18話
――いよいよ、その日が来た。
この日の講義は午前まで。午後には学院が閉まるが、どういうわけか人がいないはずの校舎でそれは起きる。
予め情報をセフィリアとラズリーに教えようと思ったこともあったが、逆に怪しまれるおそれがある他、ここで敵を叩く機会を逃せば、次いつ襲ってくるのかは分からない。
もしイベントが起きないとか、そういうことがある場合はその時はその時だが、ここまではハーヴェルの邪魔をしていないし、ラズリーとの関わりもそこまでないので、今日起きるはずだ。
ここまで敵の気配が一切なかったというのは確かに不気味だ。だが、予兆はある。少し前に見かけたラズリーは何か様子がおかしかった。彼女は何か、いつもとは違う違和感を感じているのかもしれない。
―準備は万端だ。
といっても、俺の戦闘スタイルから、ポーションくらいしか準備するものはないが。
俺はいつものようにランニングを行い、飯を食い、学院へ向かうことにした。
以前と比べて格段に強くなった。そろそろ飯も自分で何とかする方法を見つけた方がいいだろうな。
―ガランガラン。
講義の終わりを告げるベルが鳴る。
「それじゃあな、イシュバーン。憐れな俺はヒューヴァのお供さ。」
ルディがそんなことを言う。
「ああ。美味い飯でもたかってこい。」
俺はニヤリと笑う。
「イシュバーン、お前は気楽でいいよなあ・・・。」
「ルディ、俺は俺で忙しいのだ。」
いや本当に。
「―嘘つけ。じゃあな。」
ルディがジト目でこちらを見て、ルディは街の方に向かって行った。
―さて。
少し時間がある。どこかで時間をつぶさなければならないが、校門が閉まってから再び学院に入るのは難しい。
どこで時間をつぶそうかと考えるが、俺にはとっておきの場所があった。
古来より腹が減っては戦ができぬと言うし、購買でホットサンドと水を買ってからそこへ向かう。そう、いつもの屋上。
この屋上に来るやつはほとんどいない他、鍵も朝から開いていることが多い。警備がどうなっているのかは知らんが、ここをあまり気にしなくてよいシステムなのだろう。
季節が冬であればかなりの苦行になっただろうが、幸い今は夏なのだ。日陰で昼下がりまではくつろぐことにしよう。
飯を食いながら、俺はこれからのプランを考える。
事件現場になるのは、校舎3階のクラスルームの廊下だったはずだ。原作でそんなことを示唆する描写があった。校舎は5階立ての立派な木造構造物であるが、防火のために特殊な魔法と木材で構成されていると聞いたことがある。何とも魔法学院らしい。
まず、事件が起きるまでは上の4階のクラスルームで待つ。そうすれば下の階のクラスルームの様子をレーダーで様子を探ることができるのだ。俺のレーダーはある程度の遮蔽物の先も探ることができる。何か異変が起きれば、レーダーを通じてそれは明らかになるだろう。
そして、異変が起きれば上の階から下の階へ瞬時に移動するのだ。
―とここまで考えたところで、遮蔽物に対して迅雷を使用した場合どうなるのかが分からなかった。
これまでは森のような開けた場所にしか迅雷を使用したことがない。また、制御できるようになってからは、遮蔽物に対して迅雷を使用するなどとは考えたことがなかった。
―今から検証するか?いや、そんな暇はないだろう。
できることは、何食わぬ顔で3階の前の窓を開けておくこと。ブラフとして、他の窓もいくつか開けておくか。
そうして、俺はホットサンドを食べ終え、何かが起きる校舎の3階へ向かうことにした。
幸い、未だ人はまばらにいるものの、それが逆に目立つことはないといった状況だ。
3階の窓を開け、ついでにクラスルームの脇の窓や扉もいい感じに開けておく。
時間は夕方くらいと推測されている。その時間には既に人はおらず、窓が開いている意味をあえて探るようなやつはいないだろう。
もし窓を閉められたらそのときはそのときだ。回復ポーション1本くらいは消費することになるかもしれないが、窓を割ってでも突破してやろう。




