8話
魔力変換を一応は身に着けてから少し経ったある日。
「イシュバーン、俺は先にトイレに行ってくるわ。」
「ルディ、そのまま冬眠してしまっても問題ないぞ。」
「するわけねえだろ。先に行っておいてくれ。」
そうして一旦ルディと別れ、学院の廊下を歩いていると、ラズリーを見かけた。珍しく一人でいるようだ。
「ラズリー、この間は助かった。」
俺は素直に礼を言うことにする。
「あら、イシュバーン。ご機嫌よう。あれから上手く魔法陣を使えるようになったのかしら?」
今日も相変わらずツインテールのラズリーだ。もはや彼女のトレードマークみたいなものだと思う。
「ああ。サンダーボルトならば問題はない。」
「それじゃあ、他の魔法も試してみないとね。魔法陣は奥が深いわ。色んな使い方があるのよ。」
「サンダーボルト以外であれば、詠唱から覚えないとダメだな。」
「―呆れた。貴方、学院で今まで何やっていたのよ?サンダーボルト以外は詠唱すら覚えていないの??」
―このやり取り、前にも似たようなことがあったな。
「心配するな。まあ、何とかなるだろう。」
「まあ、何とかなるだろうって・・・。でも確かに、私が心配するようなことじゃないわね。私、講義があるから、それじゃあね。」
そう言うと、ラズリーは講義室の方へ向かって行った。
俺は、次は魔法演習か。そのまま魔法演習場へ向かうことにする。
「なあ、ルディ。お前、魔法陣を使用することができるか?」
ルディから魔法陣の話を聞いたことがない。だからこそ、ラズリーを頼ったわけだが。
「魔法陣―?ああ、あの変な絵のことか。どうやって描くんだっけ?」
やはり予想通り、ルディは魔法陣には関心がないようだった。
俺も必要がなければ、魔法陣のことを思い出すことはほとんどなかったかもしれない。
だが、ここは魔法学院。そんなことを言うことはできない。
そう、試験があるのだ。
「魔法陣の試験もあるんだ。今日この場で復習しておいても良いのではないか?」
ルディのやつに提案してやることにする。
「そっか。試験か・・・。確かに。教えてくれよ、イシュバーン。」
「すまんな、俺もサンダーボルト以外のことは、魔法陣はおろか、詠唱も覚えていない。」
「ああ、お前はそういう男だったよ、イシュバーン・・・。」
二人はある意味で、似たものどうしだった。
「自慢でじゃあないが、そんなこと既にこのイシュバーンには想定済みだぜ、ルディ。」
そう言って俺は図書館から借りてきていた【魔法陣の基礎】という本を取り出す。
「おお、流石はイシュバーン!天才か!?」
そんな俺たちの非常にハイレベルな会話に誰となく周囲の目も白い。
―なぜかは知らん。
「とりあえず、ルディ。ストーンバレットの魔法陣でも描いてみればどうだ?」
「そうだな、よし、ストーンバレットか。」
そう言うと、魔法陣を描いていくルディ。
ルディの描く魔法陣を見ていて気が付いたが、魔法陣を描く際にはとても絵心というやつが重要であるのかもしれない。
ルディの描く魔法陣はぐにゃぐにゃだった。
「ルディ、もっと図は綺麗に描いた方が良いのではないか?」
「そうは言ってもよ?イシュバーン。どうやってたって俺の絵はこんなになっちまう。」
「・・・分かった、ならばそのまま一度完成させてみてはどうだろうか?」
「ああ、そうするよ、イシュバーン。」
そして、そのまま魔法陣を描いていき、ついにルディのストーンバレットの魔法陣が完成した!変な形をしているが。
―これは果たして魔法陣と呼ぶことができるものだろうか?
「よし。そのまま魔力を流し込んでみるんだ、ルディ。」
怖いモノみたさで、俺はルディに魔法陣を起動させるように促すことにする。
「ああ、見ておけよ、イシュバーン。」
そしてぽわんっと薄く光る魔法陣のような何か。
―ボフンッ!
大きな音を立てて土煙が上がり、泥まみれになる二人だった。




