19話
親父と弟はすでに別邸に戻ってきているようだが、昨日は話すことはなかった。
朝のランニングを終えて軽く風呂に入り、玄関の前を通ると、セバスが玄関にいるのが見えた。
「おはようございます。坊ちゃん。」
「ああ。どうした?セバス。」
「本日の朝食ですが、ご当主様とイシュト様が昨日より戻られています。ご一緒されますか?」
「いや、前に言ったように今日の朝食はこっちで食う。悪いが、持って来させてくれないか?」
「かしこまりました。」
そう言ってセバスは別邸へ戻っていった。
―ランクマッチが近い。
ここ最近の鍛錬と実戦経験で、今の俺は何の縛りもなければヒューヴァには負けはしない。
しかし、ランクマッチなど、どこの誰が見ているか分からない。
今後セフィリアとラズリーの生贄イベントがあるので、それを考えれば、ランクマッチで迅雷はおろか、新しく身に着けた魔力集中も見せるわけにはいかない。
欠席しようかとも思ったが、ランクマッチは実際の魔法を、身をもって経験する良い機会なのだ。そのため、参加することにはしている。
問題はここでどういう戦い方をするかだが、ランクマッチ中に受けたダメージはある程度結界が肩代わりする仕様だ。
そして、ヒューヴァはファイアーボールとアースランスを主体として攻めてくるだろうが、魔力集中は使わず、何の強化もしない状態であえて魔法はサンダーボルト、武器は模造剣を使うつもりだ。
要するに、不得意な攻撃と素の地力だけでどれだけヒューヴァを追い詰めることができるか試してみることにする。
もちろん、体さばきや縮地といった、武道で使用するフットワークの類も使用しない。
とはいえ、体力の地力も向上しているので、たとえヒューヴァが相手であったとしても、簡単には負けはしないだろうと思う。
ハーヴェルとの模擬戦の時とは違い、今回のランクマッチに向けて特別何か準備をする必要はない。
実は、ヒューヴァとの模擬戦で闘気が使用できないか試してみたかったが、どうやらあれは実戦の時にしか使用できないといった性質があるのかもしれない。
瞑想をしても、レーダーを使用しても、あの時のような気の流れを感じることができなかったからだ。
「あるいは、俺の戦闘力が自在に使用できるレベルに達していないか、だな。」
当然、より強くなることで、いかなる時でも自在に使いこなすことができる可能性はある。
そのため、普段の瞑想などの訓練も欠かさないつもりでいる。
学院に着くと、プリムが話しかけてきた。
「ねえ、イシュバーン。次あなたヒューヴァとランクマッチじゃない。どうするの?」
「どうする、とは何が。」
何を言いたいんだ?
「この前ハーヴェルに負けたじゃない。お父様が、これ以上負けることは許ないんじゃないの?棄権したほうがいいんじゃないか、て思うの。」
「なんだ、そのことか。俺はもうとっくの昔に廃嫡されて婚約破棄を受けている身でな?」
そう言ってニヤリと笑う。
「・・・なんでそこで笑うのよ。」
「俺は元々こういう顔だ。おまえこそ、一回戦はルディとだろう。自分の心配をしたらどうだ?」
「せっかく心配してあげてるのに・・・。こんな変人、きっとヘイム様も気苦労が絶えないよね。」
ひどい言われ様だ。だが、事実でもある。
「まあ、ヘイム家にはイシュトがいるからな。心配ないだろう。」
「おーい。イシュバーン。」
誰かの声が少し遠くから聞こえた。
「なんだ、ルディか。」
どうやらルディのようだ。
「なんだって何だよ。・・・プリムもいたのか。」
ルディはこちらへ来て不満そうに言う。
「人をついでみたいに言わないで。ルディ、次のランクマッチは手を抜かないわよ。」
「・・・分かってるよ。」
ルディは少し自信がなさそうだ。
「大丈夫だ、ルディ。プリムごとき軽く捻ってやればよいのだ。」
俺は自信を持って言う。
「呆れた。それ本気でやれると思ってるの?」
プリムが目を細める。
こちらを呆れた様子で見るルディとプリムだった。




