」
そんなやり取りをして、教室を離れる。
「―いけ好かないやつ!気にしちゃだめよ、アイリス。」
そう言い放ったのはプリムである。
「プリム、あんなやつのことは気にしちゃいないわ。」
昼休み、俺とルディは屋上に来ていた。もちろん、これから昼飯を食うのだ。
購買で購入したサンドウィッチを片手に、ルディが話しかけてくる。
「なあ、イシュバーン。実際、お前の強さってどんくらいなんだ?」
そう、このルディ。俺の悪友であるにも拘らず、俺の強さも知らない。
なぜかって?それはイシュバーンが魔法の訓練授業を上手い具合にサボっていたからである。イシュバーンは、自分の実力を知られるのは怖かったのだ。他のクラスメイトより付き合いの長いアイリスやプリムはそのことに気が付いていたかもしれない。
このイシュバーン。ハッタリだけは超一流で、この時点でハーヴェルにすら強敵と思われているのだ!
「・・・実はな、ルディ。俺はサンダーボルトくらいしか魔法が使えん。」
とりあえず、本当のことを話してみる。
「は?ええ?サンダーボルトだけ?・・・そりゃあ、雷属性が強いのは知っているが、それでどうやってハーヴェルに勝つつもりなんだ?」
ルディが驚いた顔をする。
「ああ。実のところ、特に勝算があるわけではないんだ。」
「ええー!」
「ルディ、もっと静かにしろ。」
「もっと静かにしろったってよ、イシュバーン。お前、あんな啖呵切っておいて、無様に負けましたじゃ、話になんねーよ?いくら侯爵家の跡取り様だからってよぉ。それくらい俺にだって分からぁぜ?」
「・・・実に、困ったものだよ。」
「おいおい、イシュバーン、何が、『実に、困ったものだよ。』だよ!お前、次の模擬戦は必修だぜ?欠席したって、その次またやらされんだ。どうするつもりなんだ?」
「まあ、何とかなるだろう。」
「ハーヴェルはめったにいない3属性使いだぜ?それがサンダーボルトだけで?何考えてんだよ、イシュバーン・・・。」
ルディが目に涙を浮かべて俺を見る。
だから、その顔をやめろってルディ。
とまあ、ここまでは俺のアドリブだが、
「大丈夫だ、ルディ。やつにほえ面をかかせてやろう!」
原作通りのセリフを言う。
ハーヴェルにほえ面をかかせてやることはないだろうが、無様に負けるつもりもさらさらない。
「はああ。イシュバーン、俺はどうすりゃいいんだ?」
ルディは俺の味方だったからな。こんなイシュバーンのどこがいいのやら。