2話
翌朝。
俺は学院に到着するや否や、隣のクラスに移動する。
ここの学院は予めカリキュラムが組まれているとはいえ、選択科目も多い。そのため、朝のホームルーム前が一番話しやすいタイミングである。
ガラッ
「ラズリーはいるか?」
何事かと隣のクラスの連中が俺を見る。
―いた。セフィリアと一緒か。相変わらず仲がいいことで何よりだ。
俺はラズリーの近くまでさっさと近づき、要件だけ話すことにする。
「何か御用かしら?」
公爵令嬢らしく、上品な言い方だ。要するに、お呼びではないということを暗に意味している。
だが、そんなことは気にしていられない。
「ラズリー、頼みがある。俺に魔法陣を教えてくれないか?」
「何で私が?この私がただで教えてあげると思って?」
―対価が必要か。
対価、そうだな。こういう時は飯というのが、前世からの俺の基本だ。というか、それしか知らない。
「ーいいだろう。学食の飯を奢ってやる。」
教室がざわめきだした。何かまずかっただろうか?
ラズリーを見ると、何か困ったような顔をしている。
「ちょっと。仮にも私、公爵令嬢よ?学食って何?あなたも一応貴族でしょうよ?」
「いや、すまない。咄嗟に思いついたのが学食の飯だったんだ。何か行きたいところはあるか?」
「・・・はあ。いいわ、学食で。」
さすがはラズリー、公爵令嬢である。
すると、またも教室がざわめきだした。
「いつがいいの?」
「今日この後の昼休みはどうだ?」
「セフィリア、問題ないかしら?」
セフィリアは困ったような顔をしながら。
「ラズリー、相手はあのイシュバーンよ?それに学食だなんて・・・。」
「しょうがないわ。こう人前で頼み事をされると・・・ね。」
「ラズリー、災難ね、あなたに同情します。」
何やら同情されるラズリー。
「はあ。いいのよ。心配しないで、セフィリア。ありがとう。」
何やら災難扱いされていることは気になるが、それは後で気にすればよいだろう。
「すまないな、ラズリー。では昼休みに。」
俺は短く礼を言い、さっさとその場を去ることにする。
「というわけで、ルディ。すまないが今日の昼飯は一人で食ってくれないか?」
自分のクラスに戻るや否や、俺はルディに軽く事情を話す。
「イシュバーン、相手は公爵令嬢だぞ?分け隔てなくお優しいことで有名とはいえ、お前にも優しいとは限らないんだぜ?そこんとこ分かっているのか?アイリスやプリムとは訳が違うんだぜ?」
ルディは意外と神経質なところがある。
「問題ない。ルディは心配性だな。」
「俺が心配しているのは、イシュバーン、お前じゃなくてだな・・・。何で俺がお前を心配する必要があるんだよ・・・。」
「心配するな、ルディ。そのうちストレスで倒れてしまうぞ?」
「誰のせいだよ・・・。」
ルディの泣き言は相変わらずだ。
「おっと。そろそろホームルームが始まる。」
俺は話をさっさと切り上げることにする。
そして、講義後、さすがにラズリーを待たせるわけにはいかないので、すぐに食堂に移動することにした。
食堂入り口で待っていると、ラズリーが一人で来た。ラズリーといえば、いつもセフィリアやその取り巻きと一緒にいる印象だが、珍しいことだ。
「それじゃ、さっさと行きましょう。」
「ああ。何が食いたい?」
「・・・そうねえ。本当に何でもいいのだけれど、この紅茶セットでいいわ。」
あえて一番安いメニューを選択するラズリー。
これはこの会食の重要性はその程度だと言いたいのかもしれない。
「分かった。紅茶セットだな。俺もそれと同じものにしよう。」
食事デートなどではないのだ。足りない分は後でホットサンドでも買えばよい。今回の用事は、あくまでも魔法陣についてである。
魔法陣の講義後、演習などで何度かサンダーボルトの魔法陣を何度か試してみたが、発動させることはできなかった。
その時は特に必要性を感じていなかったので、気にすることもなかった。しかし、今は俺自身を鍛錬するために、是非とも習得しておきたい技術であるのだ。




