15話
―何だ、今のは?
しばらくの間呆然としてしまう。
辺り一面がまばゆく輝き、直後、轟音が響いた。目も眩むほどの光と耳をつんざく凄まじい音。
段々事態を把握してきた。
「―そういうことか。雷か。」
雷がフレイムサラマンダーに降りかかったのだ。俺の技のレパートリーにあんなものは含まれていない。偶然の産物に他ならなかった。
――運が良かった。
俺は空を見上げる。そこには分厚い雲が広がり、ざあざあと未だ大粒の雨が降っている。
俺は重い腰を上げる。いつの間にか、山のふもとまで来ていたようで、帰り道の方向はすぐに分かった。
未だ手の震えは止まらない。
「ふう。」
大きく息をはく。
――館に戻らないと。
そうして、雨に濡れながら、帰り道を急ぐのだった。
館に戻って来ると、既に時間は深夜を超えていた。
随分と長い間森の中で彷徨っていたようだ。
「風呂に入ろう。」
森に入る際に、いつものシャツとズボンに着替えていたが、黒焦げになってもはや布切れのような状態だ。
風呂に水をはり、家にあったマナポーションを飲み、それから魔石に魔力を注ぐ。
間もなく風呂が沸くだろう。
フレイムサラマンダーは亜竜の中でも特に強力であり、物語の後半に登場するボスモンスターである。
倒すためには、プリムの水属性の魔法で、燃え盛る火炎を何とかする必要がある。
そうでなければ、いくらハーヴェルといえども、フレイムサラマンダーには近づくことすらできない。
何でそんな魔物がこんな所に存在するのかは分からなかった。
ーだが、そういえばあのとき
もしかすると、想像より多くのサラマンダーがあの森にはいるのかもしれない。
そう考えると、急にあの森が不気味な森に思えてくる。
風呂の水の温度を確認すると、そろそろよい頃合いだろう。
もはや布切れになったシャツとズボンを脱ぎ、風呂に入ることにする。
考えることは今日のフレイムサラマンダーとの一戦である。
―あれは俺の実力とはいえない。
フレイムサラマンダーに勝てたのは、完全に運が良かった。だが、振り返るべきは、その戦いの過程である。
今回の戦闘で、いくつかの成果と課題を確認することができた。
まずは、成果から。
今回検証したかったことは、魔法集中による防御力の向上について。
幾度かフレイムサラマンダーのブレス以外の攻撃を受けたが、魔力集中による防御力の向上は確実にあるといえるだろう。
その証拠に、爪の攻撃は、防御するだけで致命的な一撃だったが、魔力集中を行うと、腕を傷つけられる程度で済んだ。また、燃え盛るその尾の一撃も確実に防御することができていた。
戦闘中は、闘気も乗っていた気がするが、それもある意味では成果と言えるので、あまり深くは考えないことにする。
次に課題である。
これは迅雷について。これまで迅雷は硬直の時間があるので、転移魔法を使うものにだけ注意をすればよいと思っていた。
しかし、今回のように、そもそも近接攻撃に対して特攻とも言える能力を持っている相手にも使用することができないことが分かった。
今回のサラマンダーには、良くて相打ちだっただろうし、考えたくはないが、何かの間違いが起きて万が一フレイムドラゴンのような更なる化物を相手にする場合、迅雷を使用したところで、そもそも近づくことができるのかすら分からない。
迅雷は、確かにその硬直時間を差し引いても凄まじく強力な技である。しかし、一撃を放つ場合、硬直することは欠点であるし、今回のように常に炎熱を纏うような相手に対しては、そもそも使用することができないおそれがあるのだ。
幸いなことに、そのようなことを行うことができる種は今のところ、竜種くらいしか思い当たるものはいない。
――攻防一体とは上手く言ったものだと思う。
だが俺の技の中にもこの攻防一体を行うことができる技が存在する。
そう、魔力集中から魔力変換を行うというものである。あれはまさに攻防一体といえるもの。
そのため、あの常に帯電する技を苦手にする敵も必ず存在するだろう。今回の戦闘は魔力変換の有用性を改めて確認した一戦であったとも言える。
もしかすると、あの竜の炎熱も魔力変換から生じさせた技であるのかもしれない。
「しかし、竜種か。」
―あの大きな雷。あれを使用できさえすれば。
だが、今はどのようにすればあれを習得できるのか、あるいはそもそもあれは技として習得できるのかすらはっきりしない。
いつの間にか体も十分温まっていた。俺は風呂から出ることにする。




