12話
「―おい、イシュバーン。お前、セフィリア様とラズリー様に何かしたのか?」
ルディが訝しげに聞いてくる。
「さあな。ラズリーに紅茶セットをご馳走したぐらいだったが、それが悪かったかもな。」
「先の食堂でのことか?」
「ああ。そうだ。だが、ラズリーは案外あれが地かもしれんぞ?」
何となくそう思う。
「そんなわけあるか!いいか、イシュバーン。自分より上位の貴族を誘うときには、もう少しいい店に誘ったりするもんだ。次回から気を付けた方がよいぞ?」
「ルディ、お前はたまに常識人だよな?」
ルディはそういう貴族の何とやらには存外うるさい性質である。
「イシュバーン、お前が異常なんだよ・・・。」
そんなやり取りをしつつ、一通り飯を食い終わり、講義に戻った。
すると、今度は講義室前でラズリーにばったり会った。
―今日は珍しくラズリーをよく見かけるな。
そう思い、横をさっさと通りすぎようとすると。
「何よ、貴方、私に挨拶もなしなの?」
「ラズリー、何か用か?」
対応するのが少し面倒だ。
「流石に、公爵令嬢の横を会釈もなく不愛想にさっさと通るのは失礼でしてよ?ご機嫌ようくらいは言えないのかしら?」
「まったく、面倒なことだ。ご機嫌よう、ラズリー。」
ラズリーの希望に答えることにする。
「貴方、一言余計なのよ。いいえ、二言も三言もかしら。」
「何だよ、やけに絡んでくるじゃあないか。紅茶セットが気に入らなかったのか?」
「ああ!もう!貴方と話しているとイライラするわ!」
――理不尽すぎる。
「まったく、俺が何をしたっていうんだ、ラズリー。」
訳が分からない。
そうして話していると、セフィリアがやって来て、こちらを細い目で見る。
大きい目をしたラズリーと対象的だ。
「行きましょう、ラズリー。」
「え、ええ。セフィリア。そうね。それじゃ、イシュバーン。ご機嫌よう。」
そう言って、セフィリアとラズリーは前の方の席に座る。この講義はセフィリアとラズリーも選択をしているらしい。
そういえば、セフィリアはアイリスの次くらいに、俺に冷たい態度だ。
「まったく、男はつらいぜ。」
「ふう、間に合った!―ってイシュバーン、お前そんなところで一人かっこつけて、何やってんだ?」
少し遅れてやってきたルディに気味悪がられるのだった。
「――魔法には、単純な魔法。つまり、普段諸君が使用する詠唱魔法。それ以外に、大きく、範囲魔法、大魔法、固有魔法、極大魔法、そして召喚魔法が存在する。詠唱魔法はあらゆる魔法の基礎をなす魔法だ。基本的に詠唱を通じて魔法を構築する。君たちはこの学院にいる間、詠唱魔法程度なら、適正属性に関しては全て使用できるくらいになることが望ましい。」
「範囲魔法は、詠唱魔法を応用したものだ。範囲魔法についても、ある程度は学院で学ぶ機会があるだろう。だが、まずは詠唱魔法をしっかりと使いこなすことができることが重要である。」
「大魔法は、多数の魔法使いにより発動させることができる魔法である。多人数で詠唱を同時に行うことで、範囲魔法より更に大きな威力を出すことができる魔法である。しかし、いわゆる宮廷魔術師や、大魔法使いといった、呼称は様々であるが、より上位の魔法使いであれば、わずか一人でこの大魔法を使う者もいる。」
「そして、固有魔法。これは術者の血に宿る力を用いる魔法である。多くは家系により使用できる者が決まってくる。そして、固有魔法を使用できる者は、貴族が多い。また、稀ではあるが、平民の中にも突然変異的にその魔法を取得する者も現れることがある。そのため、範囲魔法は使用できないが、固有魔法であれば使用できるといった変わり者も存在する。」
「極大魔法。これは魔法の論理や道理から外れた魔法であるとされる。魔法を極めた者が、更なる高みを望み、研鑚に研鑚を積むことで、到達することができる魔法だ。その魔法は、術者の性質、あるいは願いとでも言えるものを体現したものになると言われている。だが、数ある魔法学院の中で、世界最高峰である本学院ですら、実際に極大魔法を使うことができる者はいない。そのため、歴史上存在することは明らかにされてはいるが、極めて謎の多い魔法でもある。」
「召喚魔法は特殊な魔法陣を使用するものだ。魔物を呼び出して使役することができる。この魔法については、呼び出される魔物に応じて難易度が異なってくる。詳しくは、上の学年の講義で君たちは学習することになるだろう。」
「それぞれの魔法については、必ずしも詠唱魔法が範囲魔法より劣っていたり、大魔法が範囲魔法より劣っていたりするわけではない。それぞれの詠唱の速度、魔力コスト、発動される魔法の特性、そういったものを考慮し、場面に応じて適切に使い分けることが重要である。」
――ガランガラン
ベルがなる。
「それでは諸君。今回はこれまでとする。」
―やれやれ。この辺りの知識は原作で既に知っているのに、そういう時に限って当てられないんだよな。




