1話
「模擬戦?」
何だ?ハーヴェルから模擬戦を申し込まれるなんてイベントは知らない。
だが、よくよく考えてみれば、今ラズリーとセフィリアが無事である時点でもはや原作からストーリーがずれている。
これからは俺の知らない未知のイベントがかなりあると考えるべきだろう。
――であればこそ、もっと強くならねば。
「なんだ?ハーヴェル。貴様、どういう風の吹き回しだ?」
とりあえず思ったことを口に出すことにする。
「おまえ、俺との模擬戦では本気ではなかっただろう。」
「本気?あれはまごうことなき俺の本気であった。」
ハーヴェルを倒すとかそういうことは一切考えず、魔法剣を回避する、ただそれだけを考えた偽らざる本気の迅雷である。確かにあのとき俺の迅雷は本気であった。
「あの魔法剣はお前程度には回避できない技だ。そのはずだった。」
――ふむ。魔法剣を回避されたことにプライドが傷つけられたのだろうか?
「魔法剣とやらについて俺は知らないが、必ず当たる攻撃といったものなのか?あれは。」
もちろん、魔法剣とはいえ、必ず攻撃が当たるような性質のものではないことを俺は知っている。
「いや、そんなことは・・・。」
ハーヴェルは言い淀む。
「であれば、たまたま攻撃が外れることもあるだろう。」
「そんなはずはない!あれはお前が何かの力を使って回避した!」
大声でハーヴェルが言うので、クラスルームの注目がこちらに集まってしまった。
こいつはこれが面倒なのだ。
「ハーヴェル。貴様のせいで皆がこちらを見るではないか。」
俺はハーヴェルに文句を言ってやることにする。
「あ・・・。いや、すまない・・・。」
ハーヴェルはどもるようにして言う。
常に一直線であるのはハーヴェルの好ましい性格であるが、こういうときには勘弁願いたいものだ。
「模擬戦をして、魔法剣を俺に当てることができれば満足か?あれは人を簡単に殺すことができる技だと思うがな。」
これでも俺は面倒なことは避ける主義だ。
「いや・・・。そんなつもりは・・・。」
さらに言い淀むハーヴェル。
――カンカンカン
ゴングの鐘が鳴る。この勝負、俺の勝ちだ。
「大体、この間のランクマッチでは貴様のお得意の魔法剣とやらを使わなかったらしいではないか?他の者に使用しない技を俺に再度試すつもりか?」
俺はニヤリと笑う。
「・・・すまない。」
「では話は終わりだ。」
そう言って俺はホームルームに備えることにした。
今日は昼までであり、ホームルームが終われば、長期休暇に入る。だが、いつまでたってもホームルームが始まる気配がない。
原因は明らかである。隣のクラスルームのあれだ。ラズリーのクラスルームでは講師が集まって何か調査を行っているようだった。俺のクラスのホームルームの担当もそこに駆り出されているのかもしれない。ちなみに原作ではセフィリアとラズリーが行方不明になるので、この時点でホームルームは中止となるが、そんな様子は今のところなさそうだ。
俺はラズリーに予め自分たちが襲われたことを知らせるように、そして俺のことは聞かれたら答えてもよいと言ってある。セフィリアとラズリーを襲ったやつらがゼヘラの連中であれば、相手はあの影一人ではないはずだ。
「なあなあ。」
声をかけてきたのは、―ルディか。
「なんだ?ルディ。」
「おい、イシュバーン。隣のクラスの惨状を見たか?どうも昨日の夕方にセフィリア様とラズリー様が襲われたようだ。」
ひそひそ声でルディが話す。
「ああ、その件は知っている。なんせ、あの二人を見つけたのは俺だからな。」
これはいずれラズリーかセフィリアの口から報告されることだろう。
「そうなのか!?」
驚くルディ。
「ああ。その時には隣のクラスは既にあのような状態だった。」
「お前、そんな時間まで何をしていたんだ?」
「俺か?俺はいつもの屋上で少しばかり寝ちまってな。」
「お前、また屋上で寝てたのかよ。」
俺はこれまでに何度か屋上で寝て講義をサボることがあった。
「ああ、そのようだ。あの場所は寝るのにはちょうどいい。」
これは本当のことだ。特に夏は日陰があり、風が吹いていてとても気持ちがよい。
「それで、どうしたってんだ?」
ルディはこの話に興味があるようだ。
「何、血だまりの中に倒れている二人を見つけて俺が救護室に連れて行ったのさ。」
本当は途中にもっと様々なことがあったが、その様々な部分は省略する。
「ひょええ!お前も災難だったな、イシュバーン。ということはあの血の跡のようなものも詳しくはお前も知らないのか?」
「ああ。俺も詳しいことは知らない。」
そういうことにする。
「――ごほん。ああー、お前たち。早く席につけ。」
ホームルームの担当が戻って来た。
「おっといけね!」
慌てて自分の席に戻るルディだった。
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