1話
「―聞いているのか、イシュバーン。」
俺は今日の試合を振り返る。
あの時のアースランスのダメージは凄まじいものがあった。
今回は結界があったから良かったものの、結界がない状態で直撃していれば、ただ事ではなかったかもしれない。
―何か対策をしなければ。
そうだ!魔力集中。魔力集中を体全体に使用するのはどうだろう。
あれは集中している間は、放出しない限り魔力消費がわずかしかない。
今までは手足に集中させることしかしなかったが、体全体にするのだ。
いや、あるいは場合によって手足、あるいは体というように使い分けるか?
「イシュバーンよ。聞いているのかと言っている。」
―そういえば、夕食中だった。
「ああ、聞いているぞ、親父殿。」
―はて、何の話だったか?
「私が何を言ったのか申してみよ。」
「ああ。―何の話だったか?」
「はあ・・・。イシュバーンよ、どうしてお前はいつもそうなんだ?」
親父がため息をつく。まるでルディみたいだ。
―そんなことを言われても俺には分からないというのが本音だ。
「イシュバーン。お前は、今度はヒューヴァにも敗北したと聞いた。学院でお前より弱いはいないとまで聞いている。つまり、魔法学院で最弱であるのはお前だと。あと・・・、ルディとかいう子爵家の息子もいたか。」
「ふん、俺もルディも魔法学院ではそれなりにできる方だ。」
まったくそんなことはないが。
「侯爵家の跡取りは、既にイシュトで決まっている。イシュトはお前と違って努力を欠かさない。なあ、イシュバーン。俺は侯爵としてお前に言っているのではない。お前の父親として言っているのだ。お前、努力というものをしたことがあるのか?」
「努力だと?天才には必要ないな。」
「お前のどこが天才なのだ。そのよく回る口とハッタリと根拠のない自信しか取り柄がないではないか。」
「それだけあれば十分だろう?」
俺はニヤリと笑う。
「もういいよ、父さん。兄さんに何を言っても無駄だよ。」
イシュトが親父に声をかける。
「おお、イシュトよ。お前こそ侯爵家にふさわしい。我が子よ。」
俺はもう一度思考に集中する。
手足に魔力を集中させるのはあくまで攻撃のため。
アースランス一発であれほどのダメージを負うのだ。これからの敵はもっと攻撃力の大きい魔法や、あるいは範囲魔法、場合によっては大魔法を使用する連中すら出てくる。
その対策を立てねばならない。
新しい魔法を覚えるよりも、魔力集中を極めた方が話は早いだろう。魔力集中を手足にかけるだけで大きな攻撃力を得ることができる。防御力にも応用可能であるはずだ。
あとは、闘気か。これはぶっつけ本番になるかもしれないが、闘気も同様に体、あるいは体全体に集中させることができるかもしれない。
―と。
いつの間にか、飯を食べ終えていた。普段鍛錬を欠かさないせいか。
イシュトと親父の皿にはまだ半分くらいは残っている。
「では、俺はそろそろ行くぞ。」
「もう少しゆっくりして行きなよ、兄さん。どうせ離れでゴロゴロするだけだろ?」
――ゴロゴロなどしてはいられない。
「ふん、俺は忙しいのだ。じゃあな。」
離れに戻るや否や、いつものシャツとズボンに着替える。
これまでは手足に集中させていた魔力を今度は体に集中させてみる。
すると、意外にも、簡単に体に魔力を集中させることができた。
「これまでの鍛錬の成果か?」
―これなら思いのほか、早く習得できそうだ。
とすれば、問題はこの魔力集中でどの程度の防御力を発揮できるのかということである。
いざという時には闘気の存在があるが、未だ使いこなすことができていないものをアテにするのはあまり褒められたものではない。
――そうだ、魔法陣。あれがあればいつでも魔法の訓練ができるんじゃないか?
俺には魔法陣が得意なやつに一人、思い当たるやつがいた。
今回のランクマッチでハーヴェルと張り合った女。そう、ラズリーである。




