6話
とはいえ、新しい魔法の覚え方なんてさっぱり分からない。
むしろ、今覚えているサンダーボルトは確か、幼少期に親父が雇ったかなり高名な魔法使いの家庭教師に習ったんだっけか?
だが、今の俺には時間がないし、何より家庭教師がつくとすれば、弟の方だろう。
ということは、模擬戦で必要になるライジングを自分でなんとかして覚える必要がある。
詠唱省略の方もあれから何度もサンダーボルトを練習しているが、これは一向に習得しない。もしかすると魔力量が相当必要であるのかもしれない。
可能性があるとすれば、ライジングの方だろう。ライジングの詠唱は・・・
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。駆け抜けろ!ライジング!」
である。
これは別邸の本棚にあった、【魔法大全】に記載されていたものであり、多分詠唱そのものは間違いない。
しかし、よく考えてみれば、ハーヴェルの放つ魔法剣にこんなちんたらした詠唱が間に合うはずもなく、もしライジングを使用するのであれば、詠唱省略とセットで使用することが必要不可欠なのである。
ちなみに、現時点で模擬戦まではあと残り1カ月半程度しかない。
はっきり言おう。これは詰んでいるような気がするぞ・・・。
意識した瞬間、焦りの感情が迫って来た。どうする?時間があまりにもない。
そんなことを考えながら、いつもの森までやって来た。
もはや、ダメ元で、ライジングの詠唱を試してみる。
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。駆け抜けろ!ライジング!」
パチッ
一瞬、静電気が走り抜けた感覚がするが、それだけだ。
試しに動きが速くなっているか少し辺りを走って確認するが、別段普段と何の変りもない。
―そりゃそうだよな。
詠唱するだけで魔法が使えるのであれば、この世界のほぼ全ての者が魔法を使用することができる。
魔法の使用には、その使用者の属性への適性、魔法の訓練、そして使用者の魔力量が重要なのである。
・・・ちなみに、俺には属性への適性くらいしかない。オーマイガッ!
いや、諦めるな!俺には魔法のセンスがあるかもしれない!自力でなんとかできるはずだ!今は魔法の練習あるのみだ。
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。駆け抜けろ!ライジング!」
パチッ
やはり何の効果もない。静電気が走るだけ。
「はあ、はあ。」
俺はマナポーションを飲み干し、いくらか魔力量を回復させる。
あれから幾度もライジングを詠唱してみたが、静電気が走るだけの魔法しか発動しない。
しかも、魔力を高めて、ライジングを詠唱するだけで魔力を消費するのである。
―どうすりゃいいんだ?
「あー。」
そういや、昔テレビか何かで、雷属性の魔法か何かを使って敵をバッタバッタと瞬時にやっつける戦隊シリーズもの特撮映画を見たことがあったな。
なんだっけ?ジンライのなんちゃら。あれはジンライと唱えただけで、まるで雷のような速度で駆け抜けていったんだよな?
寝っ転がって状態で、試しに詠唱してみる。
「ジンライ」
次の瞬間、自身の身体がふわっと、浮き上がるような感覚があった。
―何だ今の?
もう一度試してみる。
「ジンライ」
一瞬身体全体を雷が覆い、浮き上がるような感覚。そのすぐ後のこと。
―ガク
態勢が崩れた。イメージしたのは、まるでその主人公のように凄まじい速さで動く自身の姿。
それと同じ感覚で「ジンライ」と唱えただけで、ライジングとは異なる効果があった。
さらにもう一度試してみる。
「ジンライ」
やはり、一瞬身体全体を雷が覆い、浮き上がるような感覚がする。
今度はその間に走ろうとする。
―すると
ビュンッ
自分の身体が、まるで瞬間移動でもしたかのように大きく移動し、
―ガク
また態勢が崩れた。
「うぐ。」
魔力がまた枯渇したようだ。
キュポッと、小気味の良い音をたてて、マナポーションを飲み干す。
先のマナポーションを飲んでから、しばらく経っているので、ポーションを飲んでも問題ないだろう。
到底制御できたとはいえないが、しかしそれでも先ほどまでとは全く違った成果である。
「ジンライ」と短く唱えただけで、全く制御できてはいないものの、高速移動を再現することができたのだ。
「ふうー。」
―少し希望が見えて来たな。