4話
放課後、俺はラズリーを廊下前で待っていた。
ちなみに、実際に事件が起きるのもちょうどこの廊下前。
どのような経緯でセフィリアとラズリーが襲われたのかは明らかではない。
―しかし、日時ははっきりしている。
この場合重要であることは、俺がそれについて探ったりすることはせずに、俺は無関係であるというスタンスを崩さないことである。
もっとも、準備は決して怠らない。
今魔法陣を習得しようとしていることも、ある意味その準備であるといえる。
―自身の防御力を鍛えておくに越したことはない。
「―待たせたかしら?」
ラズリーが隣の教室から出てきた。セフィリアも一緒だ。
「それじゃあね、ラズリー。イシュバーン相手にあなたが後れを取るとは思えないけれど、くれぐれも用心しなさい。」
「ええ、大丈夫、心配ないわ、セフィリア。ご機嫌よう。」
「ええ、ご機嫌よう。」
セフィリアはこちらを一瞥し、去っていった。
「なあ、俺、セフィリアに何かしたか?」
さほど気にはならないが、俺はセフィリアに何か妙なことをしてはいないはずだ。
「ええ、あなた基本的に誰にでも同じような態度ですものね。猿に理解しろと言ったところで無意味なことは私でも分かるわ。」
すまし顔で言うラズリー。
「―猿ねえ。猿よりはましな生き物のはずだ。」
「それは猿に失礼というものよ、イシュバーン。」
他人からよく聞くラズリーはお淑やかで優しい性格であるということをよく聞くが、何度か話したことがあるが、俺の知っているラズリーは決してそんな性格ではない気がする。このラズリーは別人だろうか?
―確かに、そういう可能性もありうるな。今一度確認する必要があるだろう。
「ラズリー。俺の知っている君はお淑やかで優しいという評判だが、俺には決してそうは見えない。君は本当にラズリーか?」
「ほんっっっとうに貴方失礼ね!私の方が貴方より位が上なのよ?いい?それセフィリアなんかに言っちゃダメよ?貴方のために今私が言ってあげているの!貴方仮にもヘイム侯爵家の跡取りだったのでしょう?一体どういう教育を受けてきたの!?」
―全く害意はなかったのに、とても怒られてしまった。
「すまない、いや悪気があったわけではないのだ。今度は学食のランチでも奢ろう。」
「―もういいわ。段々、貴方って人が分かってきた気がするわ。」
おでこに手を当てて、はあ、と大きくため息をつくラズリー。
――まるでルディのようだ。
危うく声に出しそうだった。相手は公爵令嬢だ。気を付けなければ。
そのまま俺たちは魔法演習場へ向かう。
放課後も魔法演習場は開いており、魔法の訓練を行っている学院生が数人いるようだった。
「さっそく始めましょう。まずは貴方が習った魔法陣をここに描いてみて。」
「ああ。分かった。」
まずは大きく円を描いて、そこに魔法の起動、発動条件、発動の方向とそして地面からの距離を組み込んだ魔法陣を木の杖を使用して描いていく。
ちなみに、ラズリーは自身の血に宿る固有魔法によってこれらを含んだ魔法陣を素早く構成することができる。
考えてみれば、その血の力こそがラズリーが敵に狙われた理由かもしれない。
―なるほどな。
「そこ、集中しなさい!」
ラズリーに注意されてしまった。今は魔法陣を描くことに集中しなくては。
――そして、何とか魔法陣を描くことができた。
描き始めてから大体、5分くらい。実戦ではとてもじゃないが使用できない。
だが、今回は鍛錬に使用するものであるので問題ないのである。
「できたぞ。」
「・・・それで?」
「ここに俺の魔力を通すんだ。」
そう言って、俺は自身の魔力を魔法陣に流し込む。
すると。
ぽわッと魔法陣が光ったが、ただそれだけである。発動する気配はない。
「―それじゃ発動しないわよ。」
ラズリーが呆れた様子で言った。
「どういうことだ?」
「あなた講義で聞いていないの?魔法陣は最初に魔力を通して描く必要があるの。起動、発動条件、方向、位置、発動は正しく描けているけれど、魔力を通して魔法陣を描いていないんだから、魔法は発動しないわ。」
そう言って、魔力を通し、改めてラズリーはサンダーボルトの魔法陣を描いていく。
驚くべきことに、どういう原理か分からないが、ラズリーが指先を宙になぞっただけで地面に魔法陣が構築されていく。
「―これでいいわ。試してみて?」
俺はもう一度魔法陣に対して魔力を流し込む。
すると、魔法陣が起動し、バチバチッと的に向かって電撃が放たれたのである。
「おお~。助かった。」
思わず感動する。
「おお~、じゃないわよ。これくらい自分で気づきなさいよ。」
魔法陣について辛口のラズリーだった。




