19話
しばらくすると、校舎から人の気配が消えていく。
ある者は帰宅し、ある者は寮へ、そしてある者は街へ。それぞれの行先に向かったのだろう。
3階の窓を開けた後は、再び屋上へ戻って来ていた。
だが、そろそろ持ち場である4階のクラスルームに行っても問題はないだろう。
4階のクラスルームに入って、下のクラスルームの様子を探ってみることにする。目を閉じ、レーダーを放つ。すると、ぼんやりと下の階のクラスルームの様子が見えた。今は誰もいないようだ。
まだ昼の時間。夕方までには少し時間がある。念のため持ってきたポーション類を確認するが、腰の小型ポシェットに入れることができるポーションは最大3つ。俺はポーション1つとマナポーションを2つ持ってきていた。ポーションを連続して使用することはできず、短期決戦であることを考えれば、準備としてはこれで十分だろう。
――そしてそれから更に時間が経ったとき。
「―来た。」
レーダーで探る場合、その輪郭くらいしか分からないが、間違いない。セフィリアとラズリー、そしてもう一人いる。
―あれは誰だ?
輪郭から分かる姿は男。どこかの制服を着ている。だが、思い当たる人間はいなかった。
俺のレーダーは万能ではない。様子を探ることができるのは、あくまでも電磁波で探ることができる範囲のみ。音を拾うことはできないのである。それがかなりもどかしい。
―どうする?まだ様子を見るか?
だが、3人の様子に変わったところはない。まだ単純に何かを話しているようにしか見えない。
おそらく、相手は複数と想定している。あのラズリーが何もできずに敗北するのだ。
そしてまだそのイベントは起きてはいないはずだ。
確かに、あの男は気になるが、単純に俺の知らない第三者の可能性もある。
―ここはまだだ。
もう少し様子を見ることにする。
「っつ」
いつの間にか額に汗をかいていたようだ。それが目に入った。そんな時だった。
――それは現れた。
ふいに下の階のクラスルームからせり上がってくる複数の得体の知れない何か。
俺はレーダーを通して見ているが、それでもかなり不気味な光景だ。
それと同時にセフィリアが倒れるのが見えた。
―いかん!!
気が付いたときには既に体が動いていた!
すぐ脇の窓まで跳躍し、窓から出る!とすぐに下の階の窓の外から
「迅雷!」
俺は一気に下のセフィリアとラズリーがいるクラスルームに突入する!
セフィリアが倒れるのは見えていた。だが、ラズリーはまだ無事であるはずだ。
着地前に瞬時に魔力を切り替え、魔力集中を行い、目の前の得体の知れない黒い何かに貫手を打ち込む!!
ビシャ
俺の貫手はその何かを貫き、返り血がかかる。
――これはヒトだろうか。
その正体を確認している暇はない。
まだだ!ここで止まるわけにはいかん!!
今度は足に魔力を集中させ、近くの黒い何かに突進し、今度は肩口から突きを打ち込み、胸にかけて貫く!グシャっという嫌な手応えがあった。
――次。
足に魔力を集中させ、さらに近くにいた黒い何かに向かって蹴りを放つ!!!
それはゴキっという嫌な音を立てて体をくの字に曲げて壁にまで吹っ飛んでいき、
俺は最後の黒い何かに突進し、その腹を手で切り裂いた。
―これで全部か。
ラズリーの方を見ると、腰を抜かしていたか何かで尻もちをついていたが、無事で何よりだ。
俺はその場にいた男子生徒?を見る。
―こんなやついただろうか?
「お前は誰だ?」
俺はそいつに訊ねる。こいつはわざわざ事情を聞くために生かしておいたのだ。
「あ、あ・・・。ひぁぁぁああああ!!!」
そう言うとそいつは
教室から飛び出していった。
―やるか??どうする?
だが、俺がそれを心配する必要はなかった。
俺が外に出て見た光景は、ゴキュッという音とともに、影に包まれ、そのまま影の中に引きずり込まれるそいつの姿だった。




