10話
離れに戻ると俺は、久しぶりに迅雷の鍛錬を行うことにする。
だが、ただやみくもに迅雷を鍛えようとしても、それは意味のないトレーニングと同じだ。
それに既に威力は充分すぎるほどであるので、強化のポイントはいかに硬直時間を軽減するか、である。
今回の目標はあくまでも使用後の硬直の回避、あるいは硬直時間の軽減である。
試しに一度迅雷を発動させてみるが、やはり発動後、硬直してしまう。
―何か良い方法はないか?
「迅雷」
バシュッ
そして、瞬時に移動し、移動に合わせて攻撃を放つも、ブォンっと衝撃が生じ、鍛錬室の窓がガタガタ揺れる代わりに、俺はしばらく硬直してしまう。
―この硬直をそのものを解除するのは、次のイベントまでの短時間では不可能か。
しかし、以前に迅雷を発動させたとき、発動後でもスムーズに動いた覚えがあるんだよな。あれはどういう原理だ?
マナポーションを取り出し、魔力を回復させる。
確か初めのころは、迅雷の発動直後に自分の態勢が崩れるようなことがあった。
あのときは魔力消費こそあれ、体が硬直することはなかったはずだ。
そして、今なら初期のころに態勢が崩れた理由が推測できる。
要するに、迅雷を最後まで発動させきれず、一時的に魔力切れのような状態になったのだ。
―ということは。迅雷の発動中、到着地点に達した直後にあえて魔力を切ってみてはどうか?
試してみる価値はあるだろう。
「迅雷」
―バシュッ 稲光が走る。
そして、到着地点付近!ここだ!!
―ガクッ
体が崩れる感覚!だが、体が崩れた直後、動くことができた!
―なるほど。何か掴めそうだ。
迅雷の着地地点付近であえて魔力を切り、瞬時に魔力集中を行う。そうすれば迅雷の瞬間移動に合わせて、通常の魔力集中をした状態で攻撃をすることができるかもしれない。
もう一度。
「迅雷」
―バシュッ
ガクッと体が崩れるのと同時に瞬時に魔力を集中させる!
――すると、今度は体のバランスが少し崩れる程度で持ち直すことができた。
あとは魔力を切るのと、魔力を集中させるのを瞬間的に切り替える鍛錬を繰り返すのみ!
そうして、しばらくの間、迅雷を発動しては、マナポーションを飲み、迅雷を発動しては、マナポーションを飲み、という久しぶりの迅雷の鍛錬を行うのだった。
気が付くと、既に日は暮れ、そろそろ晩飯の時間だった。
いつもはメイドが持ってくるが、ベルが鳴り、玄関に行くとセバスがいた。
「どうした、セバス。」
「いえ、昨日坊ちゃんが狩ってこられたボアですが、こちらご当主様と、イシュト様にお出ししてもよろしいでしょうか?」
「―いつもはお前たちで内々に食っていたと思うが?」
「はい。そうなのですが、どうやらイシュト様の魔法学院へのご入学が決まったようなのです。」
「なるほどな・・・。肉はお前たちで準備しておいたことにすれば、問題ない。」
「承知致しました。使用人には固く口を閉ざすよう申し付けておきます。」
「ああ。もし親父やイシュトにバレたら次からお前たちのためにボアを狩ることが難しくなるかもしれない。頼んだぞ。」
「はっ。かしこまりました。」
そう言って、セバスは夕飯を渡してきた。今日の夕飯はボアのステーキだろう。
俺は離れの食堂で一人飯を食いながら考える。
もちろん、考えるべきことは鍛錬のことである。
迅雷は瞬間移動を利用した一撃必殺の技だが、瞬間移動ができるだけでも価値がある。
上手くいけば、迅雷を利用し、敵の背後を突き、魔力集中や魔力変換と組み合わせることで、一網打尽にすることができるかもしれない。
敵がどのような状況で出てくるか分からない以上、迅雷から速やかに魔力集中に移行し、多くの敵を相手取る術を身に着けておくことは必須だ。
また、これを身に着けておくことで、セフィリアやラズリーが攫われるようなギリギリの状況であっても、迷うことなく迅雷を放ち、大立ち回りを演じることができるだろう。
そんなことをつらつらと考えていると、いつの間にか、飯を食べ終えてしまっていたのだった。




