17話
離れの館に帰ってきて、そのまま着替えずに鍛錬場に向かう。
セフィリアとラズリーの生贄イベントまでに使える時間は、今日と明日の二日のみ。
「迅雷」
バシュッ
―そしてこのタイミングだ!
俺は着地点付近で一気に魔力を抜き、再度魔力を一気に補充する!
するとほぼ完全にバランスを保った状態で、速やかに魔力集中を行った状態に切り替えることができた。
次に純粋な魔力集中を行う。
まずは、頭、体、足というように順番に魔力を集中させていく。そして、全身に魔力を集中してみる。より魔力を集中させると、魔力の密度が高まり、それだけ電気に変換できる魔力も多くなるが、魔力効率は魔力集中だけに絞る方がかなりよい。全身に魔力集中をするだで、通常防御力及び魔法防御力の上昇を行うことができる。
そして、魔力集中した魔力の一部を電気に変換する。
バチバチッという音が響くとともに、全身に電気が纏わりつく。
近くにある頑丈な物干しの鉄部分にめがけて、一部の電気を放出するイメージをすると。
バチバチッという音とともに電撃が物干しに飛ぶ!
この魔力変換によって放出される電撃は、近ければ近いほど魔力の性質が強く、かなり高い命中率を誇るが、遠ければ遠いほど魔力の性質が弱まり、代わりに電気の性質が強くなるので、命中率が低くなる。そのため、攻撃手段として使うのであれば、より近い対象に対して使うのがよい。ただし、命中する相手を特定すると移動が制限される他、魔力消費にも注意する必要がある。
少し前まで、迅雷とサンダーボルトくらいしか攻撃手段を持たなかった俺だが、今では攻撃手段のバリエーションがかなり増えた。更に、未だ使いこなせてはいないが、魔力の他に、闘気という別の攻撃防御の手段がある。
魔力に関しては、完成度を目指していたレベルまでは高めることができたと思う。
―ふとサンドバッグを見る。
ここしばらくの間は魔力の練習ばかりで、サンドバッグへの打ち込みをサボっていた。
念のため十分に体を動かしておこう。
柔軟を念入りに行い、その日はサンドバッグに拳と足を使って打ち込みを続けるのだった。
翌日。
朝起きていつのものように日課のランニングをしようとしたところ、玄関にセバスが来ていた。
「坊ちゃん。ご当主様がお呼びです。」
「何だ?何の用だ?」
―今忙しいというのに。
「イシュト様の件です。来週、イシュト様の婚約者であるローズ様がお越しになるようですので、その件かと。」
「なるほど。だが、俺には無関係のはずだが?」
「ええ・・・。私もそのように思うのですが。」
セバスも詳しい話は知らないようだった。
「セバス、そういえばボアはいつまでに必要なんだ?」
「ローズ様が来られるのが、来週末です。ですので、来週末までには準備したいところです。」
―それであれば、無理やり明日森に行く必要はないか。
「なるほど。今週俺は忙しいかもしれない。準備できるとすれば、来週中になるかもしれない。」
「承知致しました。無理にとは言いません、坊ちゃん。できればでお願い致します。」
来週であれば、魔法学院も長期休暇の最中だ。何か異常なことが起きなければ、ボアの一体や二体程度、朝飯前だろう。
「それで、何の用だ?親父殿。」
俺は容易された飯を食いながら親父に言う。
「イシュトが婚約をしたことは知っているな?」
ちなみに、テーブルにはイシュトもいる。3人で朝食を食うのは久しぶりだ。
「ああ、知っている。」
「来週末にメドゥイット家の嫡男と、その妹であるイシュトの婚約者が来る。お前は離れでいるように。」
「そんなことか、親父殿。無論だ。俺はイシュトの婚約に興味がない。」
「イシュバーン。俺はお前が次期当主であるイシュトの婚約に興味があるとかないとか、そんな話をしているわけではないのだ。分からないのか・・・。」
親父が遠い目をする。
―ますますルディのように見える。
「まあ、大方、イシュトの婚約者に俺のことを紹介したくないのだろう?」
俺はニヤリと笑う。
「何だ、分かっておったのか。」
「ふん。全くわざわざ朝にこの俺を呼び出して何を言うのかと思えば。その日に限らず、なんなら毎日、俺は離れの館にいるから問題ない。」
「兄さんは悔しくないのか?」
イシュトが驚いた顔をしている。
―確か、同じようなことをセバスも言っていたな。
「大体イシュトだろうが、誰だろうが、俺以外のやつが婚約して何故俺が悔しいだのそんな話になるのかさっぱり分からん。」
そう言ってさっさと食べ終わり、学院に向かう。
――正直、自分にとって優先するべきことに頭がいっぱいで、イシュトの婚約などはどうでも良い事だ。
「分からぬ・・・。私には、正直あれが何を考えているのかさっぱり分からぬ・・・。」
別邸から出る時に、そんな親父の呟きを聞いたのだった。




