3話
食堂とはいえ、魔法学院の食堂であるので、さすがにオーダー制である。
ラズリーは普段はどこで食べているのか知らないが、俺はほとんどルディと屋上で食うので、ほとんど食堂に来ることはない。
ラズリーは優秀な公爵令嬢としてよく知られ、俺は逆の意味で有名であるので、周囲がこちらの様子を伺っているのがよく分かる。
「そういえば、貴方、この前のランクマッチにはちゃんと出場したの?」
ラズリーがつまらなさそうに言う。
「ああ。ヒューヴァと1回戦だったな。」
「―ということは、ハーヴェルに続いてまた負けたのね?」
少し意地悪そうな顔をするラズリー。
「言っておくが、俺程度ではハーヴェルの相手にはならんぞ?」
ラズリーにとってどうかは知らないが、ハーヴェルに勝てる学院生など、ほとんどいないだろう。
「よく知っているわよ。ランクマッチの決勝戦が彼だったから。」
「やつの魔法剣はどう捌いた?」
俺は気になっていたことを聞く。
「魔法剣?ああ、貴方に使用したよく分からない魔法ね。ハーヴェルはランクマッチでは使用しなかったわ。」
「それでもラズリーと互角だったのか?」
「私も自分の固有魔法を使用していないもの。」
ラズリーは、自分の血の特性を利用して複数の魔法陣を展開し、氷の魔法「コキュートス」を放つことができる。
ゲームではラズリーの固有魔法とされ、どのような魔法であるのかは明らかではなかった。ただし俺は、原作の設定の説明によって魔法陣を瞬時に展開し、一瞬で広い範囲を凍結させるという魔法であることは知っている。
だが、原作中のセフィリアとラズリーの悲劇のイベントで、それを使用したのかどうかは明らかにされてはいない。
「それでも、ハーヴェルは間違いなく強かったわ。貴方ではあれに勝ち目はないわね。そうね、魔法剣―。あれはどういう魔法なのかしら。固有魔法のようにも見えたわ。ハーヴェルはあえて貴方には当たらないようにしたみたいだけど。」
――あれは間違いなく本気の一撃だったぞ、ラズリー。
ラズリーの言う通り、魔法剣も固有魔法の一種である。攻撃範囲はそこまで広い範囲ではないものの、当たれば大抵の敵を消滅させることができる。
「ふん、俺も見くびられたものだ。」
「言っておくけど、次にハーヴェルと模擬戦をやろうなんて思わないことね。殺されるわよ?」
「―殺し合いなら負けはしない。」
当然だ。転移魔法がない限り、俺の迅雷を防ぐことはできない。
「貴方のその妙な自信はどこから来るのよ・・・。」
呆れた様子で俺を見るラズリー。
「さあな。それより、魔法陣だ。以前サンダーボルトの魔法を魔法陣で試したところ、上手く起動しなかった。」
「貴方、サンダーボルトの魔法は詠唱で使えるのよね?」
「ああ。魔法は今のところ、それしか使えない。」
魔力を使用した魔法に似た何かなら、他にも使えることは内緒だ。
「魔法学院で貴方は何を学んでいるのかしら?・・・まあいいわ。魔法陣はここじゃ何だし、放課後また会いましょう。」
「すまないな、とても助かる。」
・・・ランチタイム後やはり腹が減って、結局いつものホットサンドを買うことになった。
昼の講義までまだ時間はある。
ルディが今どこにいるかは分からないが、もし屋上で食べていたとしても、もう食べ終えている時間だろう。
というわけで、屋上で俺は一人ホットサンドを食べることにする。
少し魔法陣の復習をしておこう。
サンダーボルトの魔法陣は覚えている。サンダーボルトの魔法陣を思い浮かべる。
発動条件は時間。そうだな、起動してから30秒程度で発動されるのがよい。
そして、その発動条件を組み込むための部分の図も覚えている。
俺の属性は雷。サンダーボルトの魔法陣に俺の魔力を通せば、魔法陣が起動するはずだ。
手順を思い浮かべたが、やはり何も間違ったところはないように感じた。
「やはり、ラズリーに確認するしかないか。」
ホットサンドを食べ終え、屋上を後にするのだった。




