16話
朝の寝覚めは良い方だ。
―さっさといつもの鍛錬をやろう。
そうして、靴を見ると。
魔力集中を無意識に足にも使用していたようで、靴には靴の内側に焦げたような跡があり、所々穴が開いていた。
―確か替えの靴は
靴箱を開けると替えの靴を見つける。
戦闘中に靴を履けないというのもハンデになるかもしれない。
魔力集中をしながら、靴を焦がさないようにできないものか?
靴を持ってしばし考える。
靴が焦げる理由は俺の魔力が意識せずに、わずかに電撃に変換されるからかもしれない。
であれば、純粋な魔力の状態で保持することができないだろうか?
試してみよう。俺はいつもの靴ではなく、より運動しやすい靴を履くことにする。
これで足に魔力集中をしながら、ランニングをするのだ。
タッタッタッタ・・・・
足に魔力集中をしながら走ってみると、存外簡単に魔力の状態を保持できることが分かった。
―もう数回ランニングを繰り返すと、意識せずに魔力の状態を簡単に切り替えることができそうだ。
魔力変換を身に着けたことで、純粋に魔力の状態を保持することと、ある程度電気に変換して保持することを簡単に切り替えることができるようになっていた。
そして、ランニングを終えると、水風呂に入り、そのまま飯をメイドから受け取る。
―ボアを取ってくるように頼まれたんだった。
飯を食いながら、ふとセバスからボアを取ってくるように頼まれていることを思い出した。
「まあいい。明日にでも取ってこよう。」
森に通常とは異なる雰囲気を感じれば、深入りせずに、すぐに引き返すこととしよう。
「いつもは何の変哲もない森なんだけどなあ。」
あの森はたまにおかしな魔物が出現することがある。
何か俺の知らない秘密でもあるのかもしれない。
飯を食べ終わると、そのまま学院に向かうことにする。
学院に着くと、玄関先でばったりラズリーと出会った。
―とりあえず声をかけておくか。
些細な変化はないか確認しておく必要がある。そして、最近ラズリーと話す機会があるため、他人に挨拶をすることが苦手な俺でもそこまで苦にはならない。
「おはよう、ラズリー。」
すると、ラズリーは少しはっとしたような顔をする。
「ご機嫌よう。イシュバーン。」
―特に変わった様子はないか?
特に用事があるわけではないので、挨拶だけ済ませると、そのままクラスルームに向かおうとする。
「何か用があるのではなくって?」
ラズリーの方を見ると、どことなく所在なさげだ。
―何かあるのだろうか?
「いや、特にないな。そっちこそ、逆に俺に何か用事があったか?」
俺は逆にラズリーに訊ねることにする。
「―私の方も特にないわ。」
そう言うと、ラズリーは自分の腕を触る。
??何だか様子が変だ。
「何か気になることでもあったか?」
再度ラズリーに確認する。
「問題ないって言っているでしょ。それじゃね、ご機嫌よう。イシュバーン。」
そう言うとさっさとラズリーは行ってしまった。
気にはなるが、とはいえ、そもそもラズリーと特別仲が良いというわけではない。
また、あまりラズリーと関わると、敵に何か感づかれるおそれがある。
―やむを得ないことだが、一旦はそのまま放置するしかないな。
そして講義後、いつもの屋上にて。
「イシュバーン、明後日王都に行かねえか?」
ルディから珍しく外出を提案される。
明後日の講義は午前中のみ。そして、翌日は終業式であるから、王都に行くにはちょうど良いタイミングだろう。
――だが、その日は外すわけにはいかないメインイベントがある。
「すまないな、ルディ。その日俺は予定があってな。王都で何をするつもりだ?」
「イシュバーン。お前にしては珍しい。いやな、ヒューヴァのやつに王都でやっている演劇に誘われちまってな。どうせ数合わせだろうが・・・。」
「そりゃご苦労なことだ。頑張って来いよ。」
「ああ、イシュバーン。俺はお前が羨ましいよ・・・。」
爵位からすれば、ヒューヴァの方がルディより上だ。ヒューヴァからすれば、ルディは扱いやすいのかもしれない。
「まあ、頑張って来いよ?」
そう言うと、俺はニヤリと笑うのではなく、人知れず顔を引き締める。
―いよいよか。必ず乗り越えてみせてやろう。
そうして、飯を食い終えると、俺たちは屋上を後にするのだった。




