6話
その日の午前の鍛錬を切り上げ、飯を食べに一度離れにまで戻って来た。
ありがたいことに、飯はメイドが別邸から持ってきてくれる。
最近ボアを狩る機会がなかったので、もし見つけることができれば、今日の午後狩るか。
しばらくサンドバッグを使用した鍛錬よりも、防御力を向上させる鍛錬を中心に行いたい。
全身に魔力を集中させることができれば、結果として攻撃力も増すかもしれない。
黙々とメイドから受け取った飯を食いつつ、午後のプランを考えることにする。
午後はボアの姿が見えれば狩るし、ボアがいなければ午前の鍛錬を継続しよう。
そして、あの電気が纏わりつく魔法?魔力集中?何といってよいか分からないが、あれの効果を知りたい。
鍛錬の相手としては、夕方に出てくるフライングバットがちょうどよいだろう。手ごろな相手にどの程度の効果があり、そしてどの程度の効果時間が持続するか検証する必要がある。
もしかすると、午後はレイスに遭遇するリスクがあるが、何度も森を訪れているが、遭遇したのはあの1回のみ。めったにないとは思うが、遭遇すれば全力で対処する必要があるので、念のため様々な種類のポーションは準備しておくことにする。
そういったことをつらつらと考えていると、飯をいつの間にか食い終えていた。
飯を食い終えて、午前に引き続き、午後も森へ来た。
森へ来てみると、レーダーを使用するまでもなく、ボアを見つけた。
ということは、ボアの方もこちらに気が付いているということである。
―当然
突進してきた!
せっかくの機会なので、俺は冷静に魔力を集中し、正面から受けて立つことにする。
ボアの突進をそのまま魔力の集中した体で正面から受ける!
―ガシッ
意外にも簡単にボアの突進を受け止めることができ、そのままボアを抱えこむ。
「ブオオオオオオン」
ボアがさらに前進しようと吠える!
―そういえば、俺にできるだろうか?いや、今の俺ならできる気がする!
伝説の「恐ろしく速い手刀」を充分にイメージし、ボアの首元に打ち込む!
俺でなきゃ見逃しちゃうねと評価されるほどのものかどうかは分からないが、しっかりとボアに手刀を打ち込むことができ、ボアが大人しくなる。
ボアを放すと完全に意識を失っているようだった。
「なるほど、こういう鍛錬の仕方もあるのか。」
だが、ボアの突進程度では少しもの足りないと感じた。そろそろ、迅雷を使わずにサラマンダーを狩ることを考えてもよいころだろうか?
俺は意識を失ったボアにトドメをさし、そのままズタ袋の中に入れる。ここで俺が解体してもよかったが、やはり餅は餅屋に任せるのが最善だろう。
いつも血抜きをしている小さな川で、先にボアの血抜きだけをすませておこう。
少し前までは、ボア1頭をズタ袋に入れて持ち運ぶことが難しかった。しかし今ではボア程度ならばあと数頭くらいは同時に持ち運ぶことができるかもしれない。いつの間にか、自分の筋力、あるいは活動力も鍛錬によって向上しているようだった。
その後、魔法陣を組み立て、何回かサンダーボルトを受ける鍛錬をしていると、いつの間にか日が暮れようとしていた。
―そろそろフライングバットが現れる時間だ。
フライングバットが現れる縄張りの位置は大体把握している。
フライングバットはこれまでにある程度狩っているが、特に数が減ることもなく、大体同じ場所を縄張りにしているようだった。もしかすると、この森には俺の考えている以上のフライングバットがいるのかもしれない。
縄張りの位置に急いで向かい、未だ魔物の気配がないことを確認し、大急ぎでサンダーボルトの魔法陣を完成させる。
しばらく、その場で待っていると、やがて、キイキイというあの独特の鳴き声が聞こえてきた。
―サンダーボルトを受けるまでもなく、あの電気を全身に帯びた状態を持続できないだろうか?
そんなことを考えながら、俺は魔法陣を起動させるのだった。




